Vol.6映画監督・松本壮史 × お笑い芸人・加賀 翔(かが屋)
「嫌な奴がひとりもいない映画にしたいと思っていた」(松本)
松本監督が加賀さんを映画『サマーフィルムにのって』の試写会へと招待したそうですね。
松本「そうなんです。『サマーフィルムにのって』は僕にとって一本目の長編映画だったんですが、想像以上に毎日の撮影がハードで疲労とプレッシャーとで精神的に追い込まれることがありまして。そんな時、加賀さんが瑛人の『香水』で踊り狂うという動画を観て、メチャクチャ笑って元気が出ました。撮影を乗り切れたのは加賀さんの動画のおかげです」
加賀「加賀で元気出さないでください(笑)」
松本「だから、加賀さんには絶対この映画を観てもらいたいと思っていたんです」
加賀「映画、面白かったです。伊藤万理華さん演じる主人公のハダシとか魅力的なキャラがたくさん出てきて、最初からグイグイ引っ張られていく感じがあって。特に僕はダディボーイがツボでした。登場した瞬間からもう面白かった。彼のこと何もわかっていないのに一瞬で心を掴まれました」
松本「それメッチャうれしいです。ダディボーイとか、ハダシの映画の撮影スタッフになる子たちはクラスでは浮いているかもしれないけどどこかしら魅力的な、しかも全員可愛い子にしようと思っていて」
加賀「ヤンキー男子のデコチャリを照明にしようという発想もすごいです(笑)」
松本「あれは裏設定があるんです。あいつにはバイクを持っているヤンキーの先輩がいて、その先輩のバイクのライトに興味を示し出すという」
加賀「大体みんな“音”とか“速さ”とかに行くのに(笑)」
松本「そう、照明なんだっていう(笑)。脚本を一緒に書いたロロの三浦(直之)さんとは、キャラを考えながらそういう裏設定を延々話すんですよ」
加賀「僕は書く時は裏設定はそんなには考えないんですけど、書いたネタを練習しながら考えることはあります。自分で演じながら“なんか、こいつ、わかんないな”としっくりこない時は、例えば、そのキャラの出身地を変えてみたり。方言を使うネタじゃないとしても“田舎から出てきた自分”という感じに地の部分を変えたりすると結構変わるので」
松本「“自分が演じられないけれど面白いな”みたいなキャラを思い付いたらどうするんですか?」
加賀「かが屋がネタ練習をする時は全ネタ必ず、賀屋と演じるキャラを入れ替えてやってみるんで
松本「なるほど、どちらかがやると」
加賀「そう、どちらかで落ち着かせるという感じです。ただ……そもそも僕は自分が演じられないキャラは思い付くことすらできないような気がします」
松本「自分ができないキャラを賀屋さんが思い付くということは?」
加賀「ああ、なるほど。でもそうですね…賀屋が考えたキャラでもやってみて“これ、どういうこと?”と思った時には演じられないかもしれないです。要は僕、演技が上手じゃないんですよ」
松本「面白いですね。自分とは全然違うんだなと思いました。僕の場合、考えたキャラを他の人に演じてもらい、それを見て気付いたりすることはあって。例えば今回の映画でも花鈴というキャラを甲田まひるさんに演じてもらったんですけど、彼女が演じる姿を見ながら“あ、花鈴ってこんな感じだ”と知り、“こんな感じだとしたら、ここ言い方変えてみようかな”と現場で調整したりしましたね」
加賀「花鈴は大好きなキャラです。最初から“こいつ格好いいな”って思っていたんです。主人公のハダシも時代劇という自分が絶対的に好きなものを持っていて、ちゃんとそれを好きと言える格好良さがあるんだけど、花鈴も同じで。キラキラ恋愛映画という自分の好きなものがあり、かつ、ちゃんと人を動かして作品にしている。なんかこの映画って嫌な感じの奴らが出てこないんですよね。全員好きになれる」
松本「うれしいです。最初からそういう、嫌な奴がひとりもいない映画にしたいと思っていたので」