CINEMASPECIAL ISSUE
監督:前田弘二×主演:宇野祥平

映画監督・前田弘二と俳優・宇野祥平 ふたりが出会って25年、25作目の共作 サスペンスコメディ『Man』ができるまで
映画監督の前田弘二、俳優の宇野祥平。同い年のふたりが出会ったのは2001年のことだ。脚本と監督を前田が、主演を宇野が務めた短編映画『ハナムグリ』(2001)を皮切りに、ふたりは映画やドラマを一緒に作り続けてきた。9月11日(金)に公開を迎える映画『Man』は、ふたりにとって25作目の共作。宇野が演じるのは、萩原護が演じる青年・小田を“いい男”にしようと、執拗に教訓と善意を押しつけてくる謎の男。果たして何者なのか、何が目的なのか──。肌を粟立たせつつ、ケラケラと笑いつつ、予想外の方向へと転がりゆく男たちの物語を満喫してほしい。
友人同士であり、映画監督と俳優という仕事仲間でもある前田弘二と宇野祥平。“25回目のものづくり”は、どんな経験となったのだろうか。
写真:徳田洋平 取材・文:佐藤ちほ
25年目、25回目のタッグで原点回帰を
──映画『Man』は終始ゾワゾワしながら笑え、かつ、思いがけず爽やかな感動を覚える作品でした。
前田・宇野 ありがとうございます。
──出会って25年、25作目の共作にして初めての<監督&主演>商業長編映画だとか。おふたりの出会いはどんなものだったのでしょうか。
宇野 当時テアトル新宿でバイトしていたんですっけ?
前田 新宿TSUTAYA(歌舞伎町DVDレンタル館※現在は閉店)のほう。
宇野 あ、新宿TSUTAYAか。そこで前田君と山田広野さんが出会いまして。
前田 映画監督の山田広野さんです。新宿TSUTAYAのバイトの先輩だった山田さんの映画の手伝いをしたんですよ。
宇野 僕はその山田さんの映画で、井の頭公園の木に縛られるという(笑)。
前田 撮影で、役で、です(笑)。
宇野 ちょっと過激な映画で(笑)。その時僕のケアをしてくれたのが前田君だった。
前田 そうだったかもね。
宇野 ちゃんとしゃべったのはその時が初めてでした。また当時、たまたま家が同じ方向だったんですよ。阿佐ヶ谷と高円寺で。それで、「飲みに行こう」となった。飲んだ後に前田君の家に遊びに行き、前田君が書いた脚本を読ませてもらったんです。
──前田監督はその頃、まだ映画監督ではなかったんですよね? でも、脚本は書いていらしたんですね。
前田 “なんか映画作りって面白いな”と思い始めたぐらいでした。山田さんの映画って、“その日に撮ってその日に上映する”みたいなスタイルだったんです。これは簡単にできそうだなと勘違いしました(笑)。それで、ちょっと脚本でも書いてみようかと。宇野君に「脚本を書いている」と話したら、家に来てくれて読んでくれた。それで、「自分で撮ったらええやん。俺を主演で映画作ってや」みたいな。
宇野 こう言うんですけどね。そんなに俺、偉そうに言ったかなぁ(笑)?
前田 え(笑)?
宇野 あの頃の前田君は本当に好青年で、すごく爽やかだったんです。いや、今もなんだけど(笑)、あの頃はほら、もっと若かったから。爽やかな好青年が書いた脚本が面白かったんですよ。また、「こんな爽やかな人からこんな話が?」と思うぐらい過激だった。前田君にはそういう、普段は見せないのに作品に出てくる“変”な部分があって。それをちゃんと観てみたいと思った。当時の前田君は「脚本家をめざしたい」と言っていたと思うんだけど。
前田 だったかなぁ? 何かしらの形で映画にかかわりたいと思っていたものの、僕は映画の学校にも行っていなかったので。とりあえず山田さんの見よう見まねで脚本を書いてみたんです。また、新宿TSUTAYAのバイト仲間には、脚本を書いている人とか、撮影をやっている人とか、いろんな人がいて。「脚本っていうのがあるんだ」と気づいた、ということだと思うんですけど。
宇野 僕も自主映画から始まっているんです。それで、「撮ったら? こんな面白いんだから」みたいに言ったのは覚えているんですが、「俺を主演で」なんて言ったかなぁ?
