クリエイターを繋ぐ対談連載CREATOR × CREATOR

異なるフィールドで活躍する若手クリエイターふたりがモノ作りの楽しさや面白さ、大事にしていることなどを語り合う本連載。第30回のゲストは、曲作りや映像制作など多岐にわたる表現をするシンガーソングライターのa子と、大学に通いながら創作活動を行う新鋭イラストレーターのテナテル。

Vol.30ミュージシャン・a子 × イラストレーター・テナテル

  • a子
  • テナテル(ArugaUtena)
テナテルさんは、a子さんの最新EP収録曲のMVに携わっているんですよね。

テナテル「『racy』のMVは昨日完成したんです。やったー!」

a子「お疲れ〜!アニメーションでMVを作ることになって、良い方はいないかなってX(旧・Twitter)でディグったんです。それでテナテルさんの世界観がすごくてお声がけしました」

テナテル「総合大学に行きつつ絵を描いてるので、こんなに大きい仕事をいただけるなんてXドリームですね」

『racy』のMVでは何を大切にしましたか?

テナテル「私たちの共通認識として、ストーリーを追わせるMVだとアニメーションが曲を食ってしまうので、曲をさらに良くするようなMVを作りたくて。最初に“『攻殻機動隊』や『AKIRA』っぽいものを作ってください”と言われて、どういう要素を入れたらそれっぽくなるか考えた時に、“伝わらないけど作り込まれている雰囲気”が欲しいなと思って、ストーリーや設定を練り上げました。a子さんの感情に基づいた脚本を作るために“この部分はどういう気持ちで書いたんですか”と聞いたりして、自分が日常で感じたことをリンクさせてストーリーを組んでいって。だから脚本は作り込んでいるんですけど、観ている人にはストーリーがわからなくてもいいんですよね」

a子「なるほど。深さのためのあの脚本なんだね」

お互いの作品に対する印象を教えてください。

テナテル「a子さんの曲は伝えたいことが明確にわかるような歌詞じゃないからこそ、“伝えたいことが一本じゃない不安定さ”が感じられて。私たちってモノを作る時にどうしても物語で伝えようとするから、印象が一本化されちゃう気がするんです。でも、現実世界で何かを感じる時ってもっと複雑な感情で受け取ると思うんですよ。ハッピーエンドとかバッドエンドじゃなくて、良いか悪いか幸せかどうかは受け取る人が決める。そういう表現が好きなので、初めて聴いた時からグッときました」

a子「テナテルさんみたいな色の雰囲気のイラストレーターって、日本ではあまりいないと思うんですよね。色ってアニメーションの世界観を決めるものだと思うので、『racy』のMVをお願いする方も色で決めたいと思いました。自分の曲調に合うダークな色やセル画っぽい雰囲気が欲しくて、テナテルさんなら合うかなって。でも最初は不安もあったんですよ。『攻殻機動隊』とか『serial experiments lain』の世代の方じゃないし“ネオ東京って何?”みたいに(感覚が)わからなかったらどうしようって。けど、作品を理解しようという姿勢だったし、どうすれば作品を良くできるか常に考えてくださる方だったので助かりました。あれだけクオリティ高いものを作れたのはヤバいなって思います。天才」

テナテル「実は今、就職するかどうか進路に迷い中なんです。a子さんはどうでしたか?」

a子「高校生の時に“どうせいつかは死ぬし、自分の好きなことやろう”と思って。歌がうまいタイプじゃないので悩んだんですけど、海外の『ザ・ヴォイス』というオーディション番組でメラニー・マルティネスがトップを獲ったのを観たんです。ザ・歌唱力ってタイプじゃなくても、世界観や声の作り方、ビジュアルを含めた総合的なものでトップになれるんだなって。それなら自分もがんばってみたいと思って上京しました。帰れる場所がないし、背水の陣で来ているからこそ気合いが入ったのかなと思います」

テナテル「格好良い。アーティストになるのに大切なのは覚悟ですよね」

a子「どれが正しいとかじゃないけど、一緒に仕事してる人でも背水の陣タイプの人たちは向上心あるなって」

テナテル「良いものを作る上で向上心って大事で、今回もa子さんに“ここの色が…”と言われて私が“いや、この色はこういう理由があって”と返すやり取りをたくさんしました(笑)。同じ想いを持った人と一緒にやるのが、良いものを作る一番の方法だと思います」

a子「たくさん連絡しちゃって申し訳ない(笑)。でも、作品を作る人って表現することで存在意義を見出している人も少なくないし、妥協したくないよね。今回テナテルさんには着彩や撮影処理、監督などをやっていただいたんですけど、そこまでできる人って重要だなと思います」

テナテル「普通、アニメーターが色を塗る範囲を指定するんですけど、今回は線画をポンっと投げられて、私が範囲を指定してアニメーションを作るという特殊な作り方だったんですよね。めっちゃ楽しかったです」

a子「そう思ってる時点でもう好きだから、仕事にしたほうがいいと思う。今回大変な作業もたくさんあったと思うけど、楽しかったって言えるのはすごいなと思います。宮﨑駿さんもおっしゃってますけど、面倒臭いことがクリエイティブにおいて一番重要で、それをできる・できないは本気でやってるかどうかで決まるから」