FLYING POSTMAN PRESS

クリエイターを繋ぐ対談連載CREATOR × CREATOR

異なるフィールドで活躍する若手クリエイターふたりがモノ作りの楽しさや面白さ、大事にしていることなどを語り合う本連載。第26回のゲストは、シンガーソングライターおよびロックバンドWOLVEs GROOVYで活動する“ましのみ”×グラフィックデザイナー、アートディレクター、フォトグラファーとして活躍中の岡本太玖斗。

Vol.26ミュージシャン・ましのみ × グラフィックデザイナー・岡本太玖斗

  • ましのみ
  • 岡本太玖斗

「自分の思想が一滴でも入ってないと作品を愛せない」(ましのみ)
「一筋縄ではいかない部分を残したい」(岡本)

クライアントワークは好きですか?

岡本「プライベートワークよりクライアントワークのほうが楽しいです。例えば“ペンをデザインして”と言われたら、予算などの制限が少なく自由な形を作れる1本1万円のペンよりも、100円のペンをやりたいタイプで。制限があるほうがトンチを利かせられるんですよね」

ましのみ「私もタイアップ曲は楽しいです。でも、クライアントワークって相手×自分だと思っていて、その時に相手のことを好きでいられるかとか、相手がこっちの色を尊重してくれるかとか、いろんな条件が噛み合ってやっと楽しめるんだなって。どんな仕事でも、自分の感覚を活かしてやれないと自我が崩壊する、心が死ぬって気付いたんです。淡々とお題だけに応えないといけないものはやれませんってなる。だから私は一生アーティストとしてがんばるしかないんだなって思いました。いい意味でも悪い意味でも(笑)。バンドやソロでやっている時が一番楽しいです」

ましのみさんはずっとソロで活動していましたが、今年バンドを結成した理由は?

ましのみ「アヤコノちゃんとなら一緒にできるかもって思ったんですよね。いらない完璧主義を持っていたり、音楽に対して突き詰め過ぎたり、音楽業界の“こういうもんだよね”ってものに対して思うことがあったりとか、タイプが近くて。ただ、ふたりでやるのもなって思ったんですけど、その時に<FUJI ROCK FESTIVAL>を観て感動して“そういえば、昔からバンドがやりたかったんだ”って思い出しました。音楽に対して自分と同じ気持ちを持ってる人が見つからない気がしたから、ソロでやってたんだって。あと、“ましのみ(ソロ)”の中にいろんな側面がグチャッて入ってるのがストレスで、ロックバンドという場所があることで生きやすくなると思ったのもあります」

岡本「若手同世代で集まるのっていいですよね。僕はひとりで作るほうがラクというか、全部自分に収束させちゃう」

ましのみ「パフォーマンスの時に、ひとりだと歌えない、背負えない曲があるから。ある意味、私にとってのお題なんですよ。ソロならこう、バンドならこうって制約が自分の中であって、それが分かれているとすっきりするし見られ方もわかりやすくなるっていうか。分人の話ってしたことありましたっけ?」

岡本「ないですね」

ましのみ「『私とは何か―「個人」から「分人」へ』(平野啓一郎)って本に、自分の中にはいろんな自分がいて、その構成比率で個性ができてると書いてあって。それぞれの人格は他人とのコミュニケーションで生まれるものだから、どれも大事にしていいっていうのを読んで、私はこの生き方がいい!って思いました。ソロで活動する中で、私にはいろんな面があるのに、ひとつの面だけ見られてカテゴライズされるのがストレスだったけど、いろんな自分がいて当たり前で、すべての人格を表現しなくても大丈夫だと考えると、創作する上で精神的にラクになりました」

岡本「なるほど、面白い。僕はそういう(切り替える)器用さがないんですよね。自分の形はあるけど、ゴムの人形みたいで、それを違う形の型に無理矢理ギュッと入れる感覚」

ましのみ「形状記憶だから、元の形は忘れないってことですよね」

岡本「そうです。だからこの人は嫌だなって思ったら、うまく合わせるけど、“もう帰りたい”って節々に出ちゃう(笑)」

ましのみ「でも、自分の形を全部出せるのはうらやましい」

岡本「ひとりでは歌えない曲があるとか、そういう感覚って自分にはなかったです。小林賢太郎が K.K.P.(演劇プロジェクト)を始めた時みたい。僕も誰かとやってみれば自分になかったものが出ると思うけど…台本とか音楽は先に書けても、自分の場合はやってみないとわからないんですよね」

ましのみ「音楽ならデモを先に作れるけど、グラフィックとかだと完成前に巻き込まなきゃいけないってことだよね」

岡本「巻き込んで結局、自分でやっちゃうかもしれない(笑)」

ましのみ「私も何回もそうなりましたよ(笑)。それでも誰かと作る化学反応が好きで。一度信頼できると全部委ねられてうれしいんです。太玖斗くんとはその関係が成立しているから心地いい。今年はソロも走り出すので、いろいろ一緒に考えてもらおうと思ってます」