FLYING POSTMAN PRESS

クリエイターを繋ぐ対談連載CREATOR × CREATOR

異なるフィールドで活躍する若手クリエイターふたりがモノ作りの楽しさや面白さ、大事にしていることなどを語り合う本連載。第23回のゲストは、4/14より公開の映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』で商業長編デビューを果たす金子由里奈監督×俳優・文筆家・電線愛好家として活躍する他、4/3より始まるラジオ番組『こねくと』ではメインパーソナリティも務める石山蓮華。

Vol.23映画監督・金子由里奈 × 俳優・文筆家・電線愛好家・石山蓮華

  • 金子由里奈
  • 石山蓮華

「“すべてを繋げない”ことも自分を守るためには大事」(石山)

金子監督は石山さんの創作に触れ、どんなことを思いましたか。

金子「石山さんが書かれた『電線の恋人』を読ませていただいて。中学校の卒業式の日に“電線がずっとそこにあったことに気付いた”と書かれているところを読んで私、泣きました。意識して初めて見えるものがあるということを、ちゃんと実感して文章に落とし込んでいらっしゃるんだなと。その“気付き”に溢れた文章に感激しました。あと、私も“物”が好きなんですよ。実は以前、鴨川とお付き合いしていたこともあるぐらいで(笑)」

石山「へぇ! 金子さんは外の“物”に対して心を開くほどに、自分の内側にある扉がどんどん開いていくような感じってわかります?」

金子「すごくわかります」

石山「やっぱり。『ぬいしゃべ』を観て“あの感覚がちゃんと映っている”と感じられ、なんだかうれしかったです」

金子「私も石山さんの本を読んで共振する部分が多かったです。石山さんって些細な瞬間にさまざまな気付きを得られる、気付き屋さんじゃないですか。でもそれって、疲れてしまうこともあると思うんです。疲れてしまった自分とどう向き合い、どう癒しているんですか?」

石山「私は今30歳ですが、28歳、29歳の頃からスッとメンタルが落ち着いたのを感じていて。でも20代半ばまでは“気付き&傷付き王”という感じで、泣かない日はなかったというぐらい。確かに、落ち込んだり、深く考えたりするのには体力も精神力も使います。だから、ずっと落ち込み続けるわけにはいかない。私の場合は仕事が切り替えの役に立っています。シンプルに、仕事に行けないからもう泣きやまないとって。それと、一事は万事とは思わず、その日の自分が関われるのは良くも悪くも自分の体の届く範囲のことだという体感を積み重ねること。“すべてを繋げない”ことも自分を守るためには大事なのではないかと思います」

金子「私は今27歳ですが、最近自分の力ではどうしようもない事象との距離を取れるようになってきました。楽になってきたと感じ始めたばかりで。私の周りの30代、40代の女性として生きる方々に“段々楽になるよ”と言ってもらえるんですが、今の私はその言葉を胸に留めて生きています」

石山「でも、まずは気付くところからですよね。贅沢貧乏という劇団を主宰する山田由梨さんという同い年の友人が、“女性って自分にかけられていた呪いに気付くまで25~30年かかるよね”と話していて。呪いがかけられていたと気付いて初めて解く方法を考えられるようになるんです。『ぬいしゃべ』もそういう示唆に富んだ映画だと思います。知らず知らず自分や相手にかけていた、かけられていた呪いに気付くヒントがあると感じました」

最後におふたりが今、創作する上で大事にしていることをお聞かせください。

石山「私は、文章を書く時は嘘をつかないようにしています。それと、読み直す時間を大事にしています。お話しした通りで私は落ち込むことも多いので。落ち込んでいる時に書いた文章は落ち込んでいない時に必ず読み直す。それも大事だと思っています」

金子「私は何かを表現するというのはそもそも、誰かの“傷付き”の上で成り立っているものだと思っていて。どうしても暴力を振るってしまうのであれば、なるべく誠実に振るいたいと思っています。そして、これまで映画に撮りこぼされてきたものたちを映せるまで映画と関わり続けたい。そう思っています」

石山「素敵です。これからの作品も楽しみにしています」

金子「がんばります!」