FