FLYING POSTMAN PRESS

クリエイターを繋ぐ対談連載CREATOR × CREATOR

異なるフィールドで活躍する若手クリエイターふたりがモノ作りの楽しさや面白さ、大事にしていることなどを語り合う本連載。第13回のゲストは、突然いなくなった親友と向き合う女性の姿を描いた映画『やがて海へと届く』の中川龍太郎監督×4/20に2ndアルバム『our hope』のリリースを控える羊文学の塩塚モエカ。

Vol.13映画監督・中川龍太郎 × ミュージシャン・塩塚モエカ(羊文学)

  • 中川龍太郎
  • 塩塚モエカ
中川監督が思う羊文学の音楽の魅力、塩塚さんが思う中川監督作品の魅力とは?

中川「はっきりとロックとポップスがどう違うかと考えたことがなかったんですが、ある時わかりました。去年の11月に、映画や本が好きで、僕がとても影響を受けた祖母が亡くなりました。その葬式の帰りにふと『あいまいでいいよ』を思い出し、聴いたんです。その時に“あ、これがロックなんだ”と思ったんですよね。つまり、“あいまいでいい”という言葉をあいまいじゃなく言い切るということがロック。“情緒”ではなく“宣言”であるということがロックなんだと思ったんです。そういうことが歌詞や歌声、演奏に溢れていて、それがとても勇ましいと感じた。語られていることが勇ましいのではなく、在り方が勇ましくあろうとすること。情緒だけに耽溺しない姿勢が格好良くて惹かれました。僕自身が聴いてすごく勇気付けられて。それでドラマ『湯あがりスケッチ』を撮った時、主題歌はこれしかないと思ってお願いしたんです」

塩塚「ありがとうございます。すごくうれしいです。その『湯あがりスケッチ』はドラマでありながらドキュメンタリーみたいな感じもありますよね。登場する人たちのリアルな会話が映し出されている感じがして、すごく面白かったです。あれは、実際の銭湯の方も出ていたりするんですか?」

中川「何話か本当に銭湯の方に出てもらいました。あと銭湯の方に一度演じてもらい、役者に銭湯の方の癖を取り入れながら演じてもらったりも。そういうのが混ざり合っています」

塩塚「映画『やがて海へと届く』でも主人公が東北に行くシーンでは実際にその土地の人たちが出演されていたと思うんですが、そういう、現実とフィクションの交錯みたいなところも中川さんの作品には感じられて」

中川「“言葉になり得ないもの”をどう表現するかなんですよね。『やがて海へと届く』を作るために東北に何度か足を運びましたが、その際に感じたものは自分が脚本で書いたものとは違うんです。自分の書いた脚本をもとにロケハンに行ってもやっぱり、脚本とのズレはどうしても生じるものです。それをなるべくすり合わせるのは大事な作業だと思っています。職業俳優と実際に東北に住む方に共演していただくというのは、そういう作業のひとつ。そういったことをしながら“言葉にはなり得ないもの”に届こうとすること。それはこれからも大事にしていきたいところです」

 

塩塚「もうひとつ、『やがて海へと届く』を観たら役者さんたちがそれぞれまったく違うと感じました。“この人とこの人の演技が似ている”と感じたりすることがまったくなかったんです。型にハマっている感じがなかったというか。一人ひとりのカラーが出るように演出されるのはいつも意識しているところですか?」

中川「僕は演じる人自身の中にまったく存在しない言葉は、いかにうまく演じようと適切な響きを持たないのではないかと感じることがあります。だから、まずはキャスティングが重要です。また、『やがて海へと届く』の軸となる真奈(岸井ゆきの)とすみれ(浜辺美波)は仲がいい友だちですが、“一見違うような言葉”で喋るふたりであればいいと思っていました。このふたりはトイレにも一緒に行くというような、いわゆるこの社会のステレオタイプとして描かれてきた“女友だち”ではないんです。それぞれが自分の言葉を持って生きているふたり。好きなものが似ていて仲がいいというよりは、嫌いなものが似ていて仲がいいふたりだと思うんです」

塩塚「ああ、すごくわかります」

中川「その“言葉が違う感じ”が今回は特に大事だった。そういうことが“一人ひとり違う感じ”に繋がったのかもしれません」