前田 俺の記憶の中では、「俺を主演で映画作ってや」です(笑)。ただ、僕はその時監督をやるつもりはなくて。宇野君に「撮ったら?」と言われて撮ってみて、できた映画がつまらなかったとしても、「言い出したのは宇野君だし」と言い訳できるからいいかと(笑)。それでちょっとやってみようかなと思ってやってみたんですが、あれは大変な撮影だったよね。
宇野 うん。
前田 スタッフは僕ともうひとりだけ。
宇野 『ハナムグリ』という映画なんですけど、これが今となってはあまり言えないような内容で。いや、かわいい映画なんですけどね。
前田 宇野君に演じてもらったのは、男を女装させるのが好きな女の子を好きになってしまった主人公。主人公にはそういう趣味はないんだけど、嘘をついて女装して好きな女の子に会いに行く、という話で。
宇野 やっぱり目の前にいる前田青年からは想像がつかなかった。この人からこんな物語が生まれるのかと。
前田 それが2001年のことでした。
──以来25年間、“宇野さんを主演に迎えて商業長編映画を撮る”という思いをずっと持ち続けていらした。
前田 「宇野君主演で、いつかやりたいね」という話はずっとしていました。
宇野 ただ、簡単にできることではないじゃないですか。自主映画ではなく、ということだし。それでもずっと言い続けてくれて、また、自分の作品で僕を役者として使い続けてくれた。前田君と出会っていなければ、どこかで役者を辞めていただろうと思うぐらいです。
──何がきっかけとなって企画が本格的に動き出したんですか。
前田 芳野(正朝)プロデューサーに呼び出されて飲んだ時、「1本、オリジナルでやりたいです」と言われたんです。僕が「宇野君主演でどうですか?」と言ってみたら、プロデューサーが「いいですねぇ」と。それが5年前のことですね。その後、すぐに企画は考え始めたんですが、実際に「あれをやりましょう」となったのは去年です。

──宇野さん演じる謎の男と、彼に尽くされる青年・小田(萩原護)の物語はすぐに思い浮かびましたか。
前田 考え始めたその日に一気に出てきました。宇野君はあらゆる役を演じていて。僕の作品でも刑事とかヤクザとか、いろんな役を演じてもらいました。宇野君がやっていない役はなんだろうと考え、謎の男はやっていないぞと。そして、宇野君の格好いい部分とおちゃらけた部分。繊細さとダイナミックさの全部が出せるようなキャラクターにしようと。単純に、僕が“こういう宇野君を観てみたい”と思うものを謎の男に詰め込んだ感じです。あと、劇画っぽさも出したかった。例えば、『Dr.スランプ アラレちゃん』に出てくる則巻(千兵衛)博士。渋いところとおちゃらけたところの両方があったじゃないですか。
宇野 ああ、あった。『ジャングルの王者ターちゃん♡』のターちゃんとかも。
前田 『キン肉マン』とかも。普段はおちゃらけているけど、たまに格好いい瞬間が劇画っぽくなる、みたいキャラクターが昔はよくいて。宇野君ならそういう劇画っぽさも発揮できると思って。ただ、謎の男の場合は則巻博士たちとは逆パターンにしてみました。もうひとつ言うと、何か異様なものが日常に忍び込んでくる感じ。そういう物語は自主映画の頃によく撮っていたんです。
宇野 そうだよね。
前田 宇野君主演の長編映画で原点回帰を、じゃないけど、日常に忍び込んでくる謎の男の話にしたいと思った。あの頃やっていたように今やってみようかなと。また今って、好みや価値観が似ている場合は簡単に繋がれますが、逆に、“理解できないもの”は排除されがちな時代じゃないですか。それは脚本を書き進めながら考えていたことで。それで、世代も価値観もまったく違うふたりの話にしたいなと。書きながら、考えながら、という感じでした。
──当て書きされた脚本を読み、宇野さんはどう感じましたか。
宇野 前田君はずっと撮りたいと言ってくれていたけど、映画ってわからないものじゃないですか。
前田 やりたいと思っていてもできない作品は山のようにあるし。
宇野 そう。だから5年前の時点ではまだどこかで、“うれしいけど、まだわからないな”と思っていて。多分、脚本をちゃんと読んだのは正式に製作が決まってからだったと思います。去年かおととしあたりかな。
前田 そうだね。
宇野 前田君が自主映画の頃に撮っていたものと、商業映画として撮ってきたものとが、いい意味でミックスされている。そういう感じがして、すごく面白いなと思いましたね。

