CINEMA
1月公開:アカデミー賞ノミネート作
ドナルド・トランプの禁断の過去 家族の歴史と絆を描いたロードムービー 1月公開のアカデミー賞ノミネート作
第97回アカデミー賞の全ノミネート作が発表された。初夏頃までに日本で劇場公開される作品も多く、鑑賞を楽しみにしている映画ファンも多いはず。まずは直近の1月公開の2本から、ノミネート部門に焦点を絞って見どころを紹介していく。
ドナルド・トランプを創造した人物とは フィクションを超えるリアルストーリー
1月20日に第47代アメリカ合衆国大統領に就任したドナルド・トランプが、全米公開を阻止しようとしたほど封印したかった過去を描いた映画がついに日本で公開され、話題を呼んでいる。監督を務めるのは『ボーダー 二つの世界』(2018)、『聖地には蜘蛛が巣を張る』(2022)などでその才能を世界に知らしめたイラン系デンマーク人の映画監督アリ・アッバシ。ドナルド・トランプ役として見事な演技を披露し、第97回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたのは、『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011)などに出演するセバスチャン・スタン。野心とナイーブさを併せ持った青年が悪名高き弁護士のロイ・コーンと出会い、気に入られて育てられ、やがてコーンの想像を超えるモンスターになっていくさまを、“本人にしか見えない”というレベルで演じている。トランプの師となるロイ・コーンに扮するのは『ジェントルメン』(2019)などに出演するジェレミー・ストロング。悪辣さと人間の哀しさを体現し、助演男優賞にノミネートされた。
ドナルド・トランプはどのようにして創造されたのか。フィクションを超える衝撃のリアルストーリーがここに。
point of view
アメリカの右派勢力に精通したベテランの政治ジャーナリストであり、脚本家で作家のガブリエル・シャーマンが綿密なリサーチを重ねて書いた脚本。偏見や個人的な主張に左右されることなく、人間の複雑さを浮き彫りにしたイラン系デンマーク人アリ・アッバシ監督の演出。本作は政治的主張を主題とする映画ではない。あくまで主題は人間を描くことにあり、だからこそ中心にいる人間たち、ドナルド・トランプと彼の師となるロイ・コーンを演じる俳優には本物の演技力が求められたはず。その期待にセバスチャン・スタンとジェレミー・ストロングが見事に応えている。セバスチャン・スタンはドナルド・トランプの人生哲学を理解しようと、1970年代末から1980年代にかけてのインタビュー記事や映像素材にくまなく目を通し、徹底研究。対象に没入し、対象の動作を自分の血肉にしていったという。結果、話し方や何気ない仕草や動作、視点の運び、思考の仕方など、すべてにおいて“ドナルド・トランプそのもの”と思えるような姿を見せている。うわべだけではなく演じる人物の本質を見抜き、自分のものとしたセバスチャン・スタンには感服のひとことだ。ロイ・コーンを演じたジェレミー・ストロングも同様にリサーチを徹底した。その過程で、悪名高い弁護士が実は愛を渇望していたことに着目。単純な悪人とするのではなく複雑な人間として体現し、深みを持たせている。
セバスチャン・スタンとジェレミー・ストロングはキャリアハイの演技を披露したと言っていい。演じ手の技量をまざまざと感じる1本に仕上がっている。
『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』
2024年/アメリカ/123分/R15+
監督・製作 | アリ・アッバシ |
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出演 | セバスチャン・スタン ジェレミー・ストロング マリア・バカローヴァ マーティン・ドノヴァン ほか |
配給 | キノフィルムズ |
※TOHO シネマズ日比谷ほかにて全国公開中
©2024 APPRENTICE PRODUCTIONS ONTARIO INC. / PROFILE PRODUCTIONS 2 APS / TAILORED FILMS LTD. All Rights Reserved.
ジェシー・アイゼンバーグ監督長編第2作 正反対のいとこ同士がルーツを巡る旅へ
『ソーシャル・ネットワーク』(2010)で俳優として高く評価され、自ら脚本を書き下ろした『僕らの世界が交わるまで』(2022)で監督デビューを果たしたジェシー・アイゼンバーグ長編監督第2作。監督のほか脚本、製作、主演も担い、自身が演じるニューヨークで地に足のついた生活を送るユダヤ⼈のデヴィッドと、キーラン・カルキンが演じる自由奔放ないとこのベンジーが亡くなった祖母を偲び、その故郷ポーランドを旅する様子を描き出す。第97回アカデミー賞においては、自身の体験から着想を得てコメディとドラマが絶妙に折り重なる脚本を執筆したジェシー・アイゼンバーグが脚本賞に、厄介だけれど周囲の人を魅了するいとこを演じたキーラン・カルキンが助演男優賞にノミネートされている。
かつては兄弟同然だったが今では疎遠になってしまったいとこ同士は、家族のルーツを辿るうちに求める“境地”が重なっていく。人生の痛みや苦しみに踏み込みつつもあくまで眼差しはやさしく、観る人の共感を誘う珠玉のロードムービーが誕生した。
point of view
デヴィッド役のジェシー・アイゼンバーグ、ベンジー役のキーラン・カルキン共に好演しているが、とりわけキーラン・カルキンの演技は印象的だ。ルーズで情緒不安定、よく問題行動も起こすが、同時に華があってオープンマインドで、かかわる人々は彼に引きつけられずにはいられない。そんな人物を魅力的かつ肌触りリアルに演じている。
そして、ジェシー・アイゼンバーグの手腕が光る。共にユダヤ系アメリカ人であるジェシー・アイゼンバーグと妻のアンナ・ストラウト。ふたりのルーツであるポーランドを2週間旅した経験をもとに戯曲を執筆し、2013年にオフ・ブロードウェイで『The Revisionist』のタイトルで上演。その後も旅を通じて心に刻まれた思いを熟成させ、ついには映画にした、という背景がある。とりわけ脚本が素晴らしい。人間味に溢れたいとこ同士が家族の歴史を辿り、家族との繋がりを取り戻していく姿を時におかしく、時にチクリと鋭く描写。人生の光と影、人間の感情のひだをしっかりと描きつつ、個人的な物語を多くの人が心を寄せられる普遍的な物語へと昇華させたジェシー・アイゼンバーグ。才能のある俳優は才能のあるストーリーテラーでもあることを証明した1本と言える。
『リアル・ペイン〜心の旅〜』
https://searchlightpictures.jp
2024年/アメリカ・ポーランド/90分/PG12
監督・脚本 | ジェシー・アイゼンバーグ |
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出演 | ジェシー・アイゼンバーグ キーラン・カルキン ウィル・シャープ ジェニファー・グレイ ほか |
配給 | ウォルト・ディズニー・ジャパン |
※1月31日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国公開
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