FLYING POSTMAN PRESS

クリエイターを繋ぐ対談連載CREATOR × CREATOR

異なるフィールドで活躍する若手クリエイターふたりがモノ作りの楽しさや面白さ、大事にしていることなどを語り合う本連載。第29回のゲストは、12/1に映画『朝がくるとむなしくなる』の公開を控える映画監督・石橋夕帆×『子供はわかってあげない』『水は海に向かって流れる』を手がけ、現在はモーニング・ツーで『みちかとまり』を連載中のマンガ家・田島列島。

Vol.29映画監督・石橋夕帆 × マンガ家・田島列島

  • 石橋夕帆
  • 田島列島

「自分も最終的に視聴者になりたいという思いはいつもある」(石橋)

田島さん、石橋監督の最新作『朝がくるとむなしくなる』はいかがでしたか。

田島「面白かったです。こういう、地味だけどちゃんと気持ちを描いている映画はあってほしいなって思いました」

石橋「ありがとうございます。コロナ禍の助成金で映画を作ろうという企画があり、オファーをいただいて監督をお引き受けしたんです。キャスティング候補の中に唐田えりかさんの名前があって。 率直に“唐田さんと何か作ってみたい”って思いました。幸いなことに、物語の内容もすぐに思い浮かんで。自分の中では唐田さんに捧げる映画を作りたいという想いが強かったです」

田島「映画の中で唐田さん演じる希が、友だちの加奈子(芋生悠)の実家に遊びに行くシーンがあるじゃないですか。で、友だちの言葉で泣いちゃうところ。あのシーンを唐田さんありきで撮ったとしたら、すごいことをしましたね」

石橋「加奈子役の芋生さんには前作『左様なら』で主演を務めてもらいました。その頃に芋生さんに唐田さんと親しい友人だという話は聞いていたんです。で、今回、唐田さんと映画を作ることが決まって、 “唐田さんと芋生さんの関係性をベースに作りたい”と。唐田さんの報道に関して、私は部外者なので何かを言及する立場にはありません。でも、これは完全に私のエゴですが、芋生さんが演じた加奈子という役には希に寄り添って、“大丈夫”って抱きしめてほしいと思って。そんな願いを込めたシーンです」

田島「『ぼくらのさいご』や『左様なら』を観て、“あの頃の少女マンガ”の影響を感じて。少女マンガでも“モテモテ”のほうじゃなくて…(笑)」

石橋「伝わります(笑)」

田島「抒情的なほうの。『天然コケッコー』とか。別フレ派だとしたら『溺れるナイフ』とかですか?」

石橋「読んでました(笑)!」

田島「そういう抒情派の少女マンガって大体舞台が田舎なんですよね。“モテモテ”の舞台は都会が多いんですけど。あ、でも『閃光』は都会で抒情って感じか」

石橋「まさか『閃光』まで観てくださっていたとは! あの映画は主演の田中一平さんという俳優から連想して書いたら、“都会で抒情”になったというもので。オリジナル脚本の場合、俳優ありきで物語を考えることもあります。田島先生の『みちかとまり』は田舎が舞台ですね。それも田園や山に囲まれた、村的な田舎。ああいう場所特有の怖さがあると思っていて。その怖さとユーモアが絶妙に合わさり、これまでの作品とはまた違うものを読ませてもらっているなと感じます」

『みちかとまり』はどんな発想で描き始められたんですか?

田島「『子供はわかってあげない』はプールから、『水は海に向かって流れる』は雨から始まって。どちらも水から始まったので今回は逆に火から始めようと。そんな発想で最初の2ページを描き、“これ、どんな話かな?”って思いながら描き進めていった感じです」

石橋「田島先生は描き出される前に歩かれるそうですね。ひたすら歩きながら思考を巡らせるうちに最初の何かを思いつくんですか?」

田島「歩くは歩きますが、その間は考えたり、考えなかったり。でもとにかく歩いてから机に向かい、“これを描かないとお酒が飲めない”って自分に言い聞かせるんです(笑)。それでなんとか無理くり、それが正しいのかどうかもわからないけれど、“火だ。煙が上がっている”と、脳に浮かんだものを描いていく。台詞から始まりはしないですね。風景から始まるというか」

石橋「私も『朝がくるとむなしくなる』で言えば中盤にある“おでんをぶつけるシーン”とかは早めに思い浮かびました。ビジュアルがパッと思い浮かぶシーンが何カ所かあり、それらを違和感なく繋げるためにはどんな人物がいて、どういう物語だったら感情の流れやつじつまが合うかを考えながら脚本を作っていくことが多いです」

そのイメージは“自分が観たいもの”だったりするんですか?

石橋「お客様だけでなく、自分も最終的に視聴者になりたいという思いはいつもありますね」

田島「私も話に詰まった時は“美しいものが見たい”と思います。あと“ハラハラドキドキさせなきゃいけない”とも。このふたつを意識すると話が進んだりするので。ちょっと読者感覚はあるかもしれないです」

石橋「読者として『みちかとまり』の2巻が楽しみです」

田島「がんばります。私は『朝がくるとむなしくなる』を観て唐田さんが気になったので、唐田さんが出ている他の映画も観てみようと思います」

石橋「それはうれしいです。唐田さんはもちろん、他のキャストの方々も含めて、この映画をきっかけに気にかけていただけたら本当にうれしいです」