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『マッドマックス』怒りの戦士誕生

『マッドマックス』サーガ最新作
<デス・ロード>へと繋がる怒りの原点
戦士フュリオサが生まれるまで

 1979年にジョージ・ミラー監督の手により誕生した『マッドマックス』。大ヒットを受けてその後、1985年までに続編2本がジョージ・ミラー監督のもとで作られ、『マッドマックス』3部作は近未来バイオレンス・アクションの金字塔として映画史にその名を刻むこととなった。

 伝説はそこでは終わらなかった。ジョージ・ミラー監督は2015年に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を発表。同作は世界的にヒットしたのみならず、第88回アカデミー賞においては6部門を受賞するなど芸術的にも高い評価を受けることとなった。

 あれから9年を経て、伝説は三度幕を上げる。『マッドマックス』サーガの新作『マッドマックス:フュリオサ』が5月31日(金)より公開へ。ジョージ・ミラーが監督・脚本・製作を担って描くのは、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に登場した戦士フュリオサの物語。彼女の怒りの原点がついに明かされる。



最強の戦士フュリオサの原点

 『マッドマックス:フュリオサ』の主人公は、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)において名優シャーリーズ・セロンが演じたフュリオサ。同作のヴィランであるイモータン・ジョーの右腕でありながらその実は正義の人であり、やがてイモータン・ジョーに反旗を翻すフュリオサは、『マッドマックス』サーガ最強の戦士とファンに称えられている。『マッドマックス:フュリオサ』は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の前日譚、10歳から26歳までのフュリオサの人生を追い、その原点を描いていく。

 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の中で、口数の少ないフュリオサが主人公のマックスに対して身の上を語る一幕がある。子どもの頃に盗賊に誘拐され、故郷や愛する者すべてを奪われたのだと。その一連が本作で描かれるのだが、彼女の辿ってきた道のりは想像以上に過酷でドラマティックだ。

 母に愛されて強くたくましく育った少女が理不尽な暴力を前に絶望の淵に立たされ、それでも母の教えを胸に強く生き抜き、トライ&エラーを繰り返しながら学んでいく。『マッドマックス』サーガファンなら誰しも、こうしてあの強く懐の深い戦士が生まれたのかと、感慨深くその成長を見守ることになるはず。

 若き日のフュリオサを演じるのは、アニャ・テイラー=ジョイ。Netflixシリーズ『クイーンズ・ギャンビット』(2020)や、映画『ライストナイト・イン・ソーホー』(2021)、『ザ・メニュー』(2022)などでスターダムを駆け上がり、今や、その動向を世界の映画界が注目する俳優のひとりとなっている。

 強く訴えかけるような目に、そこに在るだけで雄弁に物語る映画俳優然とした佇まい。そんなアニャ・テイラー=ジョイの魅力が、フュリオサ役に生かされている。無口なフュリオサの心情を視線の運びや佇まいで伝えるだけではなく、『マッドマックス』サーガの醍醐味であるカー&バイクアクションも、本作でとりわけ多く観られるガンアクションも凛々しくこなし、その戦い方にキャラクターがよく表れている。

 『マッドマックス』サーガの主人公マックスがそうであるように、フュリオサもまた“正義のアウトロー”と言える存在だ。理不尽な権力者に屈することなく、“自らのルールやモラル”のみに従って行動し、戦い抜くその姿に惚れ惚れする。


宿敵ディメンタスに復讐を果たすまで

 フュリオサの宿敵として立ちはだかるのは、クリス・ヘムズワース演じる無法者バイカー集団の長ディメンタス。幼いフュリオサを連れ去り、彼女のすべてを奪って過酷な状況へと追いやった張本人だ。『マイティ・ソー』シリーズ(2011~)ではヒーローを演じてきたクリス・ヘムズワースだが、本作では生き生きとヴィランを演じている。

 ディメンタスは略奪を繰り返し、あらゆる資源を吸い尽くそうとする悪の支配者のひとり。その頂点に立つイモータン・ジョーにとって代わろうと暗躍している。クリス・ヘムズワースはディメンタスを極悪非道でありながらユーモアのセンスも持ち合わせる、カリスマ性のあるリーダーとして体現。主人公とヴィランの敵対関係が大きな見どころとなる大作においては、ヴィランも主人公同様に魅力的であることが肝要だ。そんなヴィランが登場することで主人公の活躍はより引き立ち、ストーリーは躍動する。

 ディメンタスという憎々しくも抗えない魅力を備えた強敵に立ち向かうからこそ、フュリオサはさらに輝きを増す。フュリオサの16年越しの復讐劇、ディメンタスとの圧巻のバトルを手に汗握って見守りたい。


進化する『マッドマックス』的アクション

 本作のアクションは、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の進化系と言っていい。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は“3日間の逃亡&追撃”を描いた短期決戦型。カー&バイクアクションをノンストップで展開する『マッドマックス』的アクションここに極まれり、というものだった。今回も、パンクなビジュアルの荒くれ者たちが荒廃した近未来を改造車や改造バイクで暴走しつつ、銃撃戦、肉弾戦と、あらゆるバトルを繰り広げていく。

 ただ、前作の踏襲では終わらないのが『マッドマックス』サーガのすごいところ。今回は16年という長い年月を描くこともあり、キャラクターのドラマを丁寧に見せていくようなアクションシーンもたくさんある。さらに、これまで以上に“空からの攻撃”を効果的に取り入れている印象を受ける。例えば、飛行船型のバイクが急降下し、ファンにはおなじみの改造車ウォー・タンクの上から爆弾を落とすといった具合に。まさに縦横無尽、スクリーンの隅から隅までを使ってのアクションシーンにワクワクが止まらない。

 車やバイクのデザインにも毎回注目が集まるが、本作のそれも最高に格好いい。例えば、ウォー・タンクは『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に登場するそれの前段階にあり、物語が進む中でダブル連結のタンカーに拡張されるなど、“仕上がっていく過程”が観られるのも面白い。本作における車やバイクは移動手段であり、死闘の舞台となり、キャラクターの一部ともなるもの。細部に至る作り込みにも注目したい。