FLYING POSTMAN PRESS

監督:前田弘二×主演:宇野祥平

想像を超える瞬間こそが面白い

──前田監督が思う、本作の宇野さんのベストアクトは?

前田 全部いいんです。その中でも予測を超えたというか、イメージと違って面白かったのが誘拐されたシーン。謎の男がずっと笑うところがありますが、あれは実は脚本にはなかったんです。現場で宇野君が急に笑い始め、誘拐犯たちも“何を見せられているのか”という空気になり、なんかつられて笑い出すという。面白かったんです、それが。ただ、“これでいいのかな?”という迷いもあって、もう1テイクやってみたんですよ。結果としては“やっぱり、笑うやつが正解だ”となりました。あそこは衝撃でしたね。やっぱり宇野君はすごいなと思いました。

宇野 なんかあそこは笑っちゃいましたね。また監督は本当に、その場で起こったことを大事にしてくれるので。僕が笑ったのを面白がってくれて、それをちゃんと生かしてくれるという。

前田 予測できなかったことが作品に入ってくるのが面白いんです。謎の男が胸を叩くというのも、その場で生まれたものだったんですけど。

宇野 あそこも自分の中ではアドリブという意識はなくて。「謎の男はどんな雑誌を読んでいるのかな」と、監督が相談してくれたんです。僕と監督はふたりともプロレス好きなんですよ。そこからの発想で、「プロレスの雑誌とか」と。小道具として置かれていた1990年代のプロレスの雑誌に小橋健太さんが載っていて、そこからの影響です。

──小道具や衣装、美術などを通して演じる人物の趣味や嗜好、普段の生活を感じ取り、演技に生かす、ということですね。

宇野 そういうところからの影響はとても大きいです。各パートのみなさんにヒントをもらって、監督に演出してもらっています。

──宇野さんは本作を通じ、改めて、前田監督の作品の魅力をどう感じましたか。

宇野 さっき少し話しましたが、普段は本当に好青年なんですよ。いや、もう青年ではないんですけど(笑)。

前田 おじさんです(笑)。

宇野 言葉にするのは難しいですが、前田監督は普段は見せないのに作品にだけ出てくる“変”なところがあります。一緒に撮った最初の作品『ハナムグリ』から、25作目の『Man』まで、そういう“変”なところをずっと持ち続けて、ちゃんと作品に出せるのが本当にすごいと思います。

──現場で驚きの演出を受けることはありませんか。「ここでこんな動きをさせられるの?」といったことは。

宇野 あまりないですね。多分、具体で指示しないようにしているのかなと思います。いつも微妙な言い方をするよね?

前田 確かにそれはそうかも。自分ひとりで想像していたものを具体的に言葉にして提示してしまうと、そこで終わっちゃうじゃないですか。

──想像の先には行けない、と

前田 そうです。僕は役者さんとかスタッフが考えたことも現場で見てみたいんです。「そうか、こういう答えもあるか」と思う瞬間が好きなんですよね。

──自分ひとりでは到達できないところに、みんなの力が合わさって到達できることもある。それは映画作りの醍醐味のひとつかと思います。

宇野 本当に。

前田 自分ひとりで決めつけてしまうのはつまらない。みんなで考えたほうがより面白いですよね。役者さんだったり、美術だったり、撮影だったり、照明だったり。現場にいるみんなが演出家だと思っています。

──宇野さんも本作において、「想像を超えてきた」という瞬間はありましたか。

宇野 最初に「爽やかな感動があった」と言っていただいたじゃないですか。僕、撮っている時は爽やかな映画だとはまったく思っていなかったんです。でも、完成した映画は確かに爽やかだった。それは監督の力であり、スタッフの力であり、間違いなく萩原君のおかげでもあります。彼の力ですごく爽やかになったなぁと。

前田 小田役は難しい役だと思っていて。知らない男に尽くされ、「誰だ?」と恐怖しながらも取り繕い、最後には……と、ここから先は話せませんが、とにかく難しい役だなと。下手すると記号的にもなりやすい役で、それは避けたいと思っていた。誰に演じてもらえば小田が魅力的になるかなと悩んでいた時、『街並み照らすヤツら』というドラマで萩原君と一緒に仕事をしまして。彼いいなと思ったんですよね。

宇野 僕も共演していたんです。

前田 “あ、小田がいた”と思ったことを覚えています。小田役を萩原君にお願いできて本当に良かったです。