CINEMASPECIAL ISSUE
ワン・チイと門脇麦の豊かな創作

上野を舞台に人と人との繋がりに迫る 映画『ゴースト・オブ・ウエノ』 ワン・チイ監督と門脇麦が追いかけたもの
8月8日(土)に公開を迎える映画『ゴースト・オブ・ウエノ』の監督を務めるのは、日本と中国にルーツを持つワン・チイ。12歳まで日本の東京で育ち、イギリスに渡ってロンドン芸術大学で映像制作を学び、今では国境を越えて映像作家として活動しているワン・チイが、『スモーク』(1995)などを手がけるウェイン・ワンが自作の取材のために来日した際、通訳兼アシスタントを任されたことがすべての始まりだった。ふたりは仕事をしながらさまざまな話をした。そして、ウェイン・ワンが東京で目撃したというホームレスの姿に着想を得て、上野公園を舞台に、“失踪”に焦点を当てながら人と人との繋がりに迫るヒューマンミステリー『ゴースト・オブ・ウエノ』の企画が生まれたという。
物語の軸となるソーシャルワーカーのサツキを演じたのは、門脇麦。物語もキャラクターも絶えず変わり続けたというユニークな創作を、ワン・チイと門脇麦が振り返る。
写真:徳田洋平 取材・文:佐藤ちほ 【門脇 麦】スタイリング:渡邉恵子(KIND) ヘアスタイリング&メイクアップ:伏屋陽子(ESPER) 衣装協力:シャツ、パンツ(いずれもノワール ケイ ニノミヤ)
確かではないものばかりの世の中で
──映画『ゴースト・オブ・ウエノ』のいくつかのモチーフから感じたところですが、ワン・チイさんは“確かではない”ものに惹かれる、あるいは創作意欲をかき立てられるのでしょうか。
ワン この世の中、確かではないものばかりだなと。そんな中でどう自分が本当だと思えるものを見つけていくのか。そういうことは常に考えています。『ゴースト・オブ・ウエノ』でホームレスや失踪した人たちを描いたのも、僕が本能的に、特定の場所にとどまらない人に魅力を感じているからなのかもしれません。ただ、“とどまらない人たち”の目線だけで描いてしまうと、一般の人とはかけ離れた目線の物語になってしまうと思ったので、門脇(麦)さんに演じてもらったソーシャルワーカーのサツキを。サツキは、“とどまらない人たち”と一般の人たちとの真ん中にいる。そんな状態にあるのが魅力的だと思っていました。
──サツキ役を門脇さんに託したいと思った理由は?
ワン 門脇さんの名前を挙げてくれたのはプロデューサーです。「こういう作品を理解できる役者さんを探さないといけない」と。つまり、この映画は多分、通常の日本映画とはまったく作り方が違ってくるだろうと。だからこそ、こういうプロジェクトを本心からやりたいと思ってもらえる役者さんじゃないと一緒には作れないと。プロデューサーから門脇さんが出演された『愛の渦』(2013)を勧められて観てみたら、本当にうまい役者さんだとびっくりして。門脇さんに演じてもらえたらすごいなと思ったのですが、正直、ダメ元だったというか。でも、オファーしてみたらすごくいい反応をいただけたんです。想像を超えた人がサツキ役を受けてくれるんだ、と思ったことを覚えています。僕、門脇さんに「本当にいいんですか? 来て、失望するだけですよ」ってずっと言っていましたね?
門脇 言っていました(笑)。
──オファーの時点で脚本の初稿はできていたのでしょうか。
ワン 脚本みたいなものはありましたね。中国語と英語で書いた脚本を日本語に翻訳して。うまく翻訳できていないものをとりあえず見てもらったんです。
──門脇さん、その最初の脚本を読んだ第一印象は?
門脇 正直な感想は、“よくわからない”というものでした。おっしゃっていた通りで、不確かなものや、まだ言葉にできていないもの、きっとこれからも言葉やはっきりとした形にはできないだろうものの集合体、という印象でした。ただ、撮るという作業、画にしていくという作業って具体化していくということじゃないですか。現場は大変になるだろうとその時点で腹をくくっていましたけど、それはあくまで自分の作業として。私、作品作り全体のことは不安がっていなかったですよね?
ワン 確かに門脇さんからの不安は感じなかったですね。
門脇 “面白そう!”と純粋に思って。参加したいと迷いなく思いました。
──門脇さんが“この作品に参加したい”と思う、いちばんの決め手となるのは?
門脇 私、基本の性格としては効率重視なんです。でも、こと創作においては“効率が悪い”ことがとても豊かなことだと思っていて。作品を作ると言っても、やっぱり仕事となると予算や時間の制限もあり、どうしても効率重視になるものです。でも本来創作においては、“はみ出ること”が大切だと思うんです。例え、はみ出た部分が人の目に触れることがなくても、創作の過程において“はみ出ること”が多ければ多いほど、その作品は分厚くなる。昔からずっとそう思っています。この映画はまさにそういう、“はみ出ること”を良しとした創作になるだろうなと。そういう作品に参加できる機会は本当に数少ないですから。10年に一度あるかないか、というぐらい。それで迷わず飛び込みました。監督がおっしゃったように、プロジェクトの面白さが決め手でした。

