FLYING POSTMAN PRESS

TOOBOEの楽曲制作の裏側を覗く

僕も青春時代、音楽に救われてきた

──曲を書く時は何が原動力になっていますか?

TOOBOE ボカロを始めて1、2年くらいの初期の頃は自分の怒りを原動力に曲を書いていたのですが、なんとか音楽一本で暮らせるようになって影響力もついてきたみたいな状態になった時に、怒りで伝えられることがあまりないなと感じるようになったんです。ここ2、3年はもっと深いところというか、例えば10代、20代のクラスでヒエラルキーがあまり上ではない人でも僕の曲を聴いている時だけはちょっと救われるというか、無敵であれるような時間を提供したいという気持ちが強くなっています。TOOBOEは“負け犬の遠吠え”というスラングから取った名前なので、自分の人生があまり勝ちではない人に、「がんばれ」とは言いたくないから、「俺もそんな時期あったよ、わかるよ」みたいな話をできるような曲を作っています。自分も好きなアーティストの曲で青春時代、救われてきた人生なんです。人間関係もしんどかったし、親の転勤が多くて友だち作りもそんなに得意ではなかったからひとりでいる時間が多くて。そんな時に僕は曲を聴くことでやってこれたから。それを今度は自分がやらなきゃなと思っています。

──当時、エンタメにはどのように触れていましたか?

TOOBOE 小中高校生くらいまでは、学校から家にすぐ帰って、部屋でニコニコ動画を観たり。一番長く住んだ地元はレンタルビデオ屋が家からすごく近かったので、家に帰る前に寄ってCDや映画をいっぱい借りて来て。映画も観たい作品を借りに行くというよりは、5本でいくらとかでジャケ買いみたいに借りてました。映画館も近くにあって、田舎だったのでガラガラなんですよ。だから気が向いたらよく行ってましたね。

──たくさん作品に触れる中で、特に惹かれるのはどんな作品でしたか?

TOOBOE 映画だとヒューマンドラマが好きなんです。邦画だと三谷幸喜監督の昔の『ラヂオの時間』(1997)とか。あれって映画的な目立った山場があるというより、人間が妥協して終わる映画だなと思うんです。みんながなんとなく今回はこんな感じだけどいいやって収まる感じ、その中で人間の魅力が出ている映画が好きですね。スガ シカオさんも、以前インタビューで“作詞する上で結論まで書かずになんとなくその手前で終わらせて、あとはリスナーに委ねたい”みたいなことをおっしゃっていたのですが、小説で大好きな奥田英朗さんも結論までいかないというか、なんとなくこんな感じで終われればいいねで終わるところが共通していると思います。

──三谷監督の作品も奥田さんの作品も、キャラクターがみんななんとなく変ですよね。ギリギリ日常生活を送っているというか。

TOOBOE そうそう。病気ではないんだけど、ギリギリ日常生活できるけど、ギリギリできない人たち。そういう人たちの愛しさがいいなと思います。哀しさでもあればおかしさでもあるのが喜劇の良いところで、そうした感情が僕はすごく好きなんだと思います。

──悲哀のような部分って、大人になったからこそわかるところもあると思うんですが、そこに小中高の頃から響いていたというのもすごいですね。

TOOBOE そうした映画を観て育ったからなのか、もともと好きな子どもだったのかはわからないですけど、なんか刺さったんでしょうね。周りの同級生とは聴いている曲の年代も違うし、好きな映画も全然違うし。周りは普通にヒットしている映画やヒーローものを観ていましたが、僕はひとりで渋めの映画を観てました。

──好きなものを共有したいという気持ちはなかったですか?

TOOBOE なかったですね。今もそうなんですが、僕は映画は絶対にひとりで観たいし、観た後に誰かと感想を言い合うこともほとんどしないんです。自分だけの娯楽であってほしいという気持ちもあって。だから今の僕の曲も、同じような若い子に刺さっているんだろうなと思ったりします。

──では、好きになったらひとりで掘り下げていく感じですか?

