FLYING POSTMAN PRESS

エンタテインメントな初夏映画

すべては、“ひとつの謎”から始まる
GWから初夏にかけて楽しめる注目の映画

 GW前から5月中旬にかけて公開される新作映画の中から、エンタメ度の高い4本の良作をピックアップ。今年の初夏映画のキーワードは“謎”と“人生”。ひとつの謎が物語の出発点になる映画や、人生というものを深く味わわせてくれる映画を紹介する。



平凡な男が辿った数奇な人生
スティーヴン・キングが伝える愛と希望

 スティーヴン・キングが2020年に発表した短編小説「チャックの数奇な人生」を原作に、『ジェラルドのゲーム』(2017)や『ドクター・スリープ』(2019)などのスティーヴン・キング原作映画を手がけてきたマイク・フラナガンが監督と脚本を務めて映画化。終末が迫る中、街頭やテレビ、ラジオなどあちこちに突如出現する<チャールズ・クランツに感謝します。素晴らしい39年間に、ありがとう、チャック>と書かれた広告。チャックとは何者なのか、感謝の意味とは──。その謎を解き明かしていく中で、“終わり”を恐れる必要はないこと、さらには、今生きていることへの喜びを謳いあげる。

 不可思議な広告に写る謎の人物として登場し、徐々にその数奇な生涯が明かされていくチャックことチャールズ・クランツを演じるのはトム・ヒドルストン。生きとし生けるものすべてを祝福するような、圧巻のダンスを披露している。共演陣にはキウェテル・イジョフォー、カレン・ギラン、ジェイコブ・トレンブレイ、マーク・ハミルらが集結。アメリカのニューオリンズ出身のドラマー、テイラー・ゴードンも魂のこもった演奏を披露している。

 第49回トロント国際映画祭では最高賞である観客賞を受賞した、スティーヴン・キング原作映画の中でも指折りの1本。恐怖の先にこそ輝く愛と希望を描く人間賛歌がここに。

 スティーヴン・キングの小説を原作とする映画は数多いが、本作は『スタンド・バイ・ミー』(1986)、『ショーシャンクの空に』(1994)、『グリーンマイル』(1999)の系譜を継ぐ1本と言える。物語は、終末が迫るところから始まる。未曾有の自然災害が世界中を襲い、あらゆる通信手段がダウンする中、突如現れる不可思議な広告。その広告に写る男性は何者なのか──? 登場人物同様に“世界の終わり”に怯えながらも、好奇心がそそられた。映画は原作小説同様に3章で構成される。1章、2章、3章と進んでいくほどに、物語そのものの印象が変わっていくのが面白い。先読みは不可能。新しいタイプの終末映画だと思いきや……ここから先は観てのお楽しみだ。

 スティーヴン・キングは常に恐怖を描くが、その恐怖は愛と希望なしには存在しないものだということも同時に伝えている。本作の主題は、生きていける喜び。チャックのダンスシーンは、そんな主題を伝える象徴的なシーンと言える。全身から生きる喜びを放ちながら躍動するチャックを観ながら、心が浮き立ち、多幸感に包まれた。ダンスは自己表現であり、祈りであり、自分を取り巻く人々や世界との交流の手段なのだと、改めて感じ入った。記憶に焼きつく名場面に仕上がっている。

『サンキュー、チャック』

https://gaga.ne.jp/thankyou_chuck/

2024年/アメリカ/111分

監督・脚本 マイク・フラナガン
原作 スティーヴン・キング
出演 トム・ヒドルストン キウェテル・イジョフォー カレン・ギラン ジェイコブ・トレンブレイ マーク・ハミル ほか
配給 ギャガ 松竹

※5月1日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国公開

©2024 DANCE ANYWAY, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.


怒らない男と、触れるものみな壊す女
予期せず出会った不器用なふたりの物語

 『クロエ』(2001)などで監督として高く評価されるのみならず、俳優としても長きにわたって活躍する利重剛が、『さよならドビュッシー』(2013)以来、13年ぶりに監督と脚本を務めた人間ドラマ。利重剛監督の地元である横浜を舞台に、知らないうちに結婚していた幹夫と、勝手に幹夫の妻となった繁子が出会い、不器用ながらも一歩前へと踏み出していく様子を、あたたかなユーモアに包んで描き出す。

 主人公の幹夫を演じるのは高橋一生。“絶対に怒らない男”を味わい深く体現する。幹夫と勝手に籍を入れる繁子を演じるのは呉城久美。“触れるものみな壊してしまう女”を、爆発力とナイーブさを併せ持った人物として表現する。監督の利重もキーパーソンとして出演するほか、芹澤興人、池脇千鶴ら、共演陣にも個性豊かな面々が。さらに、世界的ジャズ・ピアニストの大西順子が手がける小粋な音楽、文化と歴史が入り交じる横浜の街並みも、映画を豊かにする要素のひとつとなっている。

 傷つきたくない。それでも、目の前の人と懸命に向き合おうとする大人たちがなんとも可笑しく、切なく、愛おしく思えること請け合いだ。

 幹夫と繁子は人として変わっているかそうでないかで言ったら、だいぶ変わっている。でも、彼らが日々向き合っていること、抱え込んでいることはきっと、現代を生きる人にとっては“わかる”と思えるものが多いはず。例えば、幹夫は絶対に怒らない。自分が怒ったことで人を傷つけたくない。それは、自分が怒って人を傷つけたことで自分が傷つきたくない、という自己防衛本能の現れでもある。一方の繁子は大胆不敵で、その言動は幹夫とは正反対に思えるが、やはり人間関係においては一歩踏み出せない臆病さを見せる。つまり本作は、臆病な大人の男女が出会い、不器用ながらも“偽物の関係”から“本物の関係”へと一歩踏み出していく様子を描いた人間ドラマ、あるいは、ロマンティック・コメディというわけだ。自分自身を取り巻く世界を重ねながら、心を寄せながら、幹夫と繁子の行く末を見届けたい。

『ラプソディ・ラプソディ』

https://www.bitters.co.jp/rhapsody/

2026年/日本/106分

監督・脚本 利重 剛
出演 高橋一生 呉城久美 利重 剛 芹澤興人 大方斐紗子 関口和之(友情出演) / 池脇千鶴 ほか
配給 ビターズ・エンド

※5月1日(金)よりテアトル新宿、シネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開

©2026 利重 剛