CINEMA
運命の転換点を描いた映画

走り出したらもう止まらない 映画を変えた、国の未来が決まった瞬間
この夏注目したいのは、実際に起こった出来事から着想を得た映画。<ヌーヴェルヴァーグ>を代表する傑作の制作過程を描いた1本に、昭和16年の日本を舞台に“開戦前夜”の空気を映した1本。運命の転換点を描いた2本の秀作を紹介する。

リチャード・リンクレイター監督最新作 映画を変えた傑作、その型破りな創作過程
『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離 』(1995)、『ビフォア・サンセット』(2004)、『ビフォア・ミッドナイト』(2013)からなる珠玉の恋愛3部作や、『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)などを手がけるリチャード・リンクレイター監督の最新作。1950年代後半にフランスで台頭した若き監督たちによる映画運動<ヌーヴェルヴァーグ=新しい波>の決定打となった傑作、ジャン=リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』(1960)はどのようにして誕生したのか。その型破りな制作過程を、軽やかでバイタリティに溢れた語り口と映像で伝えている。
ゴダール役、そして、『勝手にしやがれ』の主演を務めたジャン=ポール・ベルモンド役には、新人俳優のギヨーム・マルベックとオーブリー・デュランをオーディションを経て抜擢。ベルモンドと共に『勝手にしやがれ』の主演を務めたジーン・セバーグ役には、『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(2016)でリンクレイターと組んだゾーイ・ドゥイッチ。時に戯れ、時に衝突しながらも、かつてない創作に取り組む3人のアンサンブル演技は見どころのひとつとなっている。
<ヌーヴェルヴァーグ>当時の映像スタイルを模した横縦比1.37:1のモノクロ映像、VFXも巧みに使って再現した当時のパリの街並み、緻密に仕立てられた衣装と美術にも注目を。
point of view
既存の映画撮影のルールに抗うようにノンプロの俳優を起用し、自由な発想によるロケーション撮影や即興演出も実践した映画運動<ヌーヴェルヴァーグ>。その作品群は、大手スタジオの伝統的なスタイルで撮影された映画とはまったく違っていた。今観ても、その異質の躍動感と瑞々しさには驚かされる。
そんな<ヌーヴェルヴァーグ>の旗手のひとりであるジャン=リュック・ゴダールが、長編監督デビュー作として撮った『勝手にしやがれ』。ゴダールは今でこそ神格化されているが、当時は28歳の名もなき青年だった。型にはまった演技を嫌い、リハーサルをしないどころか、それ以前に脚本すらない。ゲリラ撮影や即興演出を好み、インスピレーションが湧かない時には撮影を休むことも。そんなゴダールのやり方にプロデューサーやスタッフ、主演のセバーグは困惑を隠せない。それでも、その現場には何かがあった。誰ひとりとして完成形を想像することはできないが、その現場には“映画作り”の夢と情熱が確かにあったことが、本作を観るとよくわかる。
あの日、あの時、新しい何かを生み出すのだと情熱を傾けた瞬間を描いた1本。伝記映画とはまた違う。観客が胸を熱くする、青春映画の秀作がまたひとつ生まれた。

『ヌーヴェルヴァーグ』
https://nouvellevague-movie.com
2025年/フランス/106分
| 監督 | リチャード・リンクレイター |
|---|---|
| 出演 | ギヨーム・マルベック ゾーイ・ドゥイッチ オーブリー・デュラン ほか |
| 配給 | AMGエンタテインメント |
※7月10日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国公開
©2025 ARP - Detour Development LLC ©JeanLouisFernandez

日本の敗戦は若者たちに予見されていた 政府に召集された若者たちの極限のドラマ
猪瀬直樹によるノンフィクション書籍「昭和16年夏の敗戦」を原案に、かつて日本に実在した機関・総力戦研究所と、日米開戦への流れを描いた人間ドラマ。昨年8月に放送されたNHKスペシャル「シミュレーション〜昭和16年夏の敗戦〜」のドラマパート前後編計98分に、約40分のシーンを追加した完全版としてこの夏スクリーンへ。石井裕也が監督・脚本・編集を務めている。
この知的なサスペンスには、日本映画に欠かせない俳優たちが集結している。総力戦研究所に召集されたひとりである宇治田役の池松壮亮をはじめ、仲野太賀、岩田剛典、中村蒼、三浦貴大、國村隼、佐藤隆太、江口洋介、佐藤浩市らが、運命の分岐点で葛藤する人間たちを体現する。
真珠湾攻撃の4カ月前、若きエリートたちによって日本の敗戦はすでに予測されていた。それなのになぜ、日本は戦争へと突き進んでいったのか。あの時代に若きエリートたちが命懸けで臨んだ頭脳戦。知略と感情が複雑に入り混じる、極限のドラマがここに。
point of view
1941年(昭和16年)4月、真珠湾攻撃の4カ月前のこと。官僚・軍・民間から若きエリートたちが、内閣総理大臣の直轄機関「総力戦研究所」に召集された。与えられた任務は、日米が開戦した場合の戦局をシミュレーションし、その結果を内閣に報告するというもの。「総力戦研究所」は実在の機関であり、本作が描く任務も実際にあったという。
本作に登場する若きエリートたちは、表向きは自由闊達な議論が許されていたものの、その実、圧力がかかっていた。自分と大切な人たちを守るべきか、権力に立ち向かって信念を貫くべきか──。池松壮亮演じる主人公の宇治田のように、正論と忖度、理性と情熱の狭間で引き裂かれそうになりながら究極の選択を迫られた人が、当時の日本にはいたのだろう。何より恐ろしいのは、このまま突き進めば破滅するとわかっていても止められないという“時代の空気”だ。すべて過去の出来事のはずなのに、“今”リアルに感じられることが心底恐ろしい。過去から“今”に問いかける1本を観て何を思うのか。鑑賞後に芽生えた思いを大切に留めたい。

『開戦前夜』
2026年/日本/138分
| 監督・脚本・編集 | 石井裕也 |
|---|---|
| 原案 | 猪瀬直樹「昭和16年夏の敗戦」(中央公論新社刊) |
| 出演 | 池松壮亮 仲野太賀 岩田剛典 / 國村 隼 佐藤隆太 江口洋介 佐藤浩市 ほか |
| 配給 | 東京テアトル |
※7月31日(金)より全国公開
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