CINEMASPECIAL ISSUE
照屋年之監督映画『かなさんどー』
家族の愛と許しを描く『かなさんどー』 照屋年之監督が映画で伝えたいこと
お笑いコンビ・ガレッジセールのゴリとしてのキャリアは今年で30年に及ぶが、映画監督・照屋年之としてのキャリアも約20年と、着実に積み重ねてきた。沖縄を舞台に笑って泣ける映画を作り続けてきた照屋年之監督の新作『かなさんどー』が公開される。描き出すのは、わだかまりがある父が死のうとしている時、娘はどう向き合い、父を見送るのかという、家族の愛と許しの物語。照屋監督の死生観とユーモアを交えて描いた『かなさんどー』を題材にしつつ、照屋監督の映画の根底に流れるものに迫った。
写真:徳田洋平 取材・文:佐藤ちほ
明日があることを当たり前とは思わない
──照屋監督はご自分で脚本も書いていらっしゃいますが、物語はどう浮かび上がることが多いですか。
照屋 基本的に舞台は沖縄と決めているんです。そこからすべてが始まります。例えば、沖縄の那覇市の国際通りに住み着いている探偵を主人公にするのはどうかと考え出す。『探偵物語』(1979〜1980)で松田優作さんが演じた探偵のような、適当で女ったらしだけれど、いざ事件になれば熱くなる探偵を描いてみよう。事件は沖縄に多いリゾートホテル関係のものにしてみるか…と、物語が動いていったりします。あと、自分が観た映画からインスピレーションを受けて物語が生まれることもありますね。今、ホラーコメディの脚本を書いているんですけど、知り合いがプロデュースした『サユリ』(2024)を観て、“ホラーも面白いな”と思って書き始めたんです。『サユリ』は怖いだけじゃなくヒューマンドラマもあるんですよ。僕は笑って泣けるヒューマンコメディが得意なんですけど、いつもの物語にホラーの緊張感を乗せたらまた面白いものになるんじゃないかと。脚本を書く時はいつも、どうお客さんを飽きさせないかと考えています。ホラーは“飽きさせない”を作りやすいのかなと思ったんですよね。沖縄でホラーを描くとしたら、主人公は沖縄の民間霊媒師ユタがいいなと。そんなふうに物語が膨らんでいったりもします。
──人間を描くのが第一でジャンルはなんでもいいわけですね。ただ、沖縄が舞台ということだけは決めていらっしゃるので、登場人物は“沖縄にいそうな人”ということになるわけですか。
照屋 そういうことです。もしくは、沖縄以外のところから沖縄に死ににきた人とか。江口のり子さんに主演を務めてもらった短編映画『NAGISA』(2019)は、そういう人の物語です。沖縄の海に身投げした主人公が地元の女の子に助けられた。“せっかく死ににきたのに助けやがって”と主人公は女の子を憎むわけです。またその女の子がお節介で、主人公を沖縄の名所に連れていったり、仲のいいおじいやおばあを紹介したりするんですよ。主人公としてはそんな女の子がわずらわしくて、ケンカ別れしてしまう。ただその後、実はその女の子はもう亡くなっていて、自分が生きたくても生きられなかったからこそ主人公を一生懸命生かそうとしていたことを知ることになる。主人公は反省し、生きる希望が芽生えるという話なんですけど。
──照屋監督は生きること、死ぬことをよく描いていますね。
照屋 僕、毎日起きたら“死”を考えますから。
──毎日ですか!
照屋 毎日です。死を考えない日はないです。死というのは、誰しもに平等に与えられる権利じゃないですか。権利という言い方はおかしいかもしれないけれど、人間誰しもいつかは死を迎えるわけです。僕は両親をすでに亡くしていますし、仕事仲間が急死したり、高校時代の友人が亡くなったりもしています。大体の人は“おじいちゃん、おばあちゃんになった時に老衰なのか、病気なのかで死ぬんだろうな”と思っているでしょうけど、みんなそんなふうに死ねるわけはないんですよね。いつどうなるかは本当にわからない。自分に明日があることを当たり前だと思っちゃいけない。だからこそ1日1日を大切に生きなきゃって毎朝思うんです。死を意識すればこそ生をありがたく思える。そういうことは常に意識して映画を作りたいと思っていますし、僕が作った映画を見てくれた方にもそんなことを意識してもらえたらうれしいなと思っているんです。
──『かなさんどー』もそんなふうに考えを巡らせて生まれ出た物語なのでしょうか。
照屋 はい。『かなさんどー』は父と娘の物語です。娘はある事情から父のことが許せなくて、疎遠になってしまっている。その父が亡くなろうとする時、どう見送るのか。全員がいい見送り方ができるわけではないと思うんです。憎んでいる人が亡くなろうとしている時は、憎んだまま見送っていいのかという問題が出てくるはずなんです。あと、僕はいずれ死ぬ時にはできるだけ荷物がない状態でいたいと思っています。つまり、“いつもいつか行きたいで終わっていたな。でも結局行けなかった”とか、“あいつに謝りたかったけど素直になれなかった”とか、そういう後悔をできるだけ減らしたいと思っているんです。そんなことを考えながら、“じゃあ、わだかまりや後悔がある父と娘をどう描こうか”と。結果、生まれたのが『かなさんどー』という物語でした。