FLYING POSTMAN PRESS

岸井ゆきの×ツェン・ジンホア

外の世界の音に気づかせてくれる映画

──本作の原作である吉本ばななさんの短編小説「SINSIN AND THE MOUSE」はお読みになりましたか。

岸井 読みました。この映画は原作にかなり忠実で、原作の素敵な部分を落とし込めていると思います。ばななさんは台湾でも有名ですよね?

ジンホア はい。ただ、僕自身はオファーをいただいてから読みました。“これは自分も似たようなことを経験している”と思える瞬間が多くて驚きました。主人公たちと同じ境遇にあったことがあるとか、そういうことではなく、“感情の動き”に身に覚えがある場面が多かったんです。だからこそ、自分自身も登場人物の気持ちについていきながら読み進めることができました。

──映画では“音”という、映像作品だからこそできる表現を重視していますが、その点についてはいかがでしょう。

ジンホア “音”に注力して描くというのは監督の真壁(幸紀)さんのこだわりですが、とても面白いアプローチだと思っています。私自身は、音楽を聴くのがすごく好きだとか、そういうタイプではなく、どちらかと言うと自然音が好きです。今回の映画で、真壁さんがいろんな生活の音を取り入れながら演出されているのが面白かったですし、好きな演出方法だなと感じていました。観客のみなさんも好きになってくれるといいなと思います。

岸井 特に印象的なのが“声”についての話を取り入れているところです。原作にはない真壁さんのオリジナルの場面です。生きている人たちは“声”から忘れてしまうけれど、死んでいく時には聴覚が最後まで残るのだと。最後に持っていけるのは“声”だということを話すくだりがあって、その場面が特にいいなと思いました。原作小説に忠実にその世界観を大切にしながら、映像作品になった時により豊かになるよう、映画ならではのアプローチをしているのが素敵だなと。ちづみは、母を喪ってくよくよしている時には、あまり音が聞こえていなかったと思うんです。生活する中で本来鳴っているはずの音が聞こえていなかったのかなと。シンシンと台北の街がちづみに、“鳴っているよ”と気づかせてくれた。この映画を観終わったみなさんが、映画館を出た後に外の世界の音がより鮮明に聞こえるようになったらうれしいですね。そういうことが、映画を観てくださった方々へのギフトになるのかなと思っています。


岸井ゆきの(きしい ゆきの)

1992年生まれ、神奈川出身。近年の主な出演作に映画『ケイコ 目を澄ませて』(2022)、『若き見知らぬ者たち』(2024)、『佐藤さんと佐藤さん』(2025)、ドラマ『恋は闇』『火星の女王』(いずれも2025)など。秋公開の主演映画『すべて真夜中の恋人たち』は第79回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品された

ツェン・ジンホア

1997年生まれ、台湾宜蘭県出身。映画『返校 言葉が消えた日』(2019)で俳優デビュー。その後も映画『君の心に刻んだ名前』(2020)、『ハロー!?ゴースト』『疫起/エピデミック』(いずれも2023)、『我が家の事』(2025)などに出演。若手演技派俳優として注目を集める

『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』

https://www.culture-pub.jp/sinsinmovie/

2026年/日本/108分

監督・脚本・編集 真壁幸紀
共同脚本 加藤法子
原作 吉本ばなな「SINSIN AND THE MOUSE」(新潮社刊『ミトンとふびん」収録)
出演 岸井ゆきの ツェン・ジンホア ほか
配給 カルチュア・パブリッシャーズ

※6月26日(金)より新宿バルト9、シネスイッチ銀座ほかにて全国公開

©2021 Banana Yoshimoto.
Based on the novel by Banana Yoshimoto, published by Shinchosha.
Rights arranged through ZIPANGO, S.L.
©2026映画「SINSIN AND THE MOUSE」FILM PARTNERS