CINEMASPECIAL ISSUE
岸井ゆきの×ツェン・ジンホア

岸井ゆきのとツェン・ジンホアがW主演 『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』 撮影現場で、言葉を超えて響き合う
吉本ばななの短編小説集『ミトンとふびん』に収められた一編「SINSIN AND THE MOUSE」を原作とした、日本と台湾の共同製作映画『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』が6月26日(金)より公開される。最愛の母を喪い、喪失感に苛まれるちづみが、旅先の台北で出会ったのはシンシンという男性。言葉を超えて響き合うふたりの繊細な感情の往復が、やがてひとつの再生の形を描き出していく。
ちづみ役に岸井ゆきの、シンシン役に台湾の人気俳優ツェン・ジンホア。劇中のちづみとシンシンと同様に、言葉を超えて響き合った撮影の日々を振り返る。
写真:小田原リエ 取材・文:佐藤ちほ 【岸井ゆきの】スタイリング:丸山 晃 ヘアスタイリング&メイクアップ:茂木美鈴 衣装協力:ジャケット 110,000円(カナコカキモト/info@kanakokakimoto.com) シャツ 88,000円 ビスチェ 52,800円 パンツ 93,500円(以上、すべてカナコ サカイ/info@kanakosakai.com) ピアス 75,900円 右人差し指リング 924,000円 右中指リング 23,100円(以上、すべてジョージ ジェンセン/ジョージ ジェンセン ジャパン/TEL0120-637-146) 【ツェン・ジンホア】スタイリング:Connie s. ヘアスタイリング:Isiah 倆佰立 メイクアップ:Ellie Hu 通訳:木藤奈保子 衣装協力:POST ARCHIVE FACTION/EGONLAB/De sidere 7.1/Dsquared2/HOGAN
言葉を超えて伝わる演技
──映画『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』の脚本を最初に読んだ際の感想を聞かせてください。
ジンホア この作品の前までは、テーマが重く、演じる役の気持ちもすごく複雑な作品に多く出演していました。大きな事件が起こるようなものではなくシンプルな作品にも出演してみたい、と思っていた時にちょうど、この作品の脚本を送っていただき、なんてラッキーなんだろうと思いました。まさに来てほしいと思っていたような作品だったので。ただ、ラッキーだと思いつつ、一方では驚きました。と言うのも、日本語を話すキャラクターのオファーだったので。日本の作品に出たこともない私に、日本語をこれだけたくさん話すキャラクターのオファーが届いたのはどういうことかと。これは本当に大きなチャレンジだと思い、正直最初は迷い、葛藤もしたんですけど、これまでやったことのないものにがんばって挑戦してみようと。もともと、それが私の初心ですから。
岸井 確かに、作品の中で大きな変化があるわけではないんです。エンタテインメントだったり、スペクタクルがあったりするわけでもなくて。この作品が描いているのはシンプルなことだと思います。誰か大切な人を喪うという経験は、誰しもあると思います。そんな時、再生へのきっかけを作ってくれるのは、新しく出会った人だったり、新しい景色だったりするということ。私が演じるちづみは母親を喪った女性です。ちづみは一歩踏み出して台北に行き、シンシンという彼女の人生の新しい登場人物に出会い、『君は小さいからいいんだよ』と言われます。このシンプルな言葉をかけてもらうことが、ちづみにとっては出口を見出せる一歩になった。もしも、ちづみが“母の不在”を抱えたまま日本にいて、いつもの友だちに同じ言葉をかけられたとしても響かなかっただろうなと思います。ちづみは“母の不在”を抱えていますが、同じ状況でなくても、生きていると何かを抱え込んでしまって下を向いてしまう瞬間があると思うんです。そういう時にふと何気なくもたらされる、シンプルで、それでいてとても大切なこと。それが描かれていると感銘を受け、みなさんにもこの作品を通じて伝えられたらと感じました。
──ジンホアさんはご自身が演じたシンシンの人物像をどう感じましたか。
ジンホア 日本語を話す、というところだけではなく、とにかく演じるのが難しい役だと感じました。気持ちの起伏がすごくあるわけでもないですし、才能があるわけでも、身体的特徴があるわけでもありません。本当に“日常を生きている人”という印象でしたね。この作品の中でシンシンが置かれる状況も珍しいものではなく、人生のどこかで一度は向き合うような状況です。新しい人と出会い、その出会いによって火花が散るという。1日という短い時間の中で、そういうことが起こる。ただ、状況としては珍しくはないのですが、とても細やかな表現が必要になるだろうなと思いました。それで、これは難しい役だなと。
──岸井さんは、ご自身が演じたちづみと母親との関係性をどう感じていましたか。
岸井 ちづみとちづみの母の関係性は、私自身が思っている“娘と母の関係性”よりも距離が近いというか、お互いに、自分の一部になっているような気がします。絡み合ってしまっているというか。だからこそ母を喪ったことで、ちづみは彼女自身の半分が削ぎ落とされたような感覚に陥ります。ちづみを演じる上では、この点を大事にしたいと思っていました。ちづみが大きな喪失感を抱えていないことには、物語が始まらないので。

──共演してみて、それぞれの演技の魅力はどんなところにあると感じましたか。
ジンホア eyes.
岸井 目?
ジンホア そう、目から感じました。こうしてインタビューを受けながらも、岸井さんがどんなことを話しているのか理解したいと思って一生懸命聞くんですけど、やっぱり自分の今の日本語のレベルだと理解が追いつかなくて。同じように、この作品の現場では言葉で理解できないことがすごく多かったんです。ちゃんと理解してお芝居できるように、岸井さんの台詞を覚えたり、日本語の先生に岸井さんの台詞を担当してもらって読み合わせしてみたり。そういうアプローチはしてみましたが、結局のところ、いざ現場でお芝居を始めたら“目”でしたね。目から岸井さんのお芝居の魅力を感じる瞬間がたくさんありました。
岸井 残念ながら完成した映画ではカットされたところですが、シンシンとちづみが一緒に服を見にいって、シンシンがちづみに『すごくいいよ。似合うよ』と言ってくれるシーンがあって。
ジンホア 残念ながらカット。
岸井 そう、残念ながら。『いいね』じゃなくて『いいよ』なのがいいんです。
ジンホア 『いいよ』。
岸井 そう、『いいよ』って。日本語で普通に言うとしたら、『いいね、いいね』とかだと思うんです。でも、彼は『いいよ』って。その言葉のチョイスと言い方がすごくいいなと思いました。シンシンのやさしさとか、にじみ出るものが多い台詞だったなと。あの『いいよ』が出てきた瞬間は、私にとってはすごく物語る瞬間でした。もうひとつ印象深いのが、台北の街をふたりで歩いていたら雨が降り出し、シンシンが『雨を待ちましょう』と言うところ。その台詞を言う前に、シンシンは自分の手をちづみの頭の上にかざし、雨から守ってくれるんです。あのシンシンの行動は脚本に書かれていたものではなく、たまたま現場でジンホアさんがやって、「それ、いいね」と本番でも生かすことになったものです。そういう、言葉を超えた部分でのコミュニケーションがこの現場では多くありました。ジンホアさんが言うように、目と目でコミュニケーションを取る瞬間もありましたし、行動で伝えることも多くあったと思います。


