Vol.1映画監督・三澤拓哉 × ミュージシャン・内田怜央(Kroi)
「ひとつの感想や感情に染め上げないのが理想」(三澤拓哉)
それぞれ映画監督、ミュージシャンになったきっかけを教えてください。
三澤「もともと映画は大好きでしたが、職業にする発想はなく。両親が教員ということもあり、大学の頃は教員になろうと思ってました。でも教育実習に行く中で違うのかなと迷い始め、同じ頃に大学のイベントで宇崎竜童さんとお話する機会があったんです。そこで少し相談をしたら、話だけでも聞いてみればって知り合いの映画関係者を紹介してくださったんです。そこから“作り手”というものが見え始め、大学を卒業した春がちょうど日本映画大学が開校するタイミングで、映画の道へ進みました」
内田「僕の場合は、小さい頃に行儀が悪くて食器を箸で叩いてたら、親から“お前はドラムをやれ!”って強引にドラム教室に連れて行かれたんです(笑)。でも当時は音楽が好きとかバンドマンになりたいという気持ちはなく、純粋にドラムを叩くことが大好きというだけで。でもその後、中2の時にレッチリに出会って“バンドってこんな表現ができるんだ!”って震えました。それまでは“こうするべき”って正解があると思ってたけど、レッチリを聴いた時に“何をやってもいいんだ!”って人生変わるぐらい衝撃を受け、今に至ります(笑)」
三澤「僕にとってのレッチリは、ウディ・アレンの『アニー・ホール』、デヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』かな。“こんなことが映画でできるんだ!”って」
お互いの作品についてどんな感想を持ちましたか?
内田「『ある殺人、落葉のころに』、ものすごく面白かったです。内容的にはリアルで没入感があるんですが、クリエイション的には“近さを感じない”という新しい感覚でしたね。全体の色味、映像、構成、台詞など、知らなかったら海外の監督作品かと思うぐらい」
三澤「Kroiの音楽は、抜けの良さ、遊び心がありますよね。個人的には、音楽を聴いて体が動き出すっていう身体感覚を呼び戻されました。また、楽観的な音に対して幻想的なものをモチーフにした歌詞もとても面白い。歌詞の中に一滴の毒があり、甘さと苦味みたいなもののバランスがすごくいいですよね。“歪な日常”とか。勝手に自分の作品と近しいものを感じました」
内田「うれしいです。僕も最初に言えなかったのですが(笑)、モノ作りに対して似たエッセンスがあるのかなって。三澤さんの作品は、観た人の頭の中で完成する感じがしたんです。Kroiも聴いた人がいろんな価値観で聴けるものをめざしていて。グルーヴィな音楽でありつつ、歌詞に重みを持たせることもしたい。例えば、自分の考えをぼやかして書くと意味がわかんなくなる。そうするといろんな解釈が生まれるんです。そんなKroiの音楽を聴いて、みんなの自由な感想を聞くのも大好きです」
三澤「それは理想ですよね。ひとつの感想や感情に染め上げるのではなく、それぞれが自分の頭の中で最後の一筆を描いて欲しい」