Vol.8映画監督・金井純一 × ミュージシャン・アフロ(MOROHA)
「『マイ・ダディ』は100人中100人に届いて欲しい映画」(金井)
アフロ「俺は昔から音楽でちゃんと金を稼ぎたい、と強く思っていたんです。“音楽はお金に替えられない”と純粋さの極論で音楽をやろうとすると、自分は良くても家族やメンバー、スタッフにしわ寄せがくる。そういった理由で人と離れてしまうのは一番切ない。かといってお金を一番にしてしまうのは本末転倒で。衣食住で辿り着けない感動を共有できるのが音楽だから。いつもそんな中で行ったり来たりを繰り返して、自分が納得できるところを探している感じがします」
金井「その点、映画は制約があったほうが作れるっていう人が多い気がしますね。自分の好きなように脚本を書いたとしても、それだけでは映画にはならないですし。脚本を誰かに読んでもらうとか、誰かに出演してもらうとか、そういう出口が見つかる度に制約が増えてくるわけです。僕は制約が出てくる度に“はい”って言って地味に変えていくんですけど、ふてくされて途中で辞めちゃう人も中にはいて」
アフロ「制約の話で言うとスチャダラパーのBOSEさんから聞いた話なんですけど。昔スチャダラが『ポンキッキーズ』をやっていた時に、同時に深夜番組も出演していて、そこでは下ネタとかも言いながら自由にやっていたらしいんです。でも『ポンキッキーズ』は教育番組だからそうはいかない。めちゃくちゃ行儀良くやっていたらしいんです。そしたら、深夜のスチャダラのファンが“なんか違くね? 朝のスチャダラはシャバくね?”みたいな感じになったんですって。それを聞いたBOSEさんが奮起して作ったのが“元気、勇気、ポンポポンポポンキッキーズ!”っていうオープニング。“ポンポポンポ”のところって実はレゲエのガン(フィンガー)からの発想なんですって」
金井「へえ!」
アフロ「教育番組的には銃はNGなので表向きは“ただのリフレインです”としつつ、深夜のスチャダラのファンに対し、“俺はクラブ文化をちゃんと朝に持っていってるぜ”っていうメッセージを暗に出していた。これ、俺がお守りみたいにしている話なんですけど、今までの話に通じるような気がして。制約の中で両方向に喜ばれるものが生まれたっていう。俺もこんなふうに全部を幸せにできるところを探したいんですよね」
金井「僕も『マイ・ダディ』は100人中100人に届いて欲しいと思いながら作ったんです」
アフロ「ただ、金井さんの『ゆるせない、逢いたい』もそうですけど、『マイ・ダディ』もテーマに悲壮感があるじゃないですか。多くの人に観てもらいたいと思った時、悲壮感って足かせにならないかなと思ったりもするんですけど」
金井「そこはムロ(ツヨシ)さんに主人公の一男役で出てもらえたので」
アフロ「なるほど! ムロさんのキャラクターの認知があるからこそ、物語の悲壮感が受け入れてもらえると。面白いな。役者さんの人間性、見え方含めでブッキングしていくんだ」
金井「希望する役者さんが出てくれるかどうかはまた別の問題なんですけどね。今回はムロさんに脚本を読んでもらって“響いた、泣いた”と言ってもらえた。それがもう答えなんですよ」
アフロ「それは映画の妙だなぁ」
金井「MOROHAの音楽を聴いた時、実は“これ、一男の内面だな”って思ったんです。全部のリリックにアフロさんの葛藤があり、ものすごく個人的な想いが音楽になっているような気がした。一男は何もかもがわからなくなって、でも“信じなきゃ”って内面がうごめいている。そういう一男にこの音楽を聴かせたいなって思ったんですよね」
アフロ「初めての褒め言葉です、登場人物に聴かせたいって」
金井「あと、好きだったのがリリックの展開の仕方。ネガティブな言葉を響かせた後、畳みかけて上げていく感じがして」
アフロ「そこは決め事にしているんです。俺は作った曲をライブや練習で年間千回以上は口にするんです。それも全身全霊で。ネガティブで終わると自分の精神衛生上良くないっていう、防衛本能に似ているところがありますね」
金井「またアフロさんの言葉の響かせ方って、“苦しい”は聴いているこっちも苦しくなるほど。で、その後に希望があるってところも、ちゃんと希望を持って響かせる。だから、聴いていてものすごく胸揺さぶられるんです。映画は120分で観る人の心を揺さぶろうと組み立てるけど、音楽は1曲約5分ですよね。映画は5分でこうは揺さぶれない。その違いも知れて、いい発見でした」
アフロ「なるほど、面白いな。マラソンと短距離走みたいですね。映画監督ならではの感想かもしれません」