FLYING POSTMAN PRESS

クリエイターを繋ぐ対談連載CREATOR × CREATOR

異なるフィールドで活躍する若手クリエイターふたりがモノ作りの楽しさや面白さ、大事にしていることなどを語り合う本連載。第5回のゲストは俳優として活躍するのみならず、映画監督として『海辺の金魚』で長編デビューを果たす小川紗良×メジャーデビューアルバム『Moving Days』をリリースしたHomecomingsの福富優樹。

Vol.5映画監督・小川紗良 × ミュージシャン・福富優樹(Homecomings)

  • 小川紗良
  • 福富優樹

「社会に対して怒りや悲しみもあるけれど、“肯定”に向かっていきたい」(小川)

お互いの新作に触れ、いかがでしたか?

福富「『海辺の金魚』、素敵な映画でした。主人公の女の子にとって“母”は喪失した存在で。でも内面的な繋がりは良くも悪くもずっとあり、そのことに悩んでいる。そんな主人公自身が“母”という役割に近付いていった時に良くも悪くも気付くことがあるという…そんな物語がすごくいいなぁと思いました。脚本の出発点はなんだったんですか?」

小川「学生時代から短編や中編は撮っていて、近い内に長編を撮りたいと思い出した頃に、過去作でも主演をしてくれていた小川未祐さんに会ったんです。彼女はその時18歳で、18歳なりの葛藤が内面に渦巻いている感じがしました。そのアンバランス感や熱がいいなぁと。そこからですね。ひとりの女の子が歩み出す瞬間を描きたいという、私がずっと持っていたテーマと重なり、物語が膨らんでいきました」

福富「あと、本当に今社会で起こっていることを作品の中で扱っている感じがすごくしました。僕も自分が何か物を作る上で社会や生活というものを避けて表現したくないと思っているんです。例えば、差別の問題とか。そういう今世界で問題になっている物事に対する自分の思いを作品を通して表現しないという選択をすること。それは、世界が良くなっていくことから逸れていっているということなんじゃないかと思っていて」

小川「個人的な思いを出発点にしながらも、その物語の中にはちゃんと窓があり、その窓の先には社会がある。そんな描き方をしたいという意識はありました。社会に対する自分のスタンス…そこにはもちろん怒りや悲しみもあります。でも、私はどちらかと言うと“肯定”に向かっていきたいんです。そこは多分、Homecomingsと共通している感覚なのかなと。『北風と太陽』みたいに、同じ目的でも否定的なアプローチと肯定的なアプローチの両方ができるものじゃないですか。私は『海辺の金魚』は可哀想な話にはしたくないと思っていたんです。あくまでも、ひとりの女の子が歩み出す姿を肯定的に描きたいと」

福富「僕も『Moving Days』を通して“変わっていくことを肯定したい”という思いがあって」

小川「『Moving Days』、とても良かったです。たまたまなんですが私、今年の春に引っ越しまして。新たな出発という、今の自分自身の気分に重なって心地良かったです。あと印象的だったのが“優しさ”という言葉。
移動中に聴いていた時にふと『Good Word For The Weekend』の“優しさをはなさないで”という歌詞がスッと入り、そこから他の曲を聴いている時も“優しさ”という言葉が入ってくるように。今回、たくさん出てきますよね?」

福富「はい」

小川「今、いろんな問題が起きている中で“優しさ”を手がかりに描いていこうと。そのムードが私には心地良かったですし、歌詞に書かれているように在りたいと思いながら聴きました」

福富「ありがとうございます。今回、ちゃんと作品を通じて社会のことを表現したいと思った時、自分たちなりのNOの言い方が“優しさ”だったというか。というのも、このところのいろんな問題の根本には、自分が想像できないものに対する“優しさのなさ”があるような気がしていて。それで“優しさ”を掲げることをコンセプトにしてアルバムを作ろうと。“優しさ”を大事にすることでいろんな問題が少しずつ良くなっていくんじゃないかなと僕らは思っているんです」

小川「『Moving Days』は『Here』で始まり、『Herge』で終わりますよね? 最初と最後の曲のタイトルがひと文字違いなのは偶然なのか、意図なのか」

福富「たまたまです。『タンタンの冒険』という僕が好きな作品の作家さんの名前がHerge(エルジェ)で、最後の曲のタイトルはそこから取りました」

小川「代わり映えのない日常が描かれている感じがしつつ、一枚通して聴けば何かが少しずつ優しく変わっていっている。そう響くアルバムだと感じていたので、このタイトルのさり気ない変化が合っているなと」

福富「Hergeって読めないじゃないですか?だからカタカタにしたら良かったかなと思っていたぐらいで(笑)」

小川「でも、“ひと文字違い?”と考えたりできるのがまた面白かったです(笑)」

福富「そこまで意図できてなかったけど(笑)、ありがとうございます」