FLYING POSTMAN PRESS

世界には、こんな面白い映画がある

普段はなかなか触れることがない
さまざまな国の映画を観て楽しむ

 普段は日本映画やハリウッド製作の映画をよく観ている、という人が多いはず。でも、当然ながら、映画は世界中で作られている。今年の夏公開される映画の中には、普段は触れる機会が少ないだろう国で作られたものも。アイスランド、リトアニア、イラク、タイ、オーストリアから届けられた良作を紹介する。



アイスランドの片田舎、ある家族の日常
変わりゆく夫婦、失われてもなお残る愛

 19世紀のアイスランドを舞台に若き牧師の布教の旅を壮大なスケールで描いた『ゴッドランド/GODLAND』(2022)で注目された、アイスランド出身の気鋭の映画監督フリーヌル・パルマソン。第78回カンヌ国際映画祭への正式出品を経て、第98回アカデミー賞のアイスランド代表作にも選ばれた最新作が日本で公開へ。片田舎に暮らすごく普通の家族の日常を移りゆく四季の景色と共に、時にブラックに、時にシュールに、時にユーモラスに描き出す。

 芸術家の母アンナを演じるのは、コメディアン、俳優、歌手と幅広く活躍するサーガ・ガルザルスドッティル。その元夫で3人の子どもの父マグヌスを演じるのは、『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』(2017)のボルグ役で注目を集めたスベリル・グドナソン。さらに、アンナとマグヌスの3人の子どもに、パルマソン監督の実子であるイダ・メッキン・フリンスドッティル、グリムール・フリンソン、ソルギス・フリンソン。パルマソン監督の愛犬のパンダも“愛犬パンダ役”として出演し、第78回カンヌ国際映画祭でパルム・ドッグ賞を受賞している。

 もう夫婦じゃない。でも、“まだ家族”な日常がここに。変わりゆく夫婦と家族の形、失われてもなお残る愛を描くビターでスウィートな1本が誕生した。


point of view

 特別なことは何も起こらない。ただ、アイスランドの片田舎で暮らす家族の日常を映していくだけ。芸術家のアンヌは表現者としての道を模索し、もう夫婦ではなくなった元夫のマグヌスは何かと理由をつけては訪ねてきて、一緒に食事をし、ピクニックまでついてくる始末。もう夫婦ではなくなった。それでも“まだ家族”な日常はなんだか笑えて、同時に“失ってしまったもの”を突きつけられ、切ない気持ちにもなる。フリーヌル・パルマソン監督の視点はやさしいが、観客を甘やかしはしない。時にはブラックになり、それが主人公家族の日常により深い陰影をつけている。家族は決して不変ではない。絶えず形を変え続けるものなのだろう。それでも、愛は残る。そうしみじみと感じられる1本だ。

『きれっぱしの愛』

https://gaga.ne.jp/kireppashi_ai_NOROSHI/

2025年/アイスランド・デンマーク・スウェーデン・フランス/109分

脚本・監督 フリーヌル・パルマソン
出演 サーガ・ガルザルスドッティル スベリル・グドナソン ほか
配給 NOROSHI ギャガ

※7月3日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開

©STILL VIVID, SNOWGLOBE, HOBAB, MANEKI FILMS, FILM I VÄST, ARTE FRANCE CINEMA

1992年、ソ連から独立したリトアニアへ
母の故郷を訪れたアメリカの少年の物語

 舞台は1992年、ソ連からの独立を果たして間もないリトアニア。母と共に母の故郷であるリトアニアを訪れた、アメリカで生まれ育った12歳の少年の視点から、故郷を巡る記憶や葛藤、移りゆく時代の狭間を生きる人々の姿を映していく。本作で長編映画監督デビューを果たすのはトーマス・ヴェングリス。アメリカのワシントンD.C.でリトアニアからの移民の子として生まれ育ったヴェングリス自身の経験が、物語やテーマに反映されている。

 主人公の少年コヴァスを演じるのは、ヴェングリスと同じくアメリカで生まれ、家族のルーツであるリトアニアを身近に感じながら育ったマータス・メトレフスキ。初めて足を踏み入れた母の故郷で揺れ動くさまをリアルに伝えている。コヴァスの母ヴィクトリアを演じるのは、リトアニアを代表する俳優セヴィリヤ・ヤノシャウスカイテ。記憶の中の故郷と現実の故郷がせめぎ合う中、失われたものを取り戻そうとするさまを繊細に体現している。

