CINEMASPECIAL ISSUE
リンクレイター×グレン・パウエル
リンクレイター×グレン・パウエル ニセの殺し屋の嘘みたいな実話に基づく 笑いとスリル、ロマンスに満ちた物語
リチャード・リンクレイター監督がグレン・パウエルとタッグを組んだ『ヒットマン』が9月13日(金)より公開へ。主人公は、殺し屋のフリがうまい男。警察のおとり捜査に協力してニセの殺し屋に扮し、数多くの逮捕を実現させた実在の人物に“ざっくり”基づいて作られている。リンクレイター×グレン・パウエルという間違いない組み合わせから、秀逸なクライム・コメディが生まれた。
リンクレイターの幅広い創作
『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離〈ディスタンス〉』(1995)、『ビフォア・サンセット』(2004)、『ビフォア・ミッドナイト』(2013)から成る珠玉の恋愛3部作や、大ヒットコメディ『スクール・オブ・ロック』(2003)、12年かけて同じキャストで撮り続けるという前代未聞の手法で映画ファンを感嘆させた名作『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)などを手がけてきた名匠リチャード・リンクレイター。その最新作『ヒットマン』は、『トップガン マーヴェリック』(2022)で脚光を浴び、今年は大作『ツイスターズ』がヒットするなど勢いに乗るグレン・パウエルがプロデュース、主演、そして共同脚本を務めるクライム・コメディ。おとり捜査官としてニセの殺し屋に扮し、70件以上の逮捕に導いた実在の人物をモデルに、捜査で出会った殺人の依頼人に恋したことから思いがけない事態へと追い込まれていく様子を、スリリングにセクシーに、そしてコミカルに描いていく。
グレン・パウエル演じるゲイリー・ジョンソンはニューオーリンズで2匹の猫と暮らし、大学で哲学と心理学を教える一方でニセの殺し屋に扮し、依頼殺人の捜査に協力していた。普段は冴えないゲイリーだが、いざ現場に立てば顧客=殺人の依頼人に合わせてさまざまなタイプの殺し屋になりきり、ゲイリーを本物と信じて疑わない依頼人たちを次々と逮捕へと導いていく。そんなある日、アドリア・アルホナ演じるマディソンに支配的な夫の殺害を依頼され、ゲイリーはモラルに反する領域に足を踏み入れてしまうことになる。
リンクレイターと言えば、『ビフォア~』トリロジーや『6才のボクが、大人になるまで。』に見られるような、時間を自覚的に描く唯一無二のストーリーテリングや、哲学的でウィットに富んだ会話を思い浮かべる映画ファンが多いだろう。その創作は総じて挑戦的で芸術性の高いものだが、同時にさまざまなジャンルのエンタテインメント性の高い映画も多く手がけている。ノワール、ロマンス、スリラー、強盗、コメディとさまざまなジャンルを巧妙に組み合わせつつ描いた本作は、後者の路線の発展系。改めて、リンクレイターの幅広さを示す映画と言える。
脚本家で主演俳優、グレン・パウエル
『トップガン マーヴェリック』で注目されて以来、日本でも“グレパ”の愛称で人気を博すグレン・パウエル。今や日本における彼の知名度は、ブラッド・ピットやレオナルド・ディカプリオ、ティモシー・シャラメといったトップスターに並ぶ勢いだ。そんなグレン・パウエルの魅力が本作に凝縮されている。 まず注目したいのが、脚本家としてのグレン・パウエル。今回、共同で脚本を手がけたリンクレイターとグレン・パウエルは、執筆前に実際の嘱託殺人事件を徹底的にリサーチ。実際の監視カメラの映像も多数視聴し、人を殺そうと考えている人間のリアルな話し方を捉え、とりわけ印象的だったいくつかの言葉は実際に本作の台詞として採用したという。主人公のゲイリーが扮するニセの殺し屋が殺人を依頼されるシーンにあるのは、スリルばかりではない。殺人を殺し屋に依頼しようとする人は時折思いがけない言葉を発し、その場にふと笑いをもたらすことも。なんとも人間らしく、“生きた”会話がそこにある。
もちろん、俳優グレン・パウエルの魅力もたっぷり味わえる。冴えない大学講師のゲイリーに始まり、さまざまな殺し屋に扮するグレン・パウエル。キャラクター・ウィッグ&メイクアップデザイナーのタラ・クーパーは、リンクレイターとグレン・パウエルと綿密に話し合いながら、約40種の殺し屋の変装を考案。それぞれにふさわしい服装やアクセント、アクセサリー、おおまかな人柄を設定していったという。もちろん、40パターンすべてが実際の映画に登場するわけではないが、ゲイリー本人に加え、5人の殺し屋をグレン・パウエルは見事に形にしている。マディソンに出会い、恋をするのは物腰柔らかでセクシーな殺し屋ロン。そのほかにも、アメリカ南部の男風の殺し屋タナーや東欧系で黒革のトレンチコートを着た殺し屋ニコ、奇妙なアクセントを持つ冷酷な殺し屋ディーン、スーツにネクタイの勤め人風殺し屋X。ルックスが変化するたびに人柄や言葉のアクセントも変化させ、“別人”になるグレン・パウエルの演技力にも注目を。
“新しい自分”を見つけ出す物語
リンクレイター監督は本作を、「アイデンティティについての映画」と言い表している。主人公のゲイリーはさまざまな殺し屋のキャラクターを自ら作り上げ、演じていく。その姿を観ながら、ふとこんな疑問が浮かぶかもしれない。彼が“作ったキャラクター”は本当に作ったものなのか、それとも彼自身の中にそもそもあったキャラクターなのかと。そう考えを巡らせるうちに本質に辿り着くはずだ。確かにリンクレイターの言う通りで、本作は“自分探し”の物語であり、その点においてはゲイリーに加え、マディソンも当事者なのだと。アイデンティティを探求する中でふたりが見つける“新しい自分”とは――。
『ヒットマン』
2023年/アメリカ/115分/PG-12
監督 | リチャード・リンクレイター |
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脚本 | リチャード・リンクレイター グレン・パウエル |
出演 | グレン・パウエル アドリア・アルホナ オースティン・アメリオ レタ サンジャイ・ラオ ほか |
配給 | KADOKAWA |
※9月13日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国公開
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