FLYING POSTMAN PRESS

三月のパンタシアが深掘りする愛

好きなのに結ばれない結末に惹かれる

──日頃から愛を描いた作品をご覧になることは多いですか?

みあ そうですね。いつも小説を読んだり映画を観たりするとすべてメモに残すのですが、自分が好きな作品は、愛について問いかけられる作品が多いです。私がいちばんグッとくるのは、お互いに大事に思って寄り添い合っているふたりが、最後はどうしても結ばれない話。それはどちらかのセクシュアリティに関する理由だったり、どちらかにどうしても離れられない人がいたり。映画で言うとグザヴィエ・ドラン監督の『わたしはロランス』(2012)や篠原哲雄監督の『月とキャベツ』(1996)など、好きなのに結ばれない切なさに尋常ではないエモさを感じています。

──惹かれる理由はどこにあると思われますか。

みあ 学生の頃、読書が好きになったきっかけが、島本理生さんの『ナラタージュ』だったんです。主人公の泉は高校生の時に好きだった先生と大学生になって再会して、先生とお互いに共依存に近いくらい必要とし合っていきます。でも、気持ちは深く繋がり合っているふたりが、最後は別れを選びます。人間の心の複雑さや運命のうまくいかなさがよく描かれていて、私はこの小説に自分の恋愛観が大きく影響された気がしています。

──それが愛を描いた作品に触れる始まりだったんですね。

みあ そうですね。当時は大人の恋愛に憧れて、江國香織さんや唯川恵さんの恋愛小説をよく読みました。江國香織さんの小説だと、繊細で都会的でかっこいいんだけど、どこか心の一部が壊れてしまっているような女性像に惹かれました。朝井リョウさんなど青春小説も多く読みました。学生時代に抱えていた理由のない苛立ちや焦燥感、大人に対する不信感といった、当時は自分の中で言語化できずモヤモヤと抱えていた気持ちに共感しました。特に大きな事件が起こるわけでもない日常と地続きの、誰しもが見てきた情景が面白く描けるのはセンスだと思うし、朝井さんは天才だなと思います。

──みあさんにとって、そうしたカルチャーに触れることにはどんな意味がありますか?

みあ 自分の創作意欲が掻き立てられる瞬間は、素晴らしい作品に触れた時が多いです。私もこういう曲を歌ってみたいとかこういう作品を書いてみたいとか。傑作に触れると心が突き動かされて、栄養を摂取しているように心も体も元気になります。それが自分の心臓から血液として流れ出て、自分の創作にも注がれますし、カルチャーがもたらす人への影響は、メディカル的なもの以上の効果があるなと感じています。

──みあさんにとっては、良質のカルチャーが“栄養摂取”になっているんですね。

みあ 落ち込んでもう何もしたくないという時でも、作品に励まされることが多いです。何もうまくいかなくて人生についてとても悩んでいた時期に、安藤サクラさん主演の『百円の恋』(2014)を映画館で観たんです。ボクシングに打ち込んで自分のすべてを賭けて相手に立ち向かっていく姿に感動して、ボロボロに泣いて映画館を出たらすっかり心が晴れていて。映画でも小説でも、漫画やアニメでも素晴らしい作品に触れるといつも元気になりますし、自分が書く歌詞や小説にももちろん、今まで愛してきた作品たちが強く繋がっていると思います。