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『シサㇺ』主演・寛一郎は考える

アイヌと和人の歴史を描く映画『シサㇺ』
寛一郎が語る映画の魅力と思考の大切さ

 江戸時代前期を舞台にした映画『シサㇺ』が9月13日(金)より公開へ。本作で描かれるのは、アイヌの人々の精神性や文化に触れて共鳴していく若き松前藩士の姿。未熟な若者が新たな世界を知り、変わっていく様子を丁寧に描いた青春映画であり、時空を超えた遠い物語のようでいて、今を生きる人にとっても他人事ではないと思える物語でもある。自分とは異なる人々や異文化を受け入れること、未来を信じてあきらめずに行動すること。その大切さが、物語を楽しむうちに自然と伝わってくる。

 主人公の松前藩士・高坂孝二郎を演じるのは寛一郎。20代後半としては抜きん出て時代劇への出演経験が豊富な俳優に問いかけた。時代劇の面白みや難しさはどんなものなのかと。ひとつの問いから寛一郎は考えを巡らせていった。

写真:徳田洋平 スタイリング:坂上真一(白山事務所) ヘアスタイリング&メイクアップ:KENSHIN 取材・文:佐藤ちほ



アイヌの人々は多様性を許容する

──映画『シサㇺ』ではアイヌの人々と和人の対立の歴史を描いていますが、撮影に入る前はアイヌについてどれだけ知っていましたか。

寛一郎 小学生の頃、文化やアートを体験する学習塾のようなところに通っていて、そこの課外授業の一環で、2週間ほどアイヌの集落に滞在させていただきました。だから、アイヌの存在は子どもの頃から知ってはいたんです。でも、深く知っていたわけではなかった。今回の映画のお話をいただいた後、アイヌの文化や風習を書き記した本や文献に目を通す中で改めて、アイヌについて知っていくことになりました。

──感銘を受けたアイヌの文化や風習もありましたか。

寛一郎 アイヌの人々は多様性を当たり前に許容する、受け入れられる人々だと感じました。それは、人に対しても自然に対してもそう。懐の深い人たちだと思いました。今日僕らが求められている生き方を、アイヌの人々はずっと昔から当たり前にしてきた。その事実に感銘を受けました。

──本作の主人公の孝二郎を演じる上で、その学びが役に立つこともあったのでしょうか。

寛一郎 孝二郎は松前藩士で、物語の中でアイヌの人々と出会い、その文化や風習を知っていくことで変わっていくという役で、映画を観る人に近い視点を持った人物なんです。江戸を生きる人物でありながら、今日を生きる僕らとリンクするというか。そういう役ですから、撮影前にアイヌについて学んだことが孝二郎を演じる上で役立ったかと言えば、それはなかったのかなと思います。もしかしたら、撮影前にアイヌについて学ばなくても良かった役どころかもしれません。ただ、僕は外側から入るタイプなんです。役をもらったら、まずはその役の背景にあるものをいろいろと調べてみる。その上でこれまで自分が経験してきたことや、自分が知っている感情がどこかにないかと探してみる。自分の経験や感情をどこかで一致させながら演じていくことが多いんです。今回の映画で言えば、“外側から入る”というのは、ある程度アイヌや松前藩について知ることだったのかなと思います。

──結果、自分の経験や感情と一致する何かは見つかりましたか。

寛一郎 新しい文化に触れて自分が変わっていったり、良かれと思ってしたことが相手に悪意と受け止められてしまったり。そういうことは僕にも経験があります。江戸時代を生きる武士という設定ですが、共感するのが難しい人かと言えばそうではなかったです。

──また、自然の描写が素晴らしく、その画の力に圧倒される映画だとも感じました。大部分を北海道の白糠町で撮影されたそうですね。

寛一郎 確かに白糠町は自然のパワーがすごかったです。東京で暮らしていると、ここまで自然が豊かな場所に行く機会はなかなかないので、純粋にうれしかったです。約1カ月撮影していく中でどんどん自分が自然と馴染んでいく感覚があって。そういう感覚を知ることができたのも僕にとっては大きなことでした。