CINEMASPECIAL ISSUE
ネット発スリラー『バックルームズ』

新人監督ケイン・パーソンズが誘う 美しくも不気味な『バックルームズ』 ネット発スリラーが映画史を塗り替える
黄色い壁紙に囲まれ、蛍光灯に照らされた、誰もいない空間。そんな、一度見たら脳裏に焼きつく異様な空間を舞台にした映画『バックルームズ』。世界各国で大ヒット中の体感型スリラーが、9月4日(金)より日本で公開となる。監督を務めたのは、現在21歳のケイン・パーソンズ。独創的なその世界に魅了され、恐怖するひとときを。
ネット上の都市伝説から生まれたスリラー
監督を務めたほか、ウィル・スディークと共に脚本、エド・ヴァン・ブリーメンと共に音楽も手がけたケイン・パーソンズ。そんな彼がインターネットの匿名掲示板「4chan」に投稿された1枚の画像を見たのは、2019年のことだった。黄色い壁紙に囲まれ、蛍光灯に照らされた、誰もいない空間が写ったその画像に触発され、2022年に16歳で9分間の短編『The Backrooms(FOUND FOOTAGE)』を制作し、YouTubeへアップロード。公開からわずか2週間で2,000万回再生を記録し、“インターネット上、最恐の動画”として世界中に拡散されることに。パーソンズは高校に通いながらもその世界を拡張し続け、全22話に及ぶバックストーリーを構築。シリーズの総再生回数は2億1,600万回を超え、独自の巨大なファンコミュニティが形成されることとなった。
この圧倒的な才能に目を向け、長編映画化の後押しをしたのがA24だ。パーソンズが17歳の時に映画化へと動き出し、19歳で撮影、20歳で長編監督デビュー。2026年5月29日に公開されると、公開初週末に北米で8,100万米ドル、全世界で1億1,800万米ドルの興行収入を記録し、当時20歳だったパーソンズは全米・世界興行収入1位作品を生み出した史上最年少監督に。その後もとどまることを知らず、8月時点で全世界3億9,000万米ドルを突破。今なお記録を伸ばし続けている。

1990年、家具販売員のクラークはショールームの地下で不気味に輝く“異世界への入口”を発見。その先に広がっていたのは、見覚えのある部屋や廊下が無限に続く、巨大な迷路だった。その異様な空間に魅了され、探索を続けるうちに消息を絶ったクラークの跡を追い、彼のセラピストのメアリーもその空間へと足を踏み入れる──。

クラークを演じるのは、『それでも夜は明ける』(2013)で第86回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたキウェテル・イジョフォー。メアリーを演じるのは、『わたしは最悪。』(2021)において第74回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で女優賞を受賞し、『センチメンタル・バリュー』(2025)において第98回アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされたレナーテ・レインスヴェ。演技巧者たちが才気溢れる新人監督が築いた世界の囚われ人となり、観客を引きずり込んでいく。
ホラー、スリラーの恐怖表現を変える
本作の独特の空間表現は<リミナルスペース>と呼ばれている。例えば、深夜の学校やオフィス、閉店後のショッピングモールなど。人が存在しない人工的な空間を目にして、懐かしさを覚えると同時に不気味に感じる。そんな経験をしたことがある人も多いはずだ。

家具販売員のクラークが奇妙なオフィス迷路へと足を踏み入れた瞬間、観客はその光景に魅了されるのと同時に、強烈な違和感を覚えるはずだ。くすんだカーペット、蛍光灯から響くノイズ、そして、無限に続く黄色い壁紙──。本来の目的を失った無人の場所は、なぜこれほどまで人を不安にさせ、恐怖を抱かせるのか。セラピストのメアリー役のレナーテ・レインスヴェはその空間を人間の精神世界と重ね合わせ、「私たちの心の中には、普段は引き出すことのできない領域がたくさんある。潜在意識の中でしかアクセスできない特別な事柄が存在する」と語っている。
本作はスリラー、あるいはホラーと呼べるものだが、突然の大きな音や映像で観客を驚かせるといった定番の表現は使われていない。本作の恐怖表現はメンタル重視。登場人物たちが直面する心理的かつ実存的な恐怖を、独特の空間表現と絡めながら描いている。だからこそ、クラークとメアリーがその空間の奥深くへと迷い込むほどに、自分自身の潜在意識に潜っていくかのように錯覚してしまう。観客である自分は第三者だったはず。それなのに、いつの間にか“当事者”になっていた。そう感じる人も多いはずだ。
体感型の世界を支える映像と音
間違いなく異常だが美しく、どうにも引きつけられる空間<バックルームズ>は、パーソンズがYouTube動画制作で培った独自のスキルと、映画的見せ方を掛け合わせて作られている。VFXアーティストとコンピューター・アニメーターの技術を独学で習得した彼は、短編『The Bachrooms(FOUND FOOTAGE)』をオープンソースのVFXソフトウェアであるBlenderを使用して制作。映像はファウンド・フッテージ(※行方不明になった撮影者が所持していた映像という設定のフィクション作品)形式を取り、サウンドデザイン、編集、音楽もすべてひとりで担った実績を持つ。
商業長編映画を初めて手がける監督としては異例なことに、パーソンズは本作において現場の陣頭指揮を執った。再び、Blenderのスキルを駆使し、セットの設計図や照明、カメラワークの3Dモデルを自ら作成。チームはそんなパーソンズのビジョンを具現化していく。しっかりとした指針があったからこそ、チームは正しい道筋を立ててゴールへと突き進むことができたわけだ。
また、パーソンズは実際のセットで俳優たちを撮影することにこだわった。3カ月かけて約2,800㎡に及ぶ<バックルームズ>のセットを建て込み、あえて広角レンズを多用して映画的な見せ方を追求。結果その映像には、インターネット上の動画とは一線を画す大きなスケールが備わった。

パーソンズは音にも徹底的にこだわっている。音響編集スーパーバイザーのエウジェニオ・バッタリアと共に、フォーリーと呼ばれる生音の擬音化技術を駆使して広大で不穏なサウンドスケープを生み出した。本作の環境雑音は物語の深度が深まるにつれて存在感を増し、まるでそれがひとつの言語であるかのように多くを物語る。さらに劇伴も、作曲家であり、イマーシブ・サウンドデザイナーでもあるエド・ヴァン・ブリーメンと共同で制作。基本的なイメージは、パーソンズが短編『The Bachrooms(FOUND FOOTAGE)』で提示した、アンビバレント・エレクトロニカの音楽だ。ふたりはAbsynthやReaktorといった古いソフトウェアやヴィンテージのシンセサイザーをサンプリングし、不安定かつ緊張感のある劇伴を生み出している。
無限に続く巨大な<リミナルスペース>、耳をつんざく音響、胸をかき乱す音楽、悪夢的な映像美で、観客を現実の“裏側”へ。それは、脳を浸食するような映像体験。体感型<バックルームズ>の扉が今、開く。
『バックルームズ』
https://a24jp.com/films/backrooms/
2026年/アメリカ/126分
| 監督 | ケイン・パーソンズ |
|---|---|
| 出演 | キウェテル・イジョフォー レナーテ・レインスヴェ マーク・デュプラス フィン・ベネット ほか |
| 配給 | ハピネットファントム・スタジオ |
※9月4日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開
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