FLYING POSTMAN PRESS

世界には、こんな面白い映画がある

人間と幽霊による壮大な愛と抵抗の物語
奇想天外なタイ式ゴースト・ストーリー

 タイのバンコクで生まれ育ったラッチャプーム・ブンバンチャーチョークの長編映画監督デビュー作にして、第78回カンヌ国際映画祭では批評家週間においてグランプリを獲得。さらに、第98回アカデミー賞では国際長編映画賞のタイ代表作品に選出されるなど、世界的に高く評価された1本。

 死後も現世にとどまり、夫と禁断の愛を深めていった女性にまつわる物語、タイでは知らない人のいない怪談「メー・ナーク・プラカノーン」に着想を得て、愛する妻を亡くした男性と、掃除機に宿って彼のもとへ戻った妻が繰り広げる壮大な愛と抵抗の物語を描いていく。

 掃除機に宿った亡き妻を演じるのは、やはり「メー・ナーク・プラカノーン」の怪談に着想を得た『愛しのゴースト』(2013)で知られるダビカ・ホーン。国際的なファッションアイコンでもあるダビカ・ホーンが、その圧倒的なビジュアルと繊細さをもって難役を魅力的に表現している。

 コメディ、ロマンス、ホラー、SFと、さまざまなジャンルを大胆不敵に行き来しながら、現代社会の歪みもあぶり出していく1本。独創的な世界に驚かされること請け合いだ。


point of view

 死んだ後、掃除機に宿って夫のもとに帰ってくる妻なんて、どんな変態的天才な発想だと感心してしまう。観進めるほどに“どんな映画なのか”の印象が変わっていくのも面白い。ロマンティック・コメディなのかと思いきや、ホラー、SFとも言えるし、もっと言えば、社会派映画の様相も呈している。監督と脚本を務めたラッチャプーム・ブンバンチャーチョークは、第78回カンヌ国際映画祭で批評家週間のグランプリを受賞した際、「(この映画とグランプリ受賞を)役に立つ幽霊もそうでない幽霊も含めて、タイのすべての幽霊に捧げたい」と語っている。なんだかよくわからないけれど、すごそう。そう思った方はぜひ映画館へ。インパクト大の映画体験となるはず。


『ユースフル・ゴースト』

https://sundae-films.com/useful-ghost/

2025年/タイ・フランス・シンガポール・ドイツ/130分/R15+

監督・脚本 ラッチャプーム・ブンバンチャーチョーク
出演 ダビカ・ホーン ウィットサルート・ヒンマラート アパシリ・ニティポン ワンロップ・ルンカムチャット ウィサルット・ ホームフアン ほか
配給 SUNDAE

※7月10日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開

©2025 185 FILMS, HAUT LES MAINS, MOMO FILM CO.

オーストリア出身の新鋭が放つ
承認欲求を皮肉るダーク&ポップコメディ

 繊細で風変わりなユーモアを持ち味とする短編で映画各賞を受賞してきた、オーストリア出身の新鋭ベルンハルト・ウェンガーによる長編映画監督デビュー作。2018年に日本を訪れ、“友達代行サービス”の実態を徹底的にリサーチした上で作り上げた本作で、アイデンティティの喪失や表層的な人間関係といった現代的なテーマを鋭く風刺する。

 どんなシチュエーションもこなせる理想的な人物を提供する代理店「マイ・コンパニオン」のトップパフォーマーである主人公マティアスを演じるのは、『西部戦線異状なし』(2022)で高く評価されたドイツ人俳優アルブレヒト・シュッフ。求められるままにさまざまな人格として日々生きる中で自分自身を見失う主人公を、繊細に人間味豊かに体現する。

 第81回ヴェネチア国際映画祭の批評家週間に出品されたほか、第98回アカデミー賞では国際長編映画賞のオーストリア代表に選出され、世界で高く評価されると共に現代人たちの共感を誘った1本。“イケてる人と一緒にいたい”のではなく、“一緒にいると思われたい”。そんな、現代社会を生きる人々の歪んだ承認欲求を皮肉る、ダークかつポップなコメディに仕上がっている


point of view

 本作が深掘りするのは、現代人の歪んだ承認欲求だ。“どんな自分になりたいか”ではなく、“どんな自分として見られたいか”に支配されてしまった人々を痛烈に皮肉っている。オーストリア出身の新鋭ベルンハルト・ウェンガーの作風は、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(2017)や、『逆転のトライアングル』(2022)を手がけたリューベン・オストルンドを彷彿とさせる。恋人に「本当のあなたを感じない」と指摘され、別れを告げられてからというもの、完璧を装っていた仮面がみるみる剥がれ落ち、空虚な自分に気づいてうろたえまくる主人公のマティアスはだいぶ“笑える”が、同時に“笑えない”。その愚かで滑稽な姿は現代を生きる人たちにとってはどこかしら身に覚えがあるもので、絶妙にいたたまれない気分にさせられる。現代のブラックコメディの名手がまたひとり誕生した。

『PEACOCK/ピーコック』

https://culturallife.co.jp/peacock

2024年/オーストリア・ドイツ/102分

監督 ベルンハルト・ウェンガー
出演 アルブレヒト・シュッフ ユリア・フランツ・リヒター テレサ・フロスタ・エッゲスボ ほか
配給 カルチュアルライフ

※7月24日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほかにて全国順次公開

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