FLYING POSTMAN PRESS

クリエイターを繋ぐ対談連載CREATOR × CREATOR

異なるフィールドで活躍する若手クリエイターふたりがモノ作りの楽しさや面白さ、大事にしていることなどを語り合う本連載。第17回のゲストは、『ベイビーわるきゅーれ』などを手がけ、『最強殺し屋伝説国岡[完全版]』の続編映画『グリーンバレット』の公開を控える阪元裕吾監督×『働かざる者たち』『明日クビになりそう』など“お仕事系マンガ”を多数生み出す、自身も現役会社員のマンガ家・サレンダー橋本。

Vol.17映画監督・阪元裕吾 × マンガ家・サレンダー橋本

  • 阪元裕吾
  • サレンダー橋本

「キャラクターの人間味を掘ったほうが面白い。そう変わっていった」(橋本)

おふたりはご面識があるとか。

阪元「はい。4、5年前に」

橋本「阪元さんの『ファミリー☆ウォーズ』を名古屋のシネマスコーレで観まして」

阪元「普通にお客さんとして観ていただいて、上映後に声をかけていただいて、5分ぐらいお話しして」

橋本「それ以前からシネマスコーレのスタッフとの間で阪元さんの名前が出たりしていて。で、名古屋に来られると聞いて、折角だからと思って観に行ったんです。あの時、“お互い、がんばりましょう”というようなことを言った記憶があるんですが、なんだかそれがその後、恥ずかしくなりまして。偉そうだったかなと(笑)」

阪元「まったくそんな(笑)。僕は橋本さんのマンガを読んでいたので、声をかけていただいてビックリしました。オモコロで掲載された、サブカルの人同士がマウント取り合うマンガ(※『初対面のサブカルの互いの知識の探り合い』)を大学生の時から読んでいて、面白いなと思っていたんです」

橋本「ありがとうございます。『ファミリー☆ウォーズ』は勢いがすごいなと思いました。初期衝動のままに作っている印象があって。その後、他の作品も観てきて思うのは、少しずつ変わっていっているんだろうなと。例えば『ベイビーわるきゅーれ』。それまでは割と殺伐とした作品が多かったですけど、ああいうポップな感じで作っても面白いんだなと思いました」

阪元「『ファミリー☆ウォーズ』も、その前の『ハングマンズ・ノット』も、“オモロイやろ、これ”という自意識だけで作っていたんです。でも、『ベイビーわるきゅーれ』は割とお客さんを意識して作った作品で。Twitterで評判になりやすい作品だろうというのは考えましたね」

橋本「『ベイビーわるきゅーれ』では日常の断片の切り出し方が上手だなと思ったんですが、ああいうアイデアはストックされているんですか?」

阪元「基本、メモは取るようにしています。で、脚本を書く時は割とどうでもいいシーンで悩むんですよ。アクションシーンや物語の展開上大事なシーンではなくて。例えば『グリーンバレット』でも女の子が殺し屋になろうと思ったきっかけを話すシーンで、“アキバのコンカフェ(※コンセプトカフェ)で働いてたらキモいストーカーに襲われ、返り討ちしてやったら逆に警察呼ばれた”ということを言うんですが、“アキバのコンカフェ”が出てこなくて2、3時間悩みました。ただ、ストーカーを返り討ちにしただけだとリアリティに欠けると思ったんですよね。こういうところで悩むのは、初期の作品ではあまりなかったです。橋本さんはどうですか? 例えば『全員くたばれ!大学生』では“ワックスを付けるか付けないかで悩む”で1話分書いたり。ああいう要素は実体験ですか?」

橋本「あの作品は基本的には、部屋の片隅でうつむいて、自分の学生時代を思い出しながら描いたところがあります。自分が実際にやったこともあれば、思っていてもできなかったことを描いて発散したところもありましたね。それは、今描いている社会人のマンガ『明日クビになりそう』も同じです」

阪元「『明日クビになりそう』の1巻を読んだ時は結構なブラックコメディというか…主人公がどクズじゃないですか(笑)。メチャクチャ笑えたんですけど、読んだ後にズンとくるぐらいのブラックさがあった。でも最近出た4巻を読んだら、みんな愛せるキャラになっているなぁと。何か心境に変化があったんですか?」

橋本「同じことを編集の人にも言われました。『明日クビになりそう』も5年ほど連載していて、始めた頃はまだ20代だったのが今は34歳に。その間に結婚して子どももふたり生まれて、だいぶ私も丸くなったんですかね(笑)。あと、昔はもっと極端なものを面白いと思っていたきらいがあったんですが、その辺りは落ち着きましたね。キャラクターの人間味や情けない部分を掘っていったほうが面白い。そういうふうに変わっていったのかなと思います」

阪元「すごく共感します。自分も初期は観る人が引くようなことしか描いてこなかったので」