FLYING POSTMAN PRESS

スリリングでエモい“極限”映画

絶望の先にある希望
1,400万人の実話をもとにした群像劇
シリア内戦、絶望の果てにあるものとは

 アサド大統領による長期独裁政権への不満を発端に、シリア政府軍と反体制派の間に勃発したシリア内戦。2011 年から 2024 年まで続いた戦禍から逃れるため、1,400 万もの人々が国内外への避難を余儀なくされた。その現実に着想を得て、紛争下で引き裂かれる家族と、彼らにかかわる人々の姿を多角的に描き出したスリリングな群像ヒューマンドラマ。製作・監督・脚本を担うのは、『大脱出』(2013)や『沈黙 -サイレンス-』(2016)などのエグゼクティブ・プロデューサーを務めたブラント・アンダーセン。アンダーセンが人道支援活動をする中で見聞きした話をもとに作り、アカデミー賞短編実写映画賞のショートリストに選出された自身の短編映画『Refugee』(2020)を土台に、長編映画として再構築。アンダーセンにとってはこれが長編監督デビュー作となる。

 『最強のふたり』(2011)で高く評価されたフランス出身のオマール・シー、『キャラメル』(2007)で脚光を浴びたレバノン出身のヤスミン・アル・マスリーが『Refugee』でも演じた役を本作でも好演。さらに、シリアとカナダを行き来しながら育ったヤヤ・マヘイニ、パレスチナ出身のジアド・バクリ、ギリシャ出身のコンスタンティン・マルクーラキスがメインキャストを担い、国境を越えた人間ドラマに迫真性を持たせている。

 第74回ベルリン国際映画祭でアムネスティ国際映画賞を受賞したほか、世界40カ国以上の映画祭で上映され、41冠を達成。戦争と難民の現実、その中で浮かび上がる人間性に胸を打たれる。

 手持ちカメラは登場人物に寄り添い、彼らの視点からリアルに戦争と難民の現実を浮き彫りにしていく。紛争が激化するシリアで敵味方関係なく懸命に命を救おうとする医師、国家に忠誠を誓うシリア人兵士、病弱な息子と共にアメリカに渡るため必死に資金を貯める密航業者、トルコの難民キャンプを脱走し、ギリシャ行きの密航ボートに家族と共に乗り込んだ詩人、ギリシャの沿岸警備隊の船長……。そんな5人がいざという時、何を選択し、どう行動するのかを、5章に分けて視点を切り替えながら描いていく。極限状態に追い込まれた人間たちは恐怖に震え、絶望する。だが、それだけでは終わらない。現実の恐ろしさを生々しく描いているが、それ以上に人間存在の美しさを描いている映画だと思えた。これは、今も世界各地で起こっている出来事。人間たちの究極の選択と行動、その切実さと誠実さが心に沁みる。

『アイ・ワズ・ア・ストレンジャー』

https://hark3.com/stranger/

2024年/アメリカ・ヨルダン・パレスチナ/104分

監督・脚本 ブラント・アンダーセン
出演 オマール・シー ヤスミン・アル・マスリー ジアド・バクリ ヤヤ・マヘイニ コンスタンティン・マルクーラキス ほか
配給 ハーク

※6月19日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開

©2025 Refugee The Film.LLC


近未来のアメリカで極限のサバイバル
地獄の1本道の先に待ち受けるものとは

 スティーヴン・キングがリチャード・バックマン名義で発表した事実上の初長編小説「死のロングウォーク」を原作に、『ハンガー・ゲーム2』(2013)以降のシリーズ全作を手がけているフランシス・ローレンスが監督を、A24によるテレビシリーズ版『悪魔のいけにえ』の監督に抜擢されたJT・モルナーが脚本を務めて映画化。戦争によって国家が分断された近未来のアメリカを舞台に、国を挙げて開催される競技“ロングウォーク”に挑戦する若者たちの姿を描き出す。

 過酷な競技に挑む若者たちを演じるのは、『リコリス・ピザ』(2021)のクーパー・ホフマンや『エイリアン:ロムルス』(2024)のデヴィッド・ジョンソン、『ベスト・キッド:レジェンズ』(2025)のベン・ウォン、『ジョジョ・ラビット』(2019)のローマン・グリフィン・デイヴィスら、注目の若手俳優たち。そんな彼らの前に立ちはだかる鬼少佐をマーク・ハミルが強烈な存在感で演じる。

 勝者になるために守るべきルールは5つ。【ルールI】時速3マイル(時速4.8km)をキープすること。【ルールII】速度が下回ると警告開始。【ルールIII】3つの警告で即死。【ルールIV】コースから逃げても即死。【ルールV】最後のひとりになるまで、歩き続けること。不眠不休で挑むデスレースの果てに待ち受けるものとは──。

 50人の若者たちが参加し、最後のひとりになるまで歩き続ける。構造としてはごくシンプルだが、すべての感情が描かれていると言っていいほど、人間味豊かな物語となっている。さすがはスティーヴン・キング原作映画。“恐怖”を物語る上での重要なソースとしながら、あくまで主題は“人間性”であると感じられる。絶体絶命の状況下で若者たちはそれぞれの本性を明らかにしていく。パニックになる者もいれば、自身の恐怖心を隠すために攻撃的になる者もいる。その中でも印象的なのが、そんな状況においても思いやりや人としての尊厳を失わない者たちの姿。自分が生き延びるために蹴落とさなければいけない競争相手にもかかわらず、彼らの間に本物の友情が芽生える様子に熱いものがこみ上げてくる。

 原作小説は1979年に出版されたが、スティーヴン・キングが実際に書いたのは1967年。大学1年生の時にヴェトナム戦争の寓話として書いた初めての小説だったという。半世紀以上前に書かれた物語が、“今の物語”だと感じられるのも面白い。自分とは何者なのか、何を大切にして生きていくのか。スリリングでエモーショナルな物語を楽しみながら、今を生きる自分の胸に問いかけることになるはずだ。

『ロングウォーク』

https://klockworx-v.com/longwalk/

2025年/アメリカ/108分/R15+

監督 フランシス・ローレンス
原作 スティーヴン・キング
出演 クーパー・ホフマン デヴィッド・ジョンソン マーク・ハミル ほか
配給 クロックワークス

※6月26日(金)より全国公開

©2026 Lions Gate Ent. Inc. All Rights Reserved.