FLYING POSTMAN PRESS

愛も憎しみも──映画が描く家族

傷つけ合い、支え合う、それが家族
胸が痛み、感動を覚える家族の物語

 台北を舞台にした多世代家族の物語に、人生の節目に互いを見つめ直す兄妹の物語、血の繋がりはないけれど確かに“家族”だった人々の物語。愛と憎しみは表裏一体。家族の真実を三者三様に映した新作映画を紹介する。



台北、夜市で麺屋台を営む母と娘たち
多世代にわたる家族が秘めていた“罪”

 『ANORA アノーラ』(2024)で第97回アカデミー賞において作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞、編集賞を受賞した映画作家のショーン・ベイカー。そんな彼の学生時代からの友人であり、『テイクアウ卜』(2004)で共同監督デピュー。以降はプロデューサーとして『タンジェリン』(2015)、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017)、『レッド・ロケット』(2021)などショーン・ベイカー作品を支えてきた台湾出身のツォウ・シーチンの単独監督デビュー作。ぺイカーは製作・共同脚本・編集として参加している。

 台北を舞台に、左利きの5歳の少女の視点から見つめるのは、多世代にわたる家族それぞれが秘めていた“罪”。構想から20年以上という時間をかけて完成させた本作は、第78回カンヌ国際映画祭の批評家週間セレクションへ正式出品されたほか、第98回アカデミー賞では国際長編映画賞ショートリストに選出、第26回東京フィルメックスではコンペティション部門で観客賞を受賞するなど、世界的に高く評価された。

 『タンジェリン』ではiPhoneでの撮影が話題になったが、実は懐疑的だったベイカーにその撮影手法を強く勧めたのはツォウ・シーチンだったという。本作においても、台北に実在する通化街夜市(臨江街夜市)のシーンにおいてiPhoneでの撮影を選択。5歳の少女が見る色鮮やかな夜市、そこに集う人々の暮らしや空気感をリアルに感じつつ、母と娘たちの思いを深く味わいたい。


point of view

 物語の中心にいるのは、シングルマザーのシューフェンとその娘たち、10代後半のイーアン、5歳のイージン。シューフェンは台北の夜市で麺料理の屋台を始めるも、ある事情から借金を抱えており、それが彼女たちの生活に重くのしかかってくる。イーアンはそんな母に反抗すると同時に自身の将来に焦りを募らせ、イージンは祖父に利き手である左手を“悪魔の手”とそしられ、左手を使うことに罪悪感を抱き始める。

 iPhoneで撮影された台北の夜市は、“地元民視点”と“5歳の少女の視点”が効いているからだろうか。観光客として訪れては見られない姿を見せている。さらには、カメラが夜市に深く入り込むほどに、そこで生きる家族の心の深部へと入り込んでいくかのように感じられ、やがては現代の都市を生きる女性たちの生きづらさが浮かび上がってくる。現実の厳しさを味わう母と娘たちに、都合良く救いの手が差し伸べられるなんてことはない。それでも、なんとかささやかな希望を見出そうとする、その姿が切なくも愛おしく感じられるはずだ。

『左利きの少女』

https://cinema.starcat.co.jp/left-handed-girl/

2025年/台湾・フランス・アメリカ・イギリス/108分

監督 ツォウ・シーチン
脚本 ツォウ・シーチン ショーン・ベイカー
製作・編集 ショーン・ベイカー
出演 ニーナ・イエ マー・シーユエン ジャネル・ツァイ ほか
配給 スターキャットアルバトロス・フィルム

※8月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開

©2025 LEFT-HANDED GIRL FILM PRODUCTION COMPANY LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

障がいのある兄と、結婚を控えた妹
共に生きてきた兄妹が踏み出す新たな一歩

 自閉スペクトラム症(以下:ASD)の兄・大貴と、結婚を控えた妹・希が、人生の節目に自分たちの“これまで”と“これから”を見つめ直す。山野海がオリジナルで書き下ろした脚本に心を動かされた安田章大が、旧知の佐藤現プロデューサーに映画化を持ちかけ、企画が正式に動き出す。そして、彼らに共鳴した小林聖太郎が監督を努めることに。安田は大貴役も担い、ASDの専門家のレクチャーを受けるだけではなく、ASD の特性を持つ人々が通う教育機関を訪れて利用者たちと交流を深め、真摯に役と向き合い、真実味のある演技を披露している。大貴の妹でカウンセラーの希を演じるのはのん。彼女もまた、障がいのあるきょうだいを持つカウンセラーから話を聞くなど役の背景に丁寧に寄り添った。安田とのんによる兄妹のやり取りには切なさとユーモア、あたたかさが入り混じり、笑ったり泣いたりと、大いに感情を揺さぶられるはずだ。

 支えてきたつもりの妹、支えられていると思っていた兄。妹の結婚という重大な出来事を前に、ふたりは初めて互いの存在がいかに自分を形作ってきたのかに気づいていく。確かにあった、これからもあり続ける兄と妹の絆に感動を覚える。


point of view

 障がいを持ちながらも定職に就き、周囲のサポートを受けながらひとり暮らしをする兄の大貴。カウンセラーとして働きつつ、兄を支えることを当たり前としてきた妹の希。“支えられる兄”と“支える妹”と、世間だけではなく自分たちも思っていた。そんな一方的な関係性ではなかったのだと気づく兄と妹の物語。

 何より、兄妹を演じた安田章大とのんが素晴らしい。ふたりとも目の前にいる相手に本気で向き合っているのがよく伝わってくる。相手を慮りはしても遠慮はしないため、時にはケンカをすることも。ふたりが体現する“きょうだい”の当たり前が、なんともおかしくて切なくて愛おしい。人生の節目は、大切な“気づき”を得られる時。一緒に壁を乗り越えてさらに絆を深めていく兄と妹を観て、胸に芽生えた思いを大切に留め置きたい。

『平行と垂直』

https://www.toei-video.co.jp/heikoutosuichoku/

2026年/日本/118分

監督 小林聖太郎
原案・脚本 山野 海
企画 安田章大
出演 安田章大 のん/神野三鈴 菅原大吉 ほか
配給 東映ビデオ

※8月28日(金)より全国公開

©2026「平行と垂直」製作委員会

監督・中野量太×主演・坂口健太郎
ある女性を殺した男と被害者の娘の物語

 中野量太が原案・脚本・監督を務め、『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016)以来、10年ぶりの完全オリジナル作品を完成させた。ある女性を殺した男・夕平と、殺された女性の娘・朝子、交わるはずのないふたりが対峙するさまをサスペンス形式で映しながら、愛とは何か、贖罪と赦しとは何かを描いていく。

 夕平を演じるのは、中野量太監督作に初参加となる坂口健太郎。狂おしいほどに “家族”という幸せの形を求め、破滅へと向かっていく孤独な青年を、絶妙に温度を変えながら体現する。夕平が殺めた女性の娘である朝子を演じるのは、『違国日記』(2024)で注目を集めた早瀬憩。さまざまな感情をその真っ直ぐな目に乗せて伝えている。さらに、夕平が殺めてしまった女性・紗月を堀田真由、幼少期の朝子を倉田瑛茉、事件当時の弁護士を滝藤賢一、朝子の祖母を原田美枝子が演じ、物語に奥行きをもたらしている。

 あの日一体何があったのか? 夕平は何を思っていたのか? 家族をテーマに映画を撮り続ける中野量太監督の新たな一手。日本とフランスが共同で製作した、感動のヒューマンサスペンスがここに。


point of view

 孤独に生きてきた青年が5歳の娘を育てる女性に出会い、生まれて初めて“家族の温もり”を、誰かと一緒に生きていく幸せを見出していく。3人が過ごす日常は特別なものではない。一緒にごはんを食べたり、休みの日に出かけたり、公園でかけっこの練習をしたり。そんなささやかな、でも失って初めてかけがえのないものだったと気づく日常だ。

 確かに幸せに暮らしていた彼らを観ながら、考えを巡らせずにはいられないはずだ。こんなに幸せな“家族”に何が起きたのかと。そして、愛とは、赦しとは何かと自分自身の胸に問いかけることになるはずだ。

『私はあなたを知らない、』

https://watashiramovie.com

2026年/日本・フランス/126分

原案・脚本・監督 中野量太
出演 坂口健太郎 早瀬 憩 堀田真由 倉田瑛茉 滝藤賢一 原田美枝子 ほか
配給 クロックワークス

※8月28日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国公開

©IDKYPs./Pyramide Productions