Vol.6映画監督・松本壮史 × お笑い芸人・加賀 翔(かが屋)
「登場人物を自分の子どもだと思って書いたりします」(加賀)
松本「僕、かが屋のコントを初めて観たのが、演劇とお笑いの方々が混合でライブをする『テアトロコント』の時で」
加賀「来ていただいたんですよね。ロロの三浦さんが脚本・演出された時に」
松本「三浦さんの応援に行ったんだけど、かが屋のコントを観たらその日見た他のすべてを忘れるぐらい面白過ぎました。特に最後の『田舎の家族』というネタ。近所のくら寿司が潰れたことを話題にする夫婦の話がすごかった。笑えるだけじゃなく、市井の人たちの普通の愛にグッときて泣いちゃったんです。あれはどういう発想で作ったんですか?」
加賀「あれは一瞬でできたネタです。家の近所のくら寿司が本当に潰れたんですよ。僕、愕然としちゃって。“あんなに人がおったくら寿司が潰れるわけなかろうが!”って賀屋に話してたんですよ。またちょうどその時、地元に唯一あったファミレスが潰れたという話をおかんから聞いて。もう大騒動ですよ」
松本「はい(笑)」
加賀「で、潰れたことを信じられない男となだめる奥さんという構図が思い浮かびました」
松本「また、ふたりは子どものために悩むんですよね」
加賀「実は子どもは最初いなくて」
松本「そうなんですか!」
加賀「ネタ練習しながら足した設定です。くら寿司が潰れたことを子どもに言ってくると男が一回捌け、戻ってきて“子どもは知っとった。潰れて一番悲しいのはくら寿司さんじゃあ思うけぇ、僕が悲しむわけにはいかんのじゃ”と子どもが言ったみたいなことを僕がアドリブで。言いながら泣きました。“なんていい子なんや!”と思って」
松本「自分で言ったのに(笑)」
加賀「自分のアドリブ台詞に感動しちゃって(笑)」
松本「かが屋のコントって“やさしい”とか“可愛い”が“面白い”に繋がっていくじゃないですか。そういう種類の笑いは映画とかにはあるんだけど、お笑いでやっている人たちってそんなにいないと思うんです。観て新しいと思ったし、感覚が近いかなと思えるところでもあって。“やさしい”とか“可愛い”が“面白い”になるって気付いたきっかけは?」
加賀「僕、子どもが好きなんです。マンガとか読んでいても、子どもががんばっている姿とか失敗する様とかが可愛く、かつ面白く思えたりする。また、僕もいつかは親になりたいという夢があり、“自分の子にはこう育って欲しいな”とかよく考えるんですね。で、それをネタに入れたりする。要は、登場人物を自分の子どもだと思って書いたりします」
松本「僕も“可愛い”は三浦さんとキャラを作る時の共通言語としてありました。お互いにエピソードを出し合っては“それ可愛い”って言い合うんですよ。打ち合わせで“可愛い”と言う回数が多い時ほど完成に近付いてる感覚がありますね」
『サマーフィルムにのって』も『田舎の家族』のように一気に構想ができたそうですね。
松本「最初の打ち合わせ5~6時間でほぼできてました。今、加賀さんの『田舎の家族』の話を聞いていても思いましたけど、たまたま思い付いた時の熱量ってすごい力を持っているんだなって。ネタ作りって楽しいですよね。この映画の話を考えた日も帰り道で“楽しかったなぁ”って思ったことを覚えてます。加賀さんもネタ作り、楽しくないですか?」
加賀「僕……賀屋と? どうでしょう(笑)?」
松本「そもそも、ふたりで作ります? 作家さんは入ったりしない?」
加賀「実は探してます、作家さん。みんな作家さんとかに話聞いてもらいながら作っているんじゃないかと思って」
松本「だと思いますよ。僕も三浦さんと作る時、共通の友だちのマンガ編集者も入れて必ず3人で話すようにしているんです。ふたりだと息詰まるところも3人いれば回避できるし、マンガ編集者だけにまとめるのがうまいし、知識量もすごいからアイデアの交通整理もしてくれる。紹介しましょうか(笑)?」
加賀「紹介してください(笑)」