Vol.31映画監督・マルティカ・ラミレス・エスコバル × 映画監督・木村聡志
それぞれの新作映画をご覧になっていかがでしたか。
マルティカ「木村さんの『違う惑星の変な恋人』は構成はシンプルですがとてもリアルで、エリック・ロメールの『友だちの恋人』(’87)の男性と女性の関係を思い起こさせるような映画でした。私が作った『レオノールの脳内ヒプナゴジア』(以下:『レオノール』)は物語の階層が複雑になっていて、それとは正反対。だからこそ、お互いの映画について今日話せることが楽しみです」
木村「ありがとうございます。実はこれまで作った映画もエリック・ロメールやホン・サンスの作品を比較対象として挙げられることが多くて。自分としてはそれらの作品を意識して作ってはいなかったんですが、今回作るにあたって初めてエリック・ロメールやホン・サンスの脚本の書き方を勉強してみました。映画を観ながら一つひとつのシーンにどういう意味があるのかと解読していく作業をしてから、『違う惑星の変な恋人』を作り始めたんです。だから、近いと言ってもらえるのはうれしいですね。僕はマルティカさんの『レオノール』を観終わった時、幸せな気分になりました。というのも、映画への大きな愛情が注がれた作品だと感じたので。あと、元映画監督の主人公レオノールの頭の中で展開するごく個人的な物語のように思えますが、広く考えると各地で戦争や紛争が起こっている今の世界の情勢の縮図のようにも捉えられる。問題提起のある作品だと感じました」
マルティカ「ありがとうございます」
木村「映画のいろんなところに鶏の鳴き声が入っていますよね。昏睡状態になったレオノールに彼女の息子が話しかけるシーンでは、息子が“ママの映画では鶏が象徴的に出てくるけど、何か意味があるの?”と質問をしていたりもするし。あと印象深かったのが、鶏の鳴き声が聴こえた後で次のシーンになり、夜だったこと。日本では鶏の鳴き声は朝を告げる象徴のようなところがあります。これは日本とフィリピンとの文化の違いなのかもしれませんが、マルティカさんの中では鶏は何かの象徴なんですか?」
マルティカ「私が住むフィリピンのマニラには至るところに鶏がいて、常にその鳴き声が聴こえてきます。だから物理的な問題として、街で映画を撮るとどうしても鶏の鳴き声が入ってしまうんです。それを後で取り除くのは大変なので、あらかじめ鶏が常に鳴いているという設定にしたというのがまずあります。あとはやっぱり、鶏はマニラの象徴的な動物だと思うから。つまり、貧しい街の象徴ということです。今、文化の違いという言葉がありましたが、『違う惑星の変な恋人』で私が好きな登場人物のむっちゃん(莉子)がトイレで隠れたりするところ。ああいう描写は多分、国境を超えて理解されるものだと思うんです。登場人物たちはタイトル通り、違う惑星に住んでいるようなちょっと変わっている人たちですが、描かれる内容はユニバーサル。そこも対照的だと思いました。『レオノール』にはフィリピンの独特な文化が強く表れていると思うので」