Vol.15演出家・加藤拓也 × ミュージシャン・小袋成彬
「お客さんに能動的に参加してもらう。それを映画に持ち込みたかった」(加藤)
加藤さんから“対談してみたい方”として小袋さんの名が挙がり、対談が実現しました。そう思われた理由とは?
加藤「純粋にファンなんです。音楽がメチャクチャ格好いいなぁと。一枚目の『分離派の夏』からアルバムも全作聴かせてもらっています。あと僕、ヨーロッパで作品を作ることになっていて。小袋さんが活動の拠点をロンドンに移されているというのを何かで見て、その点でも興味を持って活動を見させてもらっていました」
小袋「ありがとうございます。うれしいですね。励みになります」
小袋さんのニューアルバム『Strides』を聴いていかがでしたか。
加藤「第一に音がメチャクチャ格好いいなぁと。あと詞も独特で印象的です。こういう詞を書いている方を僕はあまり知らないので、余計に印象に残りました。あと思ったのが、これまでのアルバムとは印象が違うということ。一枚一枚、一曲一曲違うんですよね。同時に、これまでの作品すべてが地続きの中にあるような印象もあって。だからか、小袋さんのここ数年の軌跡を聴いているような感覚になりました」
小袋「それはうれしいですね。僕は自分が成長するために音楽を作ってるので。売れたいとかじゃなく、自分の変化に対して音楽も変化していくのは当たり前というか。自分の経験を作品にしてるって感じです」
加藤「曲順っていつもどうやって決めているんですか?」
小袋「曲順か…どうしてるんだろう(笑)。最初から決めているわけじゃないですね、もちろん。あ、野球の打順と一緒かも。1番、2番で出塁率を上げて3番、4番で展開して、みたいな(笑)。9番バッターは1番に繋げられるようにっていう。要は最後の曲を聴いたら、“また頭から何度も聴いてみたい”と思わせるような感じにするというか。今思い付いたんですけど(笑)、マジで打順かも。良いアルバムって3曲目、4曲目が良かったりするし」
加藤「へえ、面白いな。物語構成にちょっと近いものを感じます」
加藤さんは脚本を書く時、起承転結をしっかり固めてからですか?
加藤「割とザックリ大きく決めてから書きます」
小袋「『わたし達はおとな』って時系列が行ったり来たりしますよね?」
加藤「そうですね。僕はそもそも演劇メインで活動していまして。演劇の場合、俳優とお客さんの間で流れている時間が一緒なんです。同じ時間、同じ空間を共有している。それに対し、物語の中の時間っていうのは自由自在で。過去や現在、未来へと物語の時間と場所が好きに飛んでいく。そうすると、自然とお客さんが脳みそを使って観ることになるんです。要は、お客さんが能動的に演劇に参加することになる。それを今回の映画にも持ち込みたかったんです。映画の中の時間は基本的に真っ直ぐ流れていくことが多いと思います。それをお客さんは受動的に受け取っていくわけですよね。そこを能動的に切り替えてもらいたくて、時系列をぐちゃぐちゃにしようと。演劇的な出発点から、ああいう構成になったという感じです」
小袋「なるほど。映画を観て、クエンティン・タランティーノの『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』、クリストファー・ノーランの『メメント』あたりと同じ感じを受けたんです。ああいう作品に似た時間軸の設定の仕方というか。あと、カメラワークと表情の切り取り方。普段、演劇を作る時にこんな視点で見ているんだろうなということを映画を観て感じることができました。Good job!」
加藤「ありがとうございます(笑)。今回映画を作ってみて思いましたが、映画は複製芸術なんですよね。撮影した素材を編集して繋ぎ、それが複製されて世の中に渡っていく。でも、普段僕がやっている演劇は劇場に持ち込む時にはある意味において完成しないんです。要は人間が生でやるものだから。複製芸術じゃなく、常に不安定な状態で本番を迎えることになる。だからか今回、自分が作っているものを完成させることに違和感があって。小袋さんはどうですか? 音楽って完成するものですか?」
小袋「完成させないとね。俺らが産業ってものを作ったから音楽がお金で取り引きされるようになったんだけど、そもそも音楽自体はタダで。それをパッケージングするって、俺にとっては生きた証しのひとつとして世の中に出し、聴いた人に経験してもらうっていうことで。俺が提供しているのは経験なんですよ。それが俺の音楽の本質で。そのためにはまず完成させないとって感じですね」
加藤「なるほど」
小袋「例えば、マイルス・デイヴィスはずっと即興で音楽をやっていて、レコード出さなきゃいけないからってことで、じゃあ完成させるかと。それで最高のミュージシャンを集めてオーガナイズし、パッケージングするっていうことをちゃんとやっていた。だから、マイルス・デイヴィスとか聴いたらインスピレーションを受けられるかもですよ。演劇と映画のバランスというところで」