FLYING POSTMAN PRESS

クリエイターを繋ぐ対談連載CREATOR × CREATOR

異なるフィールドで活躍する若手クリエイターふたりがモノ作りの楽しさや面白さ、大事にしていることなどを語り合う本連載。第25回のゲストは、往年のハードウェアシンセサイザーや音源モジュールを用いるDTMユニット“パソコン音楽クラブ”の柴田碧×北海道札幌市発のニューウェーヴ・テクノポップ・バンド“LAUSBUB”の岩井莉子。

Vol.25ミュージシャン・柴田碧(パソコン音楽クラブ) × ミュージシャン・岩井莉子(LAUSBUB)

  • 柴田 碧
  • 岩井莉子
今回の対談は、柴田さんが“岩井さんと話してみたい”と熱望して実現しました。お互いに聞きたいことはなんでしょうか。

柴田「この前のライブで、カレーのナンのネクタイピンをつけてましたよね?」

岩井「ネクタイナンですね」

柴田「そういう、人に言うまでもないこだわりにグッときて、他にもあるのかなって(笑)」

岩井「恥ずかしいです(笑)。あれはナンをテーマにした曲(※LAUSBUB「The Catcher in the Dai」)に合わせて粘土細工作家の方が作ってくださって、大事にしています。そういうくだらないことを織り交ぜるのが好きで、どこでふざけられるかいつも考えてます。ふざけるために生まれてきたんじゃないかって最近思うので、もう一歩踏み込んでがんばりたいです」

柴田「淡々とボケる感じ、すごくヤバい(笑)」

岩井「私も聞きたいことがたくさんあるんです。パソコン音楽クラブのライブセットを見た時に、90年代後半のイベント<WIRE>を始めた頃の電気グルーヴを感じて。影響が大きいのか気になりました」

柴田「それはすごくあります。『イルボン2000』というライブ音源を編集したアルバムを聴いて“電子音楽のライブはこういうもの”ってインストールされたから、影響はデカいですね」

岩井「『イルボン2000』が標準ってすごいですね。あの時期の電気グルーヴをリアルタイムで見られなかったから、パソコン音楽クラブのライブを見た時にその悔しさが晴れて、感動しました」

岩井さんのルーツは?

岩井「YMO、Cornelius、電気グルーヴ、Buffalo Daughterから一番影響を受けてます。他にはThe Flipper's Guitarも中高生の時によく聴いてて。SKETCH SHOWやパソコン音楽クラブもそうですし、ふたり組に対する憧れが強かったなと思います」

柴田「岩井さんってテクノやニューウェーブのルーツを感じつつ、現行のエクスペリメンタルロックであったり、謎にジャズのフィーリングとかビョークの影響も感じて面白いなって。パロディの形で引用されているわけじゃなく、精神が垣間見えるというか。ズレてる?」

岩井「いえいえ。ビョークも大正解です」

曲作りで大切にしていることを教えてください。

柴田「人に聴いてもらいたいという気持ちはあるんですけど、一方で伝わらなくてもいいから自分が入れたい要素を絶対に入れています。“なんでこの音色を使ったんだろう”みたいな本人にしかわからないものって僕たちの曲は多くて、セオリーを外したいという気持ちはありますね。リミッターをかけすぎるとつまらないし、自分たちがやる意味がなくなっちゃうので、自由にやることは心がけてます」

岩井「今の話、共感します。私は自分が好きな音楽をわかってもらいたい気持ちが強くて。だからその時聴いてる音楽からのインプットが曲に反映されるんですけど、自分の中で昇華する時に、聴く体験と作る体験がセットになっています。それを喜んで聴いてもらえたらラッキーぐらいに思ってますね」

インプットはどのように?

岩井「サブスクで掘ったり友達から教えてもらったり、ライブやクラブに行って知る音楽もたくさんあって、自分の興味の幅がどこまで広がるのか確かめながらインプットしてます」

柴田「音楽以外のものを音楽に読み換えるのもインプットだなと思って。例えば朝起きて、日の光が入ってくる推移を見て“このタイム感ヤバいな”とか。自分の考えを構築するひとつの言語として音楽を捉えてる部分があって、目の前のシチュエーションや今のフィーリングを説明するのは言葉じゃなくてもいいと思ってるんです。身の周りに溢れているものを音楽にコンバートできるんじゃないかなって」

岩井「パソコン音楽クラブの曲って“時間帯”のイメージがあるんですよね。“これは朝っぽい”とか情景を想像したくなる曲が多いので、その感覚と柴田さんのインプットは繋がってたんだなと思いました。私も切羽詰まった中で勢いで曲を作ることがあるので、そういった生活のリズムが音楽に影響しているかもしれないです」

柴田「LAUSBUBっていろんな音楽のエッセンスと独自の感覚が反映されているなと思ってて。こんなふうに例えるのもおかしいんですけど…ナラ・シネフロってわかりますか?」

岩井「わかります」

柴田「ハープとモジュラーシンセで音楽をやってる彼女の作品が、エレクトロニカやIDMのWarp Recordsというレーベルから出た時に近い自由さを感じて。だからもし岩井さんが手元にコンガだけ置いて髙橋さんが歌っても、ニューウェーブやテクノポップとしてまかり通ると思います。何言ってるんだって感じですけど(笑)、その幅広さが魅力的」

岩井「うれしいです。でも自由な音楽といえば、私の中ではパソコン音楽クラブなんですよね。同じことを考えてました」