FLYING POSTMAN PRESS

三月のパンタシアが深掘りする愛

それぞれの愛の形が描かれる
『スノーノワール』と『僕らの幸福論』

 三月のパンタシアが5月にリリースする『スノーノワール』と『僕らの幸福論』は、どちらも愛をテーマにしながらもまったく異なる印象を残す。それぞれテレビアニメ『魔法科高校の劣等生』スティープルチェース編エンディング主題歌、映画『ハピネス』主題歌という劇中の主人公に寄り添う楽曲の制作背景で、みあはどのような思いをこれらの曲に込めたのか。

 “互いに寄り添い合いながらも結ばれない”愛の結末に惹かれるというみあ。彼女とカルチャーとの関係についても聞いた。

 5月上旬に行ったみあさんのインタビューでは、『スノーノワール』を楽曲制作されたNEEのくぅさんが生み出す音楽についての思いを伺いました。くぅさんの突然の訃報に接し、謹んでお悔やみ申し上げますと共に心からご冥福をお祈りいたします。

取材・文:俵本美奈



自分を醜くさせる愛情だってある

──5月には新曲2曲がリリースされます。まずは現在放送中のテレビアニメ『魔法科高校の劣等生』スティープルチェース編のEDテーマ『スノーノワール』の制作に込めた思いから聞かせてください。

みあ こちらは2021年放送の『魔法科高校の優等生』に続いて、音楽として携わらせてもらうのが二度目になります。前回はヒロインの深雪の気持ちを軸にして、少女の思いの強さや気高さをテーマに制作したのですが、今回はアニメチームから「優等生と言われるほど誰に対しても平等でやさしく、お兄さんのことを慕いながらも兄妹という関係上、気持ちを抑えてきた深雪ですが、そろそろ気持ちが抑えられなくなってきているところ。なので、ややダークな感情を歌ってもらえたら」とリクエストをいただきました。片思いの切なさというよりは、そこから一歩踏み込んだ、気持ちが強過ぎるがゆえにやや歪んでしまった熱情みたいな部分をどう曲にしようかと考える中で、NEEさんの世界観と三月のパンタシアが掛け合わさると面白いんじゃないかと思いました。

──作曲がNEEのくぅさん、作詞もくぅさんとみあさんの共作ですね。

みあ NEEさんの楽曲にはどこか不穏さを感じるシンセサウンドだったり、口を塞ぎながら心の声を叫んでいるような、どこか行き場のない苛立ちや大人になりきれない気持ちを表現する世界観があります。ライブを観させていただくと、テクニカルさとスタイリッシュさ、ボーカル・くぅさんの歌の中で発散される感情がひとつになって伝わってきました。『スノーノワール』は、楽曲制作をお願いしていくつかデモをいただいた中でもいちばん面白くなりそうだと思って選ばせていただいた曲なんです。

──イントロから何かが始まる期待感がありました。

みあ 私はNEEさんの曲のイントロがすごく好きで。イントロだけで何が起こるかわからないというか、展開が読めない感じも今回の楽曲に落とし込んでほしいとお願いしました。急にブレーキをかける感じが入るイントロは面白くて、とても気に入っています。

──その一方で、『僕らの幸福論』は同じく恋愛について歌っていても、印象が大きく違います。

みあ 『僕らの幸福論』は、映画『ハピネス』(現在公開中)の主題歌で、17歳の男女の恋人たちが、女の子が余命1週間と宣告された中で、残りの時間をどう過ごすかを描いた物語なのですが、もちろん死への恐怖ややるせなさは描かれていますが、私は死を語る映画ではなく、生きることの希望が描かれている映画だと感じました。ふたりが初めて愛に触れて知った幸福感みたいなところが楽曲になると素敵だなと思っていましたし、MIMIさんの楽曲からは主人公が悲しみを抱きながらも前を向く清々しさも感じました。

──キラキラとしたふたりの輝きが楽曲から溢れ出ていました。

みあ メロディーは切ない感じなので、ピアノを主役にしている部分だったり、ストリングスだったり、なるべくアレンジの部分でキラキラ感を出そうと意識しました。そうした切なさと光を感じさせてくれるところのバランス感が、MIMIさんは見事だなと思います。

──8月24日にZepp Shinjukuで開催されるワンマンライブでは、こちらの2曲も聴けそうですか?

みあ はい、どちらも披露するのでぜひ遊びに来てください。今年は1月、2月に連続でデジタルリリースをして、またこうしてリリースができることはうれしいことですし、『スノーノワール』は特にこれまでの三月のパンタシアにはなかったエキゾチックさがある楽曲なので、これがどんなふうに伝わっていくのか期待も大きいです。ライブの内容はこれから詰めるところですが、最近は“愛するってどういうことだろう”とずっと考えていて。

──“愛”ですか。

みあ “人を愛する”って、そのフレーズだけ聞くととても尊くて美しいもののように感じますが、愛する気持ちが強過ぎるがゆえに嫉妬心が生まれてしまう場合もあるし、いつしか強い憎しみに変わってしまうこともあるし、必ずしも美しいばかりではないと思うんです。好きだから知りたいと思うのは自然な気持ちなのに、行き過ぎると束縛に繋がって相手の気持ちが離れたり、好きな気持ちが大きくなるほどうまくいかなくなってしまう。自分を醜くさせる愛情だってあると思うし、愛するってすごく難解なことだなと思っています。

──確かにそうですね。

みあ 私自身、そのバランスを取るのは苦手で、それも全部受け入れてくれる相手でないと難しい、面倒な人だと思っています(笑)。8月のライブでは、愛するとはどういうことか、愛について深堀りしてみたいなと考えています。