FLYING POSTMAN PRESS

水上恒司『本当にあった話(の話)』

大義はないけれど面白い映画

──本作では、脚本家、演出家、俳優が作品のテーマや一つひとつの台詞についてそれぞれ解釈し、議論しながら1本の演劇を作っていく過程が描かれます。その創作のあり方に共感する部分はありましたか。

水上 ありました。自分としては客観的な意見だと思って机上に載せたものの、やっぱり主観でしかなかった、ということはよくあるものです。だからこそ、すべてを見極める第三者が創作の場には必要だと思います。夛田は自分の解釈が正しいと、一緒に演劇を作る人たちに強く訴えます。僕ももっと若かった頃は近いことをしていたかもしれません。もちろん、夛田ほど暴走はしませんでしたが(笑)。作品について自分がどう思っているかを一緒に作る人に伝えること自体はいいことだと思うんです。ただ、自分の意見を出せば出すだけ、その作品で負う責任は大きくなる、というのも間違いなくて。紙一重なんだと思います。

──ご自身としては、創作の現場でどんなことを大切にしていますか。

水上 第一に、監督のビジョンがいちばんであるということ。あと、これは単純なことですが、あいさつを大切にしています。「おはようございます」「ありがとうございます」「すみません」「お疲れさまでした」と、ちゃんと言える人間でありたい。人間である部分を度外視して映画を作っていいとは僕は思わないです。

──完成した映画『本当にあった話(の話)』をご覧になっていかがでしたか。

水上 面白かったです。そして、これを面白いと言える人がたくさんいたらいいなと思いました。出演のお話をいただいた時、僕がこれまで経験してきた作品とは違うものになると感じたと話しましたが、完成した作品を観てやっぱり、“これまでとはまったく違う作品になったな”と実感しました。これも最初にお話ししましたが、僕はこれまでいわゆる商業的な意味合いの大きな映画に多くかかわってきました。そういう映画には大体メッセージがあるものですが、今作にはありません。メッセージはないと言うと語弊があるかもしれませんが、大義がある作品ではないと思うんです。でも僕は今作を観た時、“なくてもいいのか”と思えました。大義がないと映画が作れないとなると、市場に出回る映画は全部似通ってしまうと思いますし。今、こういう映画を作りたいと思った製作陣がいて、こうして形にできたことが本当にうれしいです。僕は本当に面白かったです。こういう映画がなくならないでほしいと思います。


水上恒司(みずかみ こうし)

1999年生まれ、福岡県出身。近年の主な出演作に映画『死刑にいたる病』(2022)、『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(2023)、『本心』(2024)、ドラマ『怪物』、『シナントロープ』(いずれも2025)、Prime Originalドラマ『犯罪者』(2026)など。2027年春にドラマ10「熊は嘘(うそ)をつかない」の放送を控える

『本当にあった話(の話)』

https://www.honbana.com

2026年/日本/119分

監督・脚本・編集 武井佑吏
原作 鴻池留衣『本当にあった話(の話)』(文藝春秋)
出演 水上恒司 黒木 華 山下美月 大東駿介 山本浩司/小池栄子/佐々木蔵之介 ほか
配給 東京テアトル/murmur

※10月2日(金)よりテアトル新宿ほかにて全国公開

©鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

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