TOOBOE そうですね。とりわけさっき話した奥田英朗さん・三谷幸喜さん・スガ シカオさんは、全作品に触れているくらいずば抜けて好きなんですが、僕はめちゃくちゃ狭く深くで、ひとりの人にハマったらその人の作品を全部知るまではほかにいかないんです。映画も繰り返し観ますし、小説も何十回も読み返しています。昔文庫本で持っていた小説は全部電子書籍で買い直して、今はスマホで読んでいますね。

──そうした方々からご自身の作品への影響も感じていらっしゃいますか?

TOOBOE 奥田英朗さんは、文章の作り方にめちゃくちゃ影響されていると感じます。彼は難しい言葉を使わないで、ユーモアのある文章を書く人で。ボカロって難しい単語を多用するのも一興みたいな文化があるんですが、僕はそれをあまりやらずに自分の知っている言葉だけで楽しんでいました。さっきの御三方って、全員登場人物と一定の距離を置いていて、誰が主役という作品を書かないんですが、そのマインドは僕も同じで。楽曲の登場人物は自分が書いているからもちろん何%かは自我なんですけど、それを出さずにフラットに付き合うみたいな感覚を学びました。

──先ほどライブではプロデューサーであるもうひとりの自分に見せている感じとおっしゃっていましたが、改めて、TOOBOEの世界観はどうありたいと思われていますか?

TOOBOE やっぱり自分がいちばん変人であればいいかなと思います。ライブやフェスでもTOOBOEが出た瞬間に“こいつは変なことやりそうだな”って思ってもらいたいですし、“こんな変人が楽しく生きてるのなら自分もがんばろう”ってみんなが思えればいいですよね。ミュージシャンってある種特殊な、いわゆる憧れの職業ではあると思うんですけど、それに就けたから偉いとかいう気持ちは僕には全然なくて。生きてるだけで最高ですっていうのを自分を含めて共有できたらいいなと思っています。

──10代の頃のTOOBOEさんに今の姿を見せてあげたいですね。

TOOBOE 小中高の頃の自分が好きになりたかったアーティストを今自分が演じているような感覚があるので、別人として少年の自分が出会ってもはまってくれたらうれしいですね。まぁ、変な人がいないと世の中面白くならないと思うので、変なところを無理に普通になろうとしないでって感じですね。

──10月にはTOOBOE主催の対バンイベント「交遊録Ⅲ」が東名阪で開催されます。

TOOBOE 去年から開催している対バンシリーズの第3弾です。今回は対バンに大阪公演にネクライトーキー、名古屋公演に紫 今、東京公演にFAKE TYPE.が出演します。これは元々僕があまりライブをしてこなかったので、この人のライブを観たい、勉強したいという思いで声をかけてきました。過去のライブもすごく楽しかったし、刺激を受けて自分のライブがパワーアップする感覚もありました。10月の3組は僕らも全然予想がつかないので本当に楽しみです。

──11月には大学の文化祭などへの出演も決まっています。

TOOBOE 文化祭ってすごい好きなので、いつも前のめりです(笑)。学生に会うのも楽しくて。僕らが出ることでバンド志望の子たちのモチベにも火がついてプロになってくれたりしたらすごいうれしいなとか思ってます。


TOOBOE(トオボエ)

https://www.sonymusic.co.jp/artist/tooboe/

音楽クリエイター「john」によるソロプロジェクト。2022年4月に配信シングル『心臓』でメジャーデビュー。続く『錠剤』がTVアニメ『チェンソーマン』第4話のEDテーマに起用され、話題に。2024年6月配信『痛いの痛いの飛んでいけ』のMVは自身最速で1000万回再生を突破


Digital single『きれぇごと/プラスチック』
※配信中
https://tooboe.lnk.to/kireegoto

<TOOBOE「交遊録Ⅲ」>
10月17日(木) 大阪・Yogibo META VALLEY
GUEST:ネクライトーキー

10月18日(金) 愛知・名古屋CLUB QUATTRO
GUEST:紫 今

10月23日(水) 東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)
GUEST:FAKE TYPE.

<FULL POWER FEST'24 出演>
11月3日(日) 広島・広島マリーナホップ特設会場

<筑波大学 第50回雙峰祭 出演>
11月4日(月・祝) 茨城・筑波大学 UNITEDステージ(石の広場)