FLYING POSTMAN PRESS

夏はやっぱり、ホラー映画

犬視点、儀式体験、スクリーンタイム
邪悪な存在から飼い主を守ろうとする
全編“犬のインディ視点”の新感覚ホラー

 邪悪な存在から飼い主を守ろうとする犬の奮闘を、全編“犬視点”で描いた異色のホラー。予告動画が公開されるやいなや、その視点の面白さがSNSで話題を呼び、限定公開のはずが急遽拡大公開となって全米でスマッシュヒット。ベン・レオンバーグが3年にかけて完成させ、長編映画監督デビューを果たした。また、犬視点のホラーでは人間の俳優以上に犬俳優が注目されることに。主人公となる犬のインディを演じるのは、ベン・レオンバーグ監督の飼い犬インディ。SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト映画祭)2025で最優秀犬演技賞を受賞したほか、2026アストラ映画賞のホラー/スリラー部門では人間の俳優たちを押しのけ、動物俳優として最優秀演技賞を受賞する快挙を成し遂げた。

 犬は人間を、この世界をどう見つめ、どう愛する者を守ろうとするのか。恐怖と愛おしさが同時にこみ上げる1本に仕上がっている。

 誰もいない部屋の片隅をじっと見つめたり、急に理由もなく吠えたり、どうしても入りたがらない部屋があったり。そんな飼い犬の行動を見てゾワッとしたことがある人は多いだろう。あの“ここに何かいるの?”の恐怖から、物語は始まる。徹底的に犬視点で見せていき、人間側の視点はほぼない。そこが本作の大きなポイントとなる。

 主人公“犬”のインディとその飼い主トッドが引っ越した先は、いわゆる幽霊屋敷。インディは姿の見えない何かを警戒し、恐れながらも、愛するトッドを守ろうと奮闘する。観る側はそんなインディに肩入れしながら、物語の展開を追うことになるはずだ。そして、ハッと気づくはず。物事は見かけ通りとは限らないことに。視点の妙を味わえる1本だ。

『GOOD BOY/グッド・ボーイ』

https://goodboymoviejp.com

2025年/アメリカ/73分

監督 ベン・レオンバーグ
脚本 アレックス・キャノン ベン・レオンバーグ
出演 インディ シェーン・ジェンセン アリエル・フリードマン ほか
配給 アット エンタテインメント

※7月10日(金)よりヒューマントラスト渋谷、シネマート新宿ほかにて全国順次公開

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それは、決して願ってはいけない願い
一線を越えた禁断の“儀式体験”ホラー

 長編映画監督デビュー作の『TALK TO ME/トーク・ トゥ・ミー』 (2022)で一躍、ホラー映画界注目の存在となったオーストラリア出身の双子の兄弟、ダニー&マイケル・フィリッポウが監督を務める最新作。『TALK TO ME/トーク・ トゥ・ミー』の北米配給権を買い取ったA24が今度は製作も担い、禁断の“儀式体験”ホラーを世に送り出す。

 主人公は、父親を亡くした17歳の少年アンディと視覚障がいを持つ義理の妹パイパー。ふたりは、言葉を話さない少年オリバーと暮らす里親ローラのもとで暮らし始め、不気味で恐ろしい出来事に巻き込まれていく。里親ローラを演じるのは、『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)などで知られるサリー・ホーキンス。慈愛と狂気を併せ持つ女性を卓越した演技力をもって体現している。さらに、アンディを感受性豊かな少年として表現するのは、若手注目のビリー・バラット。パイパーを役同様に視覚障がいのあるソラ・ウォンが瑞々しく演じ、印象的な俳優デビューを飾っている。

 おぞましさ満点の儀式体験ホラーであり、誰もが向き合う“死”にまつわるエモーショナルな人間ドラマでもあり。あまりに壮絶な兄妹の体験を、息を詰めて見入ってしまうはずだ。

