FLYING POSTMAN PRESS

クリエイターを繋ぐ対談連載CREATOR × CREATOR

異なるフィールドで活躍する若手クリエイターふたりがモノ作りの楽しさや面白さ、大事にしていることなどを語り合う本連載。第11回のゲストは、団地のベランダから落ちた植木鉢を巡る偽りと真実を描いた映画『誰かの花』の奥田裕介監督×3/30に4枚目のフルアルバム『ミメーシス』のリリースを控えるミュージシャンの日食なつこ。

Vol.11映画監督・奥田裕介 × ミュージシャン・日食なつこ

  • 奥田裕介
  • 日食なつこ

「速く走るより、長く走りたい。そのためにも 同じことでまた悩まないこと」(日食)

それぞれの作品をどう感じましたか?

日食「『誰かの花』を観てずっしりとした重力のようなものを感じました。またその重力がいろんな方向に働いている。認知症や事故被害の問題など、さまざまなテーマがクロスオーバーし続け、三次元的に足場が巡り続けるような感じで。実際に行ったことはないんですが、現代アートの養老天命反転地を歩くとこんな感覚なのかもと思いました。平らなところがひとつもなく、進むほどにどこが上でどこが下かもわからなくなる。そしてふと気が付いたら作品は終わり、現実に帰ってきて一気に重みを感じるという」

奥田「僕は『誰かの花』を正義と正義がぶつかり合い、答えのない中で主人公がずっと葛藤していく話にしたかったんです。もちろん、作り手として“正義とは”の答えは持っていますが、“これだ!”と提示するような映画にはしたくなかった」

日食「映画に出てくる全員がグレーゾーンにいる感じがしました。今おっしゃった、決め切らないということですよね。あえてお客さんを迷わせるというか」

奥田「そうですね。自分の作った映画でお客さんと想像力の駆け引きをしたいんです」

奥田監督は日食さんの作品をどう感じましたか?

奥田「『悪魔狩り』の3曲を聴いた時、“生物”だなと思いました。“いきもの”であり、“なまもの”でもあると。音源は同じなのに聴く度に曲の表情が変わるのが衝撃的で。お聞きしたかったのが、『悪魔狩り』の3曲は全部二人称が違いますよね。『悪魔狩り』は“お前”、『un-gentleman』は“あんた”、『meridian』は“君”と。二人称にはどんなこだわりが?」

日食「この曲調でこのテーマで書いていたら自然にこの二人称が口をついて出てきた、というだけです。考えて決めるというより、曲に呼び起こしてもらって二人称を決めている。それは二人称に限らず歌詞全体がそうで、全部が鼻歌の延長線上にあるんですよ。奥田監督は理論を大事にされ、そこに自分の感情や体験がちゃんと伴っている印象を受けます。映画は約2時間、曲は数分というそもそもの尺の違いもあると思いますが、私がしている創作とは桁違いの質量を感じますね」

奥田「でもライブも2時間ぐらいありますよね?」

日食「歌い始めたらすぐ終わりますから(笑)」

奥田「ツアーファイナルの映像を観ても“生物”だなと思いました。『99鬼夜行』の時、赤い照明の中でピアノを弾く日食さんのバックショットが映ったんです。その姿を観て“あ、生物だ”とゾワッとしました。また、曲終わりの“どうもありがとう”の言い方に曲の色や匂いが残っているのもすごくいいなぁと思いました」

日食「曲の最後の“どうもありがとう”は私のイメージとしては緞帳です。最後の挨拶まで、なんなら曲と曲の間の喋りまで曲の一部だと私は考えてやっています」

他にも、今モノ作りする上で大事にしていることは?

奥田「3つあります。ひとつ目はあいまいさへの許容。今はネットで検索すれば、答えと思い込んでしまうものがすぐ出てくる時代ですが、僕は“わからない”が故の想像力も大事にしたいんです。ふたつ目はコミュニケーションの質と量。どんな状況であっても、どういう映画にしたいかを役者さん一人ひとりに時間をかけて伝え、作ることを大事にしたいです。3つ目は映画館で観たくなる映画を作ること。今は生きているだけでマルチタスク、という時代です。そんな時代に映画館に入って携帯の電源を切り、2時間集中しようと思ってもらえるような映画を作りたいです」

日食「私は17歳から“日食なつこ”をやっていて、13年です。その間、私より後に出てきてすごい速さで駆け抜け、ふっと消えていく人も結構いました。確かに今はマルチタスクな時代で、その中で印象付けようと瞬間的な爆発力を見せようとする。でも、それで長く走るのは難しい。私は速く走るより、長く走りたいんです。そのためにも同じことでまた悩まないこと。長く続けていると、どうしてもあるんですよ。“これ5年前にも悩んだじゃん”みたいなことが。何度も悩み返したら深みにハマり、抜け出せなくなってしまうので、図太く割り切って終わったことはもう見ない。それが“長く走る”に繋がるのかなと思っています」