FLYING POSTMAN PRESS

上田誠監督×伊藤万理華×井之脇海

全員が登ったことのない山に登りたい

──本作は上田さんの映画監督デビュー作です。映画監督としての上田さんを伊藤さん、井之脇さんはどう感じていましたか。

伊藤 リプリーでは次々と何かしら起こり、起こることに対して私たちが演じる登場人物が対処していく。つまり、起こることに対するリアクションがメインになっていました。今回の映画でもいろんなことが起こりますが、どちらかと言えば、マドカやカズマの心境の変化や、ふたりが周りの人たちとどうかかわっているのかを描くのがメインになっていると思います。上田さんは映像作品ではエモーショナルな部分をより描かれる方だという印象があって。それは『ドロステのはてで僕ら』や『リバー、流れないでよ』でも感じていましたが、今回ご一緒して改めてそう思いました。もうひとつ、今回の映画は物語の構造が複雑で、私自身、撮りながら混乱してしまうことが何度もあって。この場面はこの感情で合っているのかなとか、表現が過剰じゃないかなとか、逆に薄くないかな、など。いろいろと考えてパニックになることもありましたが、いつも上田さんの中にはちゃんと答えがありました。私が混乱していると上田さんがいろいろとご提案してくださって、ありがたかったです。すごくわかりやすい演出でした。

井之脇 本当に、初監督とは思えないぐらいどっしり構えていらっしゃって。

上田 いやいや。

井之脇 この映画は1カット風に撮影しつつ、一部だけカットを割っています。それは上田さんのプランで、はっきりとした意図が見えたので僕は安心してついていけました。また、上田さんは人物の動かし方が本当に上手なんです。映画は演劇とは違ってアングルで切っていくものですが、そんな映画の特質をちゃんと理解した上で人物を上手に動かしてくださったなと。特に、三日月ロックでのシーンはわちゃわちゃしますし、カメラも振り回しますが、人物とカメラの動きのすべてに上田さんの意図があり、ちゃんとリズムもあって。現場で上田さんとスタッフさんがカットの割り方やカメラワークについて話しているのを聞きながら、“なるほど、そういう意図があるのか。じゃ、今求められているのはこういう芝居かな”などと、自然と考えられました。

上田 お話を聞いていただいたらわかるように、おふたりはものづくりの手練れなので。だいぶ変わった作品だと思うし、お芝居もだいぶ高度なことを求めたと思うんです。ギミックのことを考えながら見え方のトーンを整え、かつ、エモーショナルなところを通さないといけない。それをおふたりは見事にやってくださった。

伊藤 私はパニックでした(笑)。海君は適応していて、すごいなと思いました。

上田 確かに海さんは映画の構造理解に長けていて。三日月ロックのシーンで、カズマがある人物を追いかけていくくだりがあるんです。そこで海さん、「長回しだから、追いかけていく時、このドアは閉めないでいいんですよね」と、長回し経験者じゃないとわからないところを確認してくださったり。

井之脇 この流れではどうしてもドアを閉められない、というところがあって。ただ、芝居としてはドアを閉めるのが自然、というものだったんです。それで、土佐(和成)さんが演じる三日月ロックの店長に「閉めなくていいよ」と、ひとこと言ってもらったらどうかなと考えて。土佐さんに相談した上で上田さんに提案してみました。

上田 海さんは映画に本当に詳しいんですよ。撮影行為というものも熟知している。リプリーは舞台で、しかもSFというこちらの得意なフィールドに持ち込んでやりましたけど、今回は海さんの得意なフィールドでやるわけですから。舞台でできた貯金を切り崩していく感じでしたね(笑)。でも、あそこは海さんに提案してもらえて本当にありがたかったです。その場面の違和感を解消できたので。今回はスタッフさんもみんなすごかったですね。ギミックがたくさんある中で1カット風の撮影をしていくのは、本当に難しかったと思います。実は今回は、“みんなもあまり登ったことのない山に登ってやろう”という気持ちがあって。と言うのも、普通の映画を撮ると、みなさん手練れの中で僕だけが初監督ということになるので。

伊藤・井之脇 ああ、なるほど(笑)。

上田 自分だけじゃなくて全員が登ったことのない山に登れば、「上田の監督ってどうなの?」というところはいったん忘れてもらえるかなと(笑)。「どうやったらこれを作品として成立させられるんだろう?」と、そこにみんなで意識を向けたまま走りきれたと思います。