FLYING POSTMAN PRESS

作家性が強い日本映画の新鋭たち

強く生き抜く女性、日常を記憶する家族
日本映画の新鋭たち、その才能と作家性

 長編第1作、長編第2作と、映画監督としてデビューして間もなくながら、才能を発揮する新鋭たちに注目。激動の時代を強く生き抜く女性を描いた物語に、家族の日常を記録して記憶する物語。作家性に満ちた新作映画を楽しみたい。



激動の時代を生きるシングルマザー
信念を貫き、自ら人生を切り拓いていく

 10代で単身イギリスに渡って映像制作を学び、長編映画初監督作『AFTERGLOWS』(2023)で注目を集めた木村太一が原案と監督を担う長編第2作。MEGUMIの企画・プロデュースのもと、木村監督自身の母親の人生に着想を得て、1970~80年代の静岡を舞台に、シングルマザーの富士子が社会規範に抗いながら人生を切り拓いていく姿を描き出す。

 富士子を演じるのは、映画『茜色に焼かれる』(2021)の演技が高く評価された片山友希。さらに、YOU、リリー・フランキー、うじきつよし、竹下景子、イッセー尾形、岸本加世子ら個性と実力を併せ持ったキャストが集結。製作を担うMEGUMIも出演し、映画を盛り立てる。

 スタッフも強力な布陣を敷いている。撮影は、King Gnuやmillennium parade などの写真やMVを手がける川上智之。編集は、Disney+ドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」(2024〜)でエミー賞を受賞した三宅愛架。King Gnuの常田大希や幾何学模様のポパルダウド明が手がけた、映画をロックに彩る劇中曲にも注目を。


point of view

 女性の社会的地位が今よりずっと低かった時代において、シングルマザーとして娘を育てる女性の物語。そう聞いて、ヘビーで湿度の高い映画を思い浮かべる人もいるかもしれない。だが本作はそういう類いの映画ではない。もちろん、しっかりと現実の重みや痛みは描きつつ、全体的には湿り気はなく、むしろユーモラスでポップ、痛快だとすら思えるはずだ。アニメーションと実写を融合させた映像が楽しいし、音楽でグルーヴを生み、それが登場人物の感情を際立たせているのもいい。

 木村監督は自身の母親の物語を映画化したいと思った理由を、「彼女の人生が映画の力を借りることによって、たくさんの人に希望と勇気を与え、共感を生むと確信しているから」と話す。まさにその言葉通りの映画だ。木村監督のごく個人的な物語であり、同時に、今がんばって生きているすべての人を応援する物語でもあり。抑圧に屈せず信念を貫く女性の姿を観て励まされ、奮い立つこと間違いない。

『FUJIKO』

https://fujiko-movie.com

2026年/日本/95分

原案・監督 木村太一
出演 片山友希 YOU リリー・フランキー MEGUMI ほか
配給 Atemo

※6月5日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開

©2026 FUJIKO Film Partners

写真の1枚1枚に焼きつく日々の営み
記録して記憶する、ある家族の物語

 京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)在学中から短編映画を通してその才能を発揮し、卒業後は石井裕也監督作の助監督や土井裕泰監督作のメイキングカメラマンとして経験を積んできた坂⻄未郁が監督と脚本を担い、商業長編映画デビュー。写真館を営む義父が骨折し、その世話をするため、妻と娘と暮らす東京から九州の田舎町へやってきた主人公・雄太を軸に、家族の日常を映していく。

 主人公の雄太の揺らぎを絶妙にグラデーションをつけて演じるのは、柄本佑。雄太の妻で、東京でツアーガイドの仕事と子育て続けるゆきを朗らかに穏やかに演じるのは、Disney+ドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」(2024〜)で国内外の注目を集める穂志もえか。さらに、イッセー尾形が義父をユーモアと厳しさが同居する人物として演じ、物語に深みを持たせている。

 写真の1枚1枚に焼きつくのは、家族の営みと記憶。家族と過ごすなんでもない日々、そのすべての瞬間が愛おしくなる、やさしくて力強い1本に仕上がっている。


point of view

 特別なことは何も起こらない。少しの間、離れて暮らす家族の営みを映す、ただそれだけなのに、これ以上ないほど豊かな映画だと感じられる。坂⻄未郁監督が見つめる世界では、人も景色も物もすべてが等しい存在だ。坂⻄未郁監督は人、景色、物を丁寧に慎重に“記録”し続け、その1カット1カットにしっかりと“感情”を溜めていき、やがてはそれを決壊させる。表面張力の限界を突破し、コップの水が溢れ出る感じと似ているかもしれない。限界点を突破し、登場人物たちの感情がどっと溢れ出る瞬間、観客は胸を揺さぶられるはずだ。

 坂⻄未郁監督が見つめる世界は素朴だけれど詩情に満ちていて、深遠で美しい。映像が持つ力を改めて感じられる1本だ。

『メモリィズ』

https://memorizu.jp

2026年/日本/97分

監督・脚本 坂⻄未郁
出演 柄本 佑 穂志もえか 香椎由宇/イッセー尾形 ほか
配給 リトルモア

※6月12日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国公開

©2026LittleMore