FLYING POSTMAN PRESS

にしな、次ツアーに向ける思い

劣等感も生きる上で必要かもしれない

──11月にはツアー<ZEPP TOUR 2024「SUPER COMPLEX」>も控えています。毎回ライブにテーマ性があって作り込まれた世界が楽しいところですが、ツアーはいつもどのように作っていますか?

にしな ライブの根本は、ステージがあってそこに立って歌う姿がかっこいいというミュージシャンがいちばん強いと思っているので、そうあり続けたいという気持ちを持っています。その上で、見せ物として面白い部分は欲しいので、視覚的な面白さや音以外の五感の部分の仕掛けや表現がないか、毎回考えて挑んでいます。例えば<クランベリージャムをかけて>ツアーの時はごちゃごちゃした感じがいいなと思って、自分がライブ中に動いて手に取れるものがあったり、行動と結びつけられるセットがいいと思ったんです。その頃グランジっぽい雰囲気にハマっていたので、ヴィンテージっぽい家具を置いて家みたいにしようかな、扉があって、演出として扉に文字を書くのはどうだろうみたいな感じで、ワワワッと出たアイデアをチームに相談して、作り上げました。

──その時々のにしなさんのモードが入っているんですね。<Feeling>ツアーの時はどうでしたか?

にしな <Feeling>の時はやり過ぎないことも大切モードというか。感じるままにいきましょう、みたいなところから白いテーマがいいな、ステージだけじゃなく自分たちの衣装も白かったらいいな、みたいな感じで作り上げていきました。ステージのセットの後ろに何か象徴的なものがあったらいいんじゃないかということで、本当はお花とかがあって根っこが下まで降りてきていたら面白いんじゃないかと考えたのですが、さすがにそれは現実的に難しくて。いつもこういうことをやりたいというアイデアをバーッとスクショした画像などで共有して進めています。

──次のツアーはテーマが<SUPER COMPLEX>。こちらはどんなコンセプトなのでしょうか。

にしな ライブは日常の嫌なことを忘れられる楽しい空間にしたいな、ネガをポジにしたいなと思っていて。<SUPER COMPLEX>って劣等感の塊みたいに聞こえるワードだと思うんですが、化学用語で「ミトコンドリアの呼吸鎖」を意味していて、生命維持とかDNAを作るために必要なものを指すらしいんです。それってすごく面白いなと思って。そこを繋げたら、自分が劣等感を感じていることも、本当は生きる上ですごく必要なことかもしれないし、それって素敵なことなんじゃないかなと思ってタイトルにしました。

──そういう意味があったんですね。コンプレックスって誰もが持っていると思いますが、にしなさんはどう向き合っていますか?

にしな すごく難しいですね。気にし過ぎたり、“いや、どうでもよくない?”って思ったり、行ったり来たりしています。“自分は嫌いな部分も人から見たら素敵なのかもしれない”と今は以前よりは思えるようになったし、気にする時もあるけど、一瞬違う視点に持っていけるようになったというか。昔なら“ダメダメダメ”だったけど、“それもいいかも”みたいな瞬間は増えて、“そういう自分も好き”となれるようにはなったと思います。

──それって音楽をやっているから変わってきた部分でもありますか?

にしな あるかもしれないです。ファンの方とか、音楽をやっていることで出会ってくれた人が自分を好きでいてくれるってすごく幸せなことだなと思いますし、そう思うと自分に対しても“いいな”と思えるし、みんなには「そのままで素敵だよ」って言いたいし。自分が言うってことは自分にもそう思えないと言えないと思うので、そういう意味でもそう思える自分になりたいなと思っています。

──次のツアーはみんが抱えてきたたくさんのコンプレックスが昇華されていく空間になりそうですね。

にしな それが裏テーマではあります。コンプレックスを抱えながらさらけ出していくというのが大きなヒントになるなと思っていて、自分も自分の歌だったり人間性をパッと開いて届けたいし、それと同時にみんなにもやってほしいという気持ちがあるんです。私もシャイで、お客さんもお互いシャイだから、どうやったら開放し合えるんだろうと考えた時に、前回だったら白だったんですが、今回は黒っぽくしようと思って。もちろん太陽の下で、「私はありのままで最高です」と言えたらいいですけど、それができなかったとしても暗いところだと自分を出しやすかったりするかなと思うので、黒いテーマでお互いさらけ出して一緒に楽しめたらいいなと思っています。今は純粋に自分とみんながどんなステージを作るのか、お客さんがどんな顔をしてくれるのかがすごく楽しみです。