 故郷だけれど、初めて過ごす場所。きらめきと胸のざわめきが入り混じるひと夏の物語がここに。


point of view

 主人公コヴァスはファーストキスを夢見たり、少し年上で少し悪そうな人たちと仲良くなりたいと思ったりする、思春期に差しかかったばかりのアメリカの少年。そんなコヴァスが生まれて初めて、母ヴィクトリアの故郷を訪れる。ソ連から独立したばかりで、理想と現実の間で揺れ動いていたリトアニアへ。当時のリトアニアで人々はどう暮らし、何を思っていたのかを見つめる映画であり、同時に、“子どもが子どもでいられなくなる瞬間”を描いた青春映画でもある。目の前にある現実と向き合わず、記憶を美化して理想化しているかのような母親を見つめながら、少年は母親もまた欠点を抱えた複雑な人間なのだと気づき、その事実を受け入れ、ひとつ大人になっていく。とても個人的な物語でありながら、普遍的な青春模様を描く物語を深く味わいたい。

『MOTHERLAND』

https://motherland-gimtine.com

2019年/リトアニア・ラトビア・ドイツ・ギリシャ/96分/PG12

監督・脚本 トーマス・ヴェングリス
出演 マータス・メトレフスキ セヴィリヤ・ヤノシャウスカイテ ダーリウス・グマウスカス バルボラ・バレイキテ ほか
配給 太秦

※7月4日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開

©2019 Studio Uljana Kim / Locomotive Productions

1990年代、独裁政権下のイラク
大統領のケーキ係に選ばれた少女の奮闘

 第78回カンヌ国際映画祭においてカメラ・ドール(新人監督賞)と監督週間観客賞をW受賞し、第98回アカデミー賞国際長編映画賞のショートリストにも選出。長編映画監督デビュー作となった本作で、そんなイラク映画史上初の快挙を次々と成し遂げたのは、イラク出身の脚本家で映画監督のハサン・ハーディ。1990年代、サダム・フセイン大統領による独裁政権下のイラクを舞台に、小学校でくじ引きをし、大統領の誕生日ケーキを作る係に任命されてしまった少女ラミアの奮闘を描き出す。

 主人公のラミアとその親友サイードを演じるバニーン・アハマド・ナーイフ、サッジャード・モハンマド・カーセムをはじめ、キャストはほぼ全員が演技未経験者。演技というより、本当にその場を生きているかのようで、登場人物の感情がリアルに伝わってくる。さらに、エデンの園のモデルとも言われるメソポタミア湿地帯での撮影も敢行。フセイン政権に反対する勢力が逃げ込んだために、政権によって干上がらせる工事が行われ、面積の90%が失われた同地を主舞台としたことで、映画にさらなるリアリティと強いメッセージが備わった。

 勇気と知恵だけを武器に目の前の困難に立ち向かっていく少女と少年。そのたくましさと生命力に胸を揺さぶられる。


point of view

 時は独裁政権下、国民の多くは経済的に困窮。祖母と暮らす主人公の少女もそのひとりで、日々の食卓さえままならない中で超高級品であるケーキを用意せよ、と命じられたわけだ。しかも、ケーキを用意できなかったら罰せられる。そんな理不尽がまかり通っていたことに驚いてしまう。追いつめられた祖母はケーキの材料を買うためと偽り、少女を町へ連れ出す。その本当の目的は少女を養子に出すことだった。少女はケーキの材料を揃えられたら祖母と暮らし続けられると信じ、親友の少年と共に奮闘する。

 少女と少年の勇気と健気さに胸を打たれ、その強さに圧倒された。社会的なメッセージは備えながらも、軸は人間を描くことにあるというのも本作のポイント。人間の心がどう揺れ動き、他者や世界とどう繋がっていくかを丹念に描いている。シンプル・イズ・ベスト、物語というものの本質を伝える1本だ。


『大統領のケーキ』

https://movies.shochiku.co.jp/presidentscake

2025年/イラク・アメリカ・カタール/105分/PG12

監督・脚本 ハサン・ハーディ
出演 バニーン・アハマド・ナーイフ サッジャード・モハンマド・カーセム ワヒーダ・サーベト ラヒーム・アルハジ ほか
配給 松竹

※7月10日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国公開

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