CINEMA
キワドく気まずく笑える日本映画

結構キワドくて、だいぶ気まずい 可笑しくも哀しい人間を描いた日本映画
火事を起こした加害者たちと被害者との奇妙な友情を描いた1本に、マンガ作りに携わる迷える大人たちを描いた1本。人間という存在の可笑しみや哀しみを浮き彫りにする日本映画に笑い、ハッとさせられる秋の休日を。

奇妙な友情、歪んだ贖罪、不都合な真実 ある火事を引き金とした三つ巴の悲喜劇
『四月の余白』に続く、今年2本目となる𠮷田恵輔脚本・監督作が描くのは、子どもの頃に花火遊びよって火事を起こしてアパートを全焼させた“加害者”である龍之介と拓海、その火事で自身が大火傷を負っただけではなく、妻子も喪った“被害者”の埜本の姿。火事から15年経って再会した3人が奇妙な友情を結ぶさまを映しながら、ある不都合な真実を浮き彫りにしていく。
火事を起こした罪の意識をアーチェリー競技に打ち込むことで封印し、オリンピック代表をめざす龍之介には磯村勇斗。少年時代の過ちで失われた15年を取り戻すかのように、前向きな思考にのめり込んでいく拓海にはAぇ! groupの末澤誠也。火事の被害者でありながら、拓海にとってメンター的な存在となる埜本には綾野剛。それぞれに危うさや狂気をはらみながら、同時に確かに人間だと思わせる。役の背景と心情の変化を的確に表現する3人の演技に引き込まれること請け合いだ。
𠮷田監督流のブラックユーモアが炸裂し、ゾワッとしつつ同時に笑いがこみ上げてくるような描写も多数。クレイジーで可笑しくて哀しい、感情カオスな映画体験が今、幕を上げる。
point of view
感情にふたをすることで自分を守ってきた龍之介、反省することで前へ進もうとする拓海、赦すことを自らに課した埜本。正直、3人ともだいぶ変わっているし、時には狂気的だとすら感じられる。でも、化け物たちとは思わない。3人とも確かに人間だと思えるのがポイントだ。また、𠮷田恵輔作品には“笑い”が付きものだが、それは決してコントの類いではない。登場人物たちがふと漏らした言葉、何気なく取った行動に人間の滑稽さや愚かさがにじみ、それが観る側もどこか身に覚えのあるものであるため、気まずく笑えてしまう。そんな“笑い”が本作で極まっている印象だ。
𠮷田恵輔監督作に登場する人々は深く傷ついていることが多いが、彼らの物語を観る側も無傷ではいられない。観ながらちゃんと傷つけられ、その上で心を動かされるものになっている。𠮷田恵輔の脚本力、演出力に改めて驚嘆。今年2本目のオリジナル作であり、真骨頂とも言える1本を心して受け止めたい。

『mentor』
2026年/日本/115分
| 脚本・監督 | 𠮷田恵輔 |
|---|---|
| 出演 | 磯村勇斗 末澤誠也 綾野 剛 ほか |
| 配給 | エイベックス・フィルムレーベルズ スターサンズ |
※10月16日(金)より全国公開
©2026「mentor」製作委員会

42歳、マンガ家の万年アシスタント 迷える大人たちのイタくて可笑しい物語
是枝裕和監督率いる映像制作者集団「分福」の新鋭、森本晶一と佐藤快磨がふたりで監督を、森本は原案と脚本も担って世に送り出す、迷える大人たちの物語。主人公は大御所マンガ家の万年アシスタント、42歳の土屋輝一。後輩にデビューを先越され、人気声優の妻とは別居中。高校受験を控えた娘にも疎まれ気味の中年男が、一歩踏み出した先である思いに至る様子を、オフビートかつ軽やかに描いていく。
主人公の土屋を情けなさと可笑しさを交えつつ演じるのは、森田剛。担当編集として土屋と共にマンガを作ろうとする潮田ユキに森川葵、遅ればせながらのデビューをめざす新人アシスタントの山田ぽてとに川上友里。さらに、阿部寛、松本まりか、武田鉄矢、早瀬憩らが集結し、物語に奥行きを与えている。
助監督という仕事を長く続けた森本監督が、自身の経験から着想を得て生み出した物語。“このままでいいのだろうか”と模索しながら今を一生懸命生きる、大人たちの背中にそっと手を添えるような1本に仕上がっている。
point of view
どんな場所にも“主人公”と呼べるような存在はいる。“主人公”が輝けるのは、支える人がいるから。本作の主人公であるマンガ家のアシスタント・土屋は、“主人公”を支える側の人間だ。マンガを描く技術は相当なものだが、作家としてはとうに賞味期限切れだと自覚している。それでも夢を捨てきれないが、日常のあれこれに追われ、とにかく一生懸命こなしていっている。後輩に嫉妬したり、別居中の妻に劣等感を抱いたり、娘の前で卑屈になって疎まれたり。人間の可笑しさや愚かさに満ちたその姿にクスクスと笑いつつ、同時に切なさがこみ上げてくる。
また、本作が素敵なのは、“主人公”にならなくてもいい、と伝えてくれるところ。何者にもならなくても、いつか自分が選んだ道が正解だったと言える日が来るかもしれない。そんなふうに思える、夢や理想と折り合いをつけながら現実を生きる大人たちのための1本がここに。

『見上げてごらん』
https://gaga.ne.jp/miagetegoran
2026年/日本/111分
| 監督 | 森本晶一&佐藤快磨 |
|---|---|
| 原案・脚本 | 森本晶一 |
| 出演 | 森田 剛 森川 葵 川上友里/阿部 寛 松本まりか 武田鉄矢 早瀬 憩 ほか |
| 配給 | ギャガ |
※10月30日(金)よりテアトル新宿ほかにて全国順次公開
©2026「見上げてごらん」製作委員会

