クリエイターを繋ぐ対談連載CREATOR × CREATOR

異なるフィールドで活躍する若手クリエイターふたりがモノ作りの楽しさや面白さ、大事にしていることなどを語り合う本連載。第3回のゲストは新世代の歌人として活躍する木下龍也×ソロシンガーとしてはもちろん、話題のバンド、Cody・Lee(李)のメンバーでもある尾崎リノ。

Vol.3歌人・木下龍也 × ミュージシャン・尾崎リノ

  • 木下龍也
  • 尾崎リノ

「フィクションだとしても、固有の体験をひとつ入れておくと届く力が強い」(木下)

今回は尾崎さんから木下さんと対談してみたいという希望がありました。

尾崎「はい。私が歌詞を書く時、短歌や他の方の歌詞からインスピレーションを受けることが多く、この機会にお話をしてみたいと思いました。木下さんを知ったのは随分前です。たまたま<新鋭短歌シリーズ>というサイトで木下さんの短歌を見つけたんです。“この人の短歌、全部いい!”って。言葉遊びがとても上手な方だなって興味が湧き、そこから過去の作品も拝見しました。木下さんが短歌を始めたきっかけとは?」

木下「特に派手なエピソードはなくて。もともと本が好きで、何かを書く仕事に就きたいとは漠然と思っていました。できれば小説家とか。でも小説を書く忍耐力もないし、元来飽き性で。現実的な仕事としてコピーライターかなと思い、養成講座で勉強していたんですが、最後の授業の日に“君は向いてないよ”と言われ、挫折。どうしようかなって思いながら本屋に通い続けていた時に、穂村弘さんの短歌集を本棚で見つけたんです。読んだ瞬間、雷に打たれたような衝撃がありました。すぐに家に帰り、穂村さんが担当されている雑誌『ダ・ヴィンチ』の短歌投稿欄へ送ったら採用。そこから調子に乗り、ちょうど10年。今に至ります(笑)」

尾崎「私は大学の学園祭がきっかけです。同じ学科の人たちがラジオをやることになり、私が高校時代に軽音で少しだけ音楽をやっていたことを知ってた友だちから、ラジオで歌って欲しいと言われ渋々。その時の相手が、下北のライブハウスとかでちゃんと音楽をやっていた方で。私も一度だけライブハウスに出てみようかなって出た日から今に至ります(笑)」

それぞれの作品どう感じていますか?

尾崎「初めて触れた木下さんの短歌が、《ぼくの目に飛び込んでくるはずだった虫がレンズに跳ね返される》。言葉の言い回し、視点、主人公がどこにいるのかという不思議…こんなふうにハッとさせられたのは初めてでした。“この人は五七五七七の中で、私が一生書けないようなことをサラッと書いてる”って」

尾崎さんはどんな歌詞を書きたいんですか?

尾崎「虚無感みたいなものを書きたいです。でもそれはマイナスな虚無感ではなく、プラスの虚無感。私の曲を聴くと落ち込むと言われることが多く、まだまだだなって思ってます。例えば、銭湯から一歩出た時に吹く風みたいな歌。ある一場面を切り取ったような、ノスタルジックな気持ちを思い起こすような歌かな。目指すべきはそこ」

木下「僕が尾崎さんを知ったきっかけは、Twitterで見かけた『部屋と地球儀』という曲。もともとポエトリー・リーディングが好きで、不可思議/wonderboyさんや狐火さんを聴いていて。それまでポエトリー・リーディングは、自分ががんばりたい時の栄養剤として聴いていたけど、いい意味で『部屋と地球儀』は強いメッセージや言葉が突き刺ささることがなく、生活に溶け込む曲で。声もこれまで聴いてきた人たちとは、明朝体とゴシック体ぐらい違った。だから記憶にとても残っていたんです。今回の対談の前に『サツマカワ』のMVも観て、普通に泣きました。“ステージの上から 懐かしい貴方の顔を見た お元気そうで”。これは尾崎さんも舞台に立つ人だから書ける歌詞だと感じたし、“どんな季節でも 季語はあなた”も短歌を書かれる方のような言葉選びだなって。『ぜいたくをしようよ.EP』に収録されている歌詞は具体的で、映像として頭に立ち上がるように書かれている。固有名詞を置いたり、風景を細かく描写することで抽象的に終わらず、しっかりと具体に落とし込めているなと思いました。またそれがひとりよがりではなく、恋愛をテーマに書いた曲も普遍性を持ったストーリーとして完成してる」

尾崎「曲は全部フィクションです。『サツマカワ』もサツマカワさんの人生を勝手に想像し、サツマカワさんの彼女のイメージや、このふたりが別れるならどの季節かな、とか。もしも私が木下さんの歌を書くとすると、木下さんにとても近い人になったり、家の天井から見た風景、そこに私の体験も少しだけ混ぜたりもして。映像は最初から頭の中にあります」