FLYING POSTMAN PRESS

クリエイターを繋ぐ対談連載CREATOR × CREATOR

異なるフィールドで活躍する若手クリエイターふたりがモノ作りの楽しさや面白さ、大事にしていることなどを語り合う本連載。第22回のゲストは、2/23より公開となる青春恋愛映画『少女は卒業しない』で商業長編デビューを果たす中川駿監督×京都の南山城で100年以上宇治茶を生産してきた中窪製茶園の五代目・中窪良太朗。

Vol.22映画監督・中川 駿 × 中窪製茶園 五代目・中窪良太朗

  • 中川 駿
  • 中窪良太朗

「一般的価値観に囚われ、個性を見落とさないように」(中窪)

中川監督は、中窪さんご夫妻の人生から着想を得た短編映画『わだち』を撮られたそうですね。製作を通じ、お互いの人柄や仕事ぶりをどうご覧になりましたか。

中川「お会いする前は“茶農家さんは自分の仕事に対してのプライドが高そうだし、怖そう”という勝手なイメージがあったのですが、良太朗さんは物腰柔らかくやさしくて。また印象的だったのが、自分の仕事やお茶業界をクレバーに柔軟に客観視されているところ。例えば良太朗さんは今、シングルオリジンティー(※単一農園単一品種のお茶のこと)を作られていますが、だからと言って広く流通されているブレンドティーを否定したりはしない。なんなら、ペットボトルのお茶も普通においしいと言って飲むんです。その“いろいろあっていい”という姿勢に映画を作っている自分も共感しましたし、感銘を受けました」

中窪「『わだち』の顔合わせで初めてお会いした時から、中川さんはすごく撮影に熱心な方で。どんなささいな映像も手を抜かず、こだわり抜いて撮られる姿が印象的でした。また『わだち』を撮影中は、いろんなアクシデントがありまして。でも、中川さんはその場その場で柔軟に物事を変えながら、“あのアクシデントがあって良かった”と思ってしまうような最高の結果に繋げていかれた。本当にすごい人だなと思いました」

中川「現場対応力は前職で培われたものです。僕はイベント制作会社に勤めていたんですが、イベントはライブですからトラブルは付きものなんです。常に、“その現状での最大価値”を追求していかなければいけない。その経験が映画の現場でも生かされていると思います。映画も現場で何が起こるかわかりません。現場でキャストやスタッフとコミュニケーションを取る中で脚本よりもっといいものが見つかったりすることもありますし、見つけたものは生かしたい。脚本に縛られ過ぎてはいけないと思っています」

中窪「お茶も同じです。一年のうち、この時期にこの作業をするという決まった流れはありますが、結局は天候によって“できる・できない”は変わります。湿度によってお茶作りの基本設定を変えないといけなかったりするんです。経験と勘を頼りに手の感覚だけで、その日その日で設定を変えていく。毎日違うことをしながら同じものに近付けていっているという感覚があります」

“ひとりで究めるモノ作り”と“みんなでするモノ作り”とでは、どちらが感覚として近いですか?

中窪「その日の茶葉の感触で設定を変える、という作業では自分の技術を究めていっている感覚です。ただ、その後で実際に茶葉の工場を動かすとなると、ひとりではできません。みなさんの力に支えられて作っています」

中川「これまで映画を自主制作してきて、資金集めから撮影・編集に至るまで自分の責任と裁量でやってきました。今回初めて『少女は卒業しない』という商業映画を作り、これまでと大きく変わったと感じていて。プロデュースチームや宣伝配給チームとその都度同意形成しながら作る。いろんな人の意見をブレンドして一本の映画にしていった感じで、まさに“みんなでするモノ作り”でした。映画界における自主制作映画と商業映画は、お茶業界におけるシングルオリジンとブレンドという考え方と似ていると僕は思っていて。ただ、お茶はシングルオリジンとブレンドがそれぞれブランドとして確立している印象がありますが、映画はそこまで至っていない。自主映画は商業映画に至らない劣化版といった感覚で受け止められている気がするんです。だから良太朗さんに聞きたかったんです。シングルオリジンを作る以上、お客さんに届ける過程は難しいと思いますが、どんな工夫をしているんですか?」

中窪「シングルオリジンの場合、お茶の樹、つまり品種で分けるんですが、それぞれの品種に個性があるんです。まずその個性をちゃんと理解し、作る段階から最大限に引き出すことを意識しています。旨味が強いとされる樹であれば、しっかりとその強い旨味を引き出すという具合に。そして提案する時は、まず飲む方の好みを聞き出します。渋いお茶が好きだとか、香りのいいお茶が好きだとか、好みに合わせて提案するようにしています。よくお茶業界では“渋みが少なくて旨味が強く、香り高いことが高品質の証し”と言われますが、例えば、一般的に評価されない強い渋みも人によっては好きだと思ってもらえる個性かもしれない。一般的価値観ばかりに囚われ、各品種の個性を見落としてしまわないよう心がけています」

中川「例えば映画では一般的価値観として“泣ける映画がいいよね”とか。もちろん、感動できるのはいいことですが、泣けない映画でも面白い映画はたくさんあるわけで。一般的価値観だけに囚われず、それぞれの映画の個性をちゃんと伝える。それが大事なんでしょうね」