CINEMASPECIAL ISSUE
岸井ゆきの×ツェン・ジンホア
普通の人の心の変化を表現したい

──FLYING POSTMAN PRESSのコンセプトは<GOOD CULTURE, GOOD LIFE>です。ご自身の人生を豊かにしてくれたと思う作品は?
ジンホア 李相日監督の『悪人』(2010)という映画です。役者を始めてから最初の数年は、本当に自分が役者としてやっていけるのか、はっきりわかりませんでした。その頃、この映画に出会い、大きな影響を受け、役者としてしっかりとやっていきたいと思えた。自分にきっかけをくれた映画と言えます。本当に大好きな映画で、これまで6、7回は観ています。
──『悪人』のどんなところに魅力を感じますか。
ジンホア 特別な職業の人とか、特別な才能を持っている人たちを描いているわけではなくて、普通の人たちの心の変化や葛藤を描いていると思うんですね。そこが素晴らしいなと思います。この映画を観て、どんな感情がどう生まれ、どう変化していくのか、といったことをすごく考えるようになりました。『悪人』を観た後はいろんな役を演じながら、「『悪人』のあの役者みたいに演じればいいんだな」などと考えるようになって。『悪人』では狂気的に表現する瞬間もありましたが、私も役者として時にはそういう表現をしてみたいです。と言うのも、プライベートの自分は本当につまらない人間なので(笑)。その対比として、お芝居している時にはクレイジーなこともしてみたいと思ったりします。
──岸井さんはいかがでしょう。
岸井 たくさんあります。近年観た映画では、(フランシス・フォード・)コッポラ監督の『メガロポリス』(2024)が印象深いです。コッポラ監督が私財を投げ打ってまで「俺はこれを作るんだ!」と撮った映画で、その心意気が最高だなと。どのカット、どのショットを観ても、コッポラ監督が自分の好きなように撮っているのが伝わり、その点が面白いんです。例えば、映画の終盤にあるシーン。ある人物のマントが椅子に引っかかって倒れるシーンがあります。主人公ではないんですが、なぜか私はその人のことが忘れられなくて。あと、画面の右側で人知れずバイクに乗った人が倒れたシーン。もちろん、その人もメインのキャラクターではなくて。でも、そういうシーンがいいんです。あんなに壮大で長い映画で、あんなに大変なことばかり起きるのに、私は倒れたあの人たちのことをいまだに忘れられずにいる。また、そんなシーンに勇気をもらいました。「ああ、これほどにも自分の好きに撮っていいんだな、映画って面白いな」って。『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』にも、そういうシーンがあるといいなと思います。この映画では私たちが主人公を演じていますが、観た人たちの目に留まるのは私たちじゃないかもしれない。画面の端に映る何かに勇気をもらう人がいるかもしれない。そういうことが起こるのも映画なのかなって思います。