 郊外にぽつんと立つ一軒家は、なぜだかホラー映画の舞台によく似合う。父親を亡くしたアンディとその義理の妹パイパーを引き取った里親ローラは、いかにも何かが起こりそうな郊外の一軒家に住む女性。その家は謎の白い線で囲われ、家の中には言葉が話せない男の子がいる。“不気味”を演出する要素は満載だ。

 そもそも、里親のローラが恐ろしい。一見慈悲深い女性だが、やはり、物事は見かけ通りではない。また、そんなローラを演じるのが演技巧者のサリー・ホーキンスとあって、とにかくヤバいことに。ホラー映画におけるある種の役はギミックに頼りがちになるものだが、サリー・ホーキンスは演技力1本で突き抜けている。ローラの背景をしっかり理解した上で、その声、表情、佇まいに乗せて的確に表現。ローラのあり方に説得力があるからこそ、本作はただ恐いだけではなく、どこか切なく、胸が痛むものにもなっている。

『ブリング・ハー・バック』

https://happinet-phantom.com/bhb/

2025年/オーストラリア/104分/R15+

監督 ダニー・フィリッポウ&マイケル・フィリッポウ
脚本 ダニー・フィリッポウ ビル・ハインツマン
出演 ビリー・バラット ソラ・ウォン サリー・ホーキンス ジョナ・レン・フィリップス ほか
配給 ハピネットファントム・スタジオ

※7月10日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国公開

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スマホに触れたらもう逃げられない
若き才能が放つスクリーンタイム・ホラー

 14歳の頃から自主制作で映像作品を手がけ、コロナ禍で制作した縦型短編映画『スマホラー!』(2021)がショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2021において、バーティカルシアター部門の最優秀賞を受賞。ホラー映画界で注目を集める27歳の新鋭・西山将貴が監督・脚本・編集を務め、長編映画監督デビューを果たす。描き出すのは、スマホに触れている時だけ見える怪物に狙われた少女の物語。自身が学生時代に抱えていた孤独や居場所のなさといった影を物語の核に、6年の歳月をかけて完成させた。

 日本人の母とイギリス人の父を持つミックスで、その見た目や名前から日本で“外国人”扱いされてきた主人公のエレナを演じるのは、西山同様に14歳から映画制作を続ける監督であり、俳優でもあるシエラ璃砂。VFXは、これまで西山監督の全作品でタッグを組み、『ゴジラ-1.0』(2023)のCG制作にも参加したCao Moji(佐藤昭一郎)が担当。さらに、音楽を西山作品を初期から支えてきた音楽家の堀本陸、撮影を『岸辺露伴は動かない』シリーズ(2020~)を手がける山本周平、特殊造形とキャラクターデザインを、さまざまなアーティストのMVなどで特殊メイクを手がける快歩と、各分野の若き才能が集結している。

 “スマホやイヤフォンを通してのみ感知できる怪物”の表現がユニークだ。とりわけ、姿形は見えないけれど“そこにいる”状態をどう観客に伝えるのか、そこに工夫があって面白い。光、虫、血が“透明な怪物”を浮かび上がらせ、恐怖を増幅させていく。音響も効果的だ。主人公がイヤフォンを着けると聞こえ出す怪物の音。感覚で言ったら、高性能のヘッドフォン、もしくはイヤフォンを着けてゲームをしている時のような、臨場感に溢れる音を作り上げている。

 主人公のエレナと友だちのアカリのシスターフッドの物語になっているのもいい。ふたりは、姿の見えない怪物に怯えて逃げ出すのではなく、力を合わせて立ち向かうことを決意する。戦う相手は“透明な怪物”だが、同時に自分自身とも戦っているように思えた。ホラー映画だが、同時に青春映画でもある。ふたりの友情と成長を見守りたい。

『インビジブルハーフ』

https://invisiblehalf-movie.com

2025年/日本/106分/PG12

監督・脚本・編集 西山将貴
出演 シエラ璃砂 奥野みゆ 平澤瑠菜 ほか
配給 ギークピクチュアズ

※7月31日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開

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