Vol.27餃子超人・オガサワラガク × ミュージシャン・玉置周啓(MONO NO AWARE、MIZ)
「最近は形式をどう破壊するか考えている」(オガサワラ)
「10年・20年のスパンを同時に感じられるのが曲を作る面白さ」(玉置)
玉置さんの曲は海外ロックサウンドを思わせつつ、懐かしいメロディです。
玉置「やっぱり軸が重要だと思います。関数グラフで言う中点。あらゆる情報が手に入りやすくて誰でも(なりたい自分を)選べる時代に近付いているじゃないですか。そうすると、そもそも自分が何を大切にしているかという中点の部分が薄れてしまうなと思っていて。海外の音楽への憧れは強いんですが、小さい頃にフォーク、歌謡曲、J-POPを聴いて育った以上、そこから脱皮してしまうと宙ぶらりんになる気がするので、その部分は大切にしていますね。餃子で言うと僕にとっては実家の餃子が最強で、他のを食べた時も実家の餃子という中点と比較して感想が出てくるんです。ガクさんの中点はどこなんですか?」
オガサワラ「みんな原点は実家の餃子だと思うんですよね。それが一番食べてきたものですし。でもそこを軸にすると共感が得られないから難しい。餃子って何ひとつ同じレシピがなくて、家によって材料や調味料、こね方、混ぜ方が違うんですよ。’50?’60年代にできた町中華の餃子も店ごとに全然違うから毎日食べても飽きなくて…そういう意味では今まで食べた餃子の平均値を軸にしているかも」
玉置「中点というより地図を作る感じですね。点をどんどん打って地形がわかっていくような」
オガサワラ「最強の餃子がまだわからないから、僕はオリジナルの餃子を作れないんです。それが僕が考える最高においしい餃子と思われたら嫌だなって。それで今は餃子と合わせるビールとかを作っています。周啓は、自分が作るもの=正解だって思われることに怖さはないの?」
玉置「まず最強のものを作るという感覚があまりないです。今面白くて格好いいと思うものをとりあえずやってみる、みたいな。曲作りはいつも不完全燃焼で終わるんですけど、音楽が面白いのはそれが残ることですよね。途中式が残る感じが、ある意味快感というか。20歳の時の感覚や記憶はもうほとんど残ってないけど、20歳の時に書いた青臭い歌詞や未完成の曲は残っていて、それを見ると愚かだなと思う。きっと40歳の俺も30歳の俺が書いた曲を聴いて愚かだと思うだろうけど、今の一点だけじゃなくて10年・20年のスパンを同時に感じられるのは、残るものを作る面白さですよね。だからあまり怖いとは思わないです」
オガサワラ「不完全燃焼って、曲作りをやり切らないってこと?」
玉置「1時間前の自分と今の自分は違うし、作り始めから終わりまでの間に人間が変わっちゃうから、作り終わる頃には大体なんか違うって思うんです。アキレスと亀みたいなことになるから終わらせないとキリがない。曲作りは“この時はこうだったんだ”って終止符を打つ作業って感じです」
オガサワラ「今の自分のほうが洗練されているというか、進化してるんだね。前に言ってたけど、周啓って型を作らないようにしてるじゃない?」
玉置「そうですね」
オガサワラ「“音楽性の確立というのは型にはめることや形式張ることだから、自分はしない”って話してて。でも俺は変に形式張っちゃって、最近はそれをどう破壊するか考えてます。MONO NO AWAREの曲を聴いていると、そういうのがなくて毎回新しいなって」
玉置「型って、言い換えるとキャラクターだと思うんです。それは自分で作るよりもにじみ出たほうが愛される気がしていて。文体や曲調でキャラを固めようとすると、多少嘘をつくことになるしお客さんにも偶像を愛してもらう形になるので、いずれ苦しくなると思います。だから売れようが売れまいが、自分がラクなほうでいたいなと。みんなが思う型(キャラ)にも手を出すけど、それは自分の人格とは別なんですよ。“いろんな型に手を出しても一貫して何かを感じる“のが僕のキャラだと思っていて、それが長くやっていくうちに作品からにじみ出ることを期待してます。そのためにも、冒頭で言ったような自分が何が好きなのかという軸を持っておかないと、にじみ出るものもにじみ出ないんじゃないかなって。ガクさんは愛され人だし、それがにじみ出てると思いますよ。対談前だってアフロのカツラを被って出てきたんだから。もう笑っちゃいましたよ。そのキャラで突き進んでください(笑)」
他に聞いてみたいことは?
オガサワラ「最後にもうひとつ。歌詞はどうやって書いてるの?」
玉置「日常で気になったことをメモしてますね。あと、最近はメロディやドラムのリズムに引き寄せられることも多いです。1stアルバムの時は耳が気持ちいいものを優先していたんですけど、だんだんメッセージを伝えなきゃって気持ちになってしまって。でも4th『行列のできる方舟』を出した後からもっと音楽を楽しむ方向になりました。年齢的なものもあるけど、今はメッセージよりも表現それ自体が求められる時代だと感じるので、“何も考えずに気持ちいいからやる”というところに戻ろうとしていますね。『風の向きが変わって』(最新シングル)からそれを試し始めてます」
オガサワラ「なるほど。歌詞を書いてみたかったから、リアルな話を聞いてみたくて。この前餃子の歌詞を書いたけど全然ダメで」
玉置「ブログからキラーフレーズを集めて、都々逸とか五七調にまとめたらいいんじゃないでしょうか。“汚れたタイルが”とか“ダクトの下で吸う排気”とか」
オガサワラ「お~。まとまったら、それ送るね(笑)」
玉置「曲を当てて返します(笑)」