Vol.22映画監督・中川 駿 × 中窪製茶園 五代目・中窪良太朗
「一番大事に思っているのは、観客に価値を返すこと」(中川)
中窪さんは、中川監督の『少女は卒業しない』をご覧になっていかがでしたか。
中窪「“田舎の高校の卒業式”が描かれるんですが、京都の片田舎出身としてはリアルな描写ばかりだと思いましたし、共感できる部分がたくさんありました。例えば、細かいところですが、地元の理容室の前で待ち合わせするとか。僕らもモリタという駄菓子屋の前を待ち合わせ場所にしたなと(笑)。あの感じ、すごくリアルでしたね」
中川「確かに田舎の高校生の細部にはこだわりました。撮影場所は山梨県の上野原市だったんですが、クランクイン前に個人的に訪れ、町の感じとか、現地の高校生の様子も確かめたりして。傍から見たら完全に不審者でしたけど(笑)」
中窪「田舎の高校生の心の在りようも細部までリアルに表現されていると感じました。またそれを、都会育ちの中川さんが表現できているのがすごいなと。『少女は卒業しない』もそうだし、以前撮られた『カランコエの花』を観ても思いましたが、中川さんの映画には人の心情がすごくよく表れていて。なかには、中川さん自身が経験していないこともあると思います。それをリアルに表現するって、どうしているんですか?」
中川「僕自身がその心情を理解し、計算して表現している部分もありますが、同時に遊びを持たせた演出もしているつもりなんです。つまり、台詞で詳しく説明するとか、わかりやすく怒っているとか、そういう表現はせずに観た人に“この人は今、何を考えているんだろう?”と想像してもらえるぐらいの余地を残したいと思っていて。そうすればお客さんそれそれが、自分なりに吸収しやすい形に自然と組み替えてもらえるだろうと思うので」
最後におふたりの今後の展望を聞かせてください。
中川「僕が今映画作りをする中で一番大事に思っているのは、観客に価値を返すこと。約2時間と1900円程度のお金をいただくわけですから、“楽しかった”だけでは返しきれていないと思っていて。内容を楽しんでもらうのはもちろん、その上で新しい価値観を提供したり、気付きを与えられるような映画を作っていきたい。観終わった後、何かひとつ持ち帰ってもらえて、その人の人生がちょっとだけ変わる。そんな映画を作っていきたいです」
中窪「お話しした通り、お茶は天候の影響も受けやすいものなので、毎年同じものが作れるわけではありません。僕としては、その毎年の変化を進化と捉えたいと思っています。変化しながらも価値と品質をしっかりと上げていくことを大切にしたい。お茶を飲んだ人に“去年とは違うけど、良くなったね”と言ってもらえるようなお茶を作っていきたいと思っています」