Vol.17映画監督・阪元裕吾 × マンガ家・サレンダー橋本
「キャラクターが作品を飛び越えて観た人の心に残る。そこをめざしたい」(阪元)
橋本さんは阪元監督の最新作『グリーンバレット』をどうご覧になりましたか。
橋本「面白かったです。特にカメラマンアシスタント役の大坂健太さん、あの方面白いですね。独特の存在感があって」
阪元「なんか変なんですよ(笑)」
橋本「女の子に気持ち悪がられるところも、妙なリアリティがあって(笑)」
阪元「映画の中で彼が“みんなで反省会しましょう”と言い出すところがあるんですが、あそこは全員がアドリブなんです。一日の撮影が終わってから、本当にあんなふうに締めの反省会を撮影しまして。彼が本当に思ったことをごちゃごちゃ言って周りは冷めているんだけど、自分では悪いこと言っているつもりが一切ないから余計にオモロイんですよね(笑)。本筋にまったく関係ないシーンなので編集で切っても良かったんですが、彼のオモロさでどんどん出演量が増えていくという。マンガでもありますか? “このキャラ、思ったより伸びたな”みたいなこと」
橋本「よくあります。例えば、“最後はハッピーエンドにしようと思っていたけど、このキャラが死んだほうが面白いから、死なせよう”などとキャラクターに釣られて展開を変えたり。でも映画の場合、脚本に書かないって結構リスキーだと思うんですが、怖くないんですか?」
阪元「例えば、小説だったら自分ひとりで一字一句書きますよね。でも、映画監督の場合は人任せにするところが多いので。『グリーンバレット』でも、殺し屋をめざす女の子たちのスタイリングは“この子は服好きです。この子はファッションには無頓着です”みたいなイメージだけ話して、あとはスタイリストさんにお任せするとか。役者さんのアドリブもそれと一緒です。任せてみたら、“思っていた芝居とは違うけど、こっちのほうがオモロイ”となることがよくあります」
マンガはどうでしょう。自己完結型の創作か、共同作業か。
橋本「ネタ出しは編集の方に協力してもらうことがありますけど、割とその後はひとりですね。“何も思いつかないなぁ”などと言いながらひとり、毎回追い詰められながら、なんとかギリギリで絞り出すという感じです。だから、全然楽しい作業ではないんです(笑)。また、締め切りがありますから。ベストなものが出てくることはほぼないですね。毎回、“まあ、この辺で”という感じになる」
阪元「それは、できない人にはできないですね」
橋本「完璧主義な人はダメだと思います。私が偉そうに言うことではないんですが、“まあ、この辺で”を続けられるかどうかだと思いますね」
他にも、モノ作りする中で大事にしていることはありますか?
橋本「私はどうしても人が集まっているところから離れたくなるんです。逆張り根性みたいなのが染み付いていまして。だから、大きな流れに乗るのではなく、人がいないところで。そういう人たちの味方になるようなマンガを描きたい。そこを入口に、一面的な物の見方を覆して大勢に傷を与える……そんな、嫌がらせみたいなマンガが理想です(笑)。あと最近よく夜に酒を飲み、PUFFYを聴きながら街を散歩するんですけど、そういう感じのマンガを。つまり、底抜けに明るい感じのマンガを描きたいですね」
阪元「『チェンソーマン』がカントリーマアムとコラボした商品とかあるじゃないですか。僕の理想はああいうのになることです。どうしてかと言ったら、それはキャラクターが作品を飛び越えて観た人の心に残るということだと思うから。そういう作品を作ることをめざしてがんばりたいなと思っているんですが…正直、映画という媒体はそういうところに向いていない気もしていて。ドラマとかマンガに比べたら」
橋本「マンガ描いたらいいんじゃないですか?」
阪元「“マンガ描きたいです”って言ったら、“そう簡単に描けるか!”って怒られると思っていました(笑)」
橋本「いや、大丈夫ですよ。描けます」
阪元「まさか、マンガ家さんにそんなこと言ってもらえるとは思いませんでした(笑)」