CINEMASPECIAL ISSUE
水上恒司『本当にあった話(の話)』

演劇の制作過程で主演俳優が大暴走 映画『本当にあった話(の話)』 (映画の)主演俳優・水上恒司の挑戦
初⻑編監督映画『赤色彗星倶楽部』(2017)で映画各賞を受賞し、その才能に注目が集まる武井佑吏が監督・脚本・編集を担った映画『本当にあった話(の話)』が、10月2日(金)より公開となる。描き出すのは、過去に起こった連続殺人事件をもとにした演劇の制作過程で主演俳優が暴走していく姿。その演劇の主演俳優に抜擢された夛田(ただ)を、水上恒司が演じている。
この世界を生きているすべての人に平等に与えられた、“物事を自分なりに解釈する権利”。ものづくりの現場は、その作品にかかわる人々が“自分なりの解釈”を持ち寄り、成熟させていく場所と言える。そんな場所で“自分なりの解釈”を振りかざし続けるとどうなるのか。その答えは、映画を観てのお楽しみだ。
気味が悪いが清々しくも思える、インパクト大な主人公を演じた水上恒司に話を聞いた。
写真:小田原リエ スタイリング:藤長祥平 ヘアスタイリング&メイクアップ:Kohey 取材・文:佐藤ちほ 衣装協力:ジャケット ¥90,200 パンツ¥48,400(共にssstein / ENKEL/TEL03-6812-9897)※価格はすべて税込み そのほか、スタイリスト私物
これまでとは違うアプローチを楽しむ
──映画『本当にあった話(の話)』の夛田役のオファーを受け、どんな点に魅力を感じて出演をお決めになったのでしょうか。
水上 僕にとって初めて経験する映画になるだろうと思ったことが大きいです。僕はこれまで、商業的な意味合いの大きな映画を多く経験してきました。映画を商業的に成功させるための脚本だったり、演出だったり、カメラワークだったり。そういうものがきっとあると僕は思っていまして。もちろん、たったひとつ“これが正解”というものがあるわけではなく、いろんな方法が正解になり得るとは思います。ただやっぱり、“商業的な意味合いが大きい映画だから、こういう表現が求められているのかな”と考えたりすることはある。現場で求められていることを感じ取り、求められている表現をしようと意識しながら演じることが多くなっていたように思います。もちろん、それが悪いことというわけではなく、そういう傾向にあるとなんとなく感じていたところ、今作のお話をいただきました。脚本を読み、今回はこれまでの多くの現場で僕がやってきたアプローチとはまったく違うものになりそうだなと。実際に現場はチャレンジングでした。2週間という短い撮影期間でしたが、これまでにないアプローチをとても楽しみながら駆け抜けられた、という実感があります。
──これまでの多くの現場では“求められている正解がある”という感覚で、本作の現場では“正解は自身に委ねられている”という感覚だったのでしょうか。
水上 いや、それがちょっと難しいところなのですが、商業的な意味合いの大きい作品の現場でもやっぱり、こちらに委ねてもらえるんです。ただ、“僕自身はこれがいいと思うけど、きっと求められていないだろうな”などと、勝手に自分の中で判断しながら演じることが多くなっていた。そんな感覚です。だから、商業的な意味合いの大きな作品の現場は役者として自由度が低いとか、そういうことではないんです。ただ、今作が決定的に違うのは、“正解はわからない”というものだったこと。それでも自分なりに考え、とにかく現場で何かを出してみる。そして、僕が出したものに現場が左右されていく。そんなことが多かったのではないかと思います。

──共演者の演技、武井佑吏監督の演出を受ける中で、それまで見えていなかったことが見えた、という瞬間はありましたか。
水上 それはあったと思います。物語の構成上、僕が演じた夛田が“受動”から“能動”に切り替わる瞬間が劇中にあります。その瞬間より以前は、役者である夛田が向き合う演出家の加藤を演じられた佐々木蔵之介さんのお芝居をよく見て、佐々木さんのお芝居を受けて反応していく。そんなふうに芝居していたつもりです。あとはやっぱり、武井監督からの影響が大きかったです。現場の武井監督は誰よりも夛田みたいでした。強い思いを持ってこの作品を作ろうとしている武井監督が、人目を憚らずにとことん悩み、時には「ちょっと待ってくださいね」と現場を止めることもあった。僕を演出するために悩み続ける武井監督を見ながら、“この瞬間の監督の頭の中、心はまさに夛田だな”と思ったことを覚えています。その姿はどこか、武井監督が夛田に飲み込まれているようでもあった。印象的でしたし、大いに影響を受けました。
