Vol.8映画監督・金井純一 × ミュージシャン・アフロ(MOROHA)
「生々しい傷以外、創作に落とし込めるものはない」(アフロ)
金井「僕は小さい頃、映画は『ドラゴンボール』を観るぐらい。それよりもテレビが好きで、特にCMが好きだったんです。短い時間で多くを伝える映像に興味を持って、“自分が作るんだったらこうかな?”とか、想像したりして」
アフロ「『マイ・ダディ』の映画化企画を応募したTSUTAYA CREATORS' PROGRAMでは良いストーリーは3行で説明できると、実際に3行にまとめてプレゼンしたって記事を読みました。まさにCMってそういうことだと思うんですけど、根幹は子どもの頃にあったのかもしれないですね」
金井「確かに」
アフロ「初めて作った映像は覚えてます?」
金井「大学でドキュメンタリー・サークルに入ったんです。インカレだったので、機材のある大学のキャンパスに潜り込んで、カメラとか編集機材を勝手に使わせてもらって(笑)、路上で詩を書いている人のドキュメンタリーを撮ったのが最初です。ハイスペックなカメラなんだけど、メチャクチャ重かったんですよ。編集機材も急に電源落ちたりして、“ふざけんな”って言いながら(笑)、みんなで一生懸命作った覚えがあります」
アフロ「俺も中学の時、ショートフィルムを作ったことあるんです。学校の先生にカメラを借りて、脚本も中学生なりに一生懸命書いて撮って文化祭で発表しました。その頃はまだリリックも書き始めてないですけど、そうやって何か自分が作ったものを人前で発表するっていうのは昔から好きだったなって今思い出しました」
金井「その頃に比べたら今の子はうらやましいんですよね。スマホで映像が撮れる時代だから」
アフロ「それは音楽もそう。何より、作ったものを世に出しやすい。でも、一方で思うんですよね。不便さを乗り越える過程に美しい瞬間がたくさんあったんじゃないかって」
金井「ああ、わかります」
アフロ「ものを作る時、最短距離を行くことにより、あったはずの出会いやひらめきを遠ざけてしまうことってあると思うんですよ。今、武道館公演に向けてポスターをライブハウスやスタジオに配りに行くんですけど、向かっている時に雨が降ってきたりして。すると、自分の体は濡れてもいいけど、ポスターは濡らさないように体を丸めてポスターを抱え込むんです。そういう感覚こそが、映画の一場面とかリリックの一場面になり得るもののような気がしていて。より肉体に近い感覚、生々しい傷以外、創作に落とし込めないという俺の性格もあるんですけどね。もの作りする上で一番遠ざけなきゃいけないのが便利さなのかなと最近思ったりします」
金井「めちゃくちゃ共感します。あと、アナログの体験って続けるための力になるような気もしていて。昔、最初の自主映画を撮った時、雨が降ってきたんです。避けようがないぐらいの大雨の中、若いスタッフ全員が必死になってブルーシートで撮影機材を覆ったんですね。それを遠目で見ていたベテランのスタッフに“感動した”と言われて。そういう“雨降ってみんなで必死にカメラを守ったな”とか、“直線距離を行かなかったからこそあの出会いがあったんだな”とか、そんなことが壁にぶつかった時の力になったりする。アナログの体験があればあるほど、すぐに辞めようとはならないような気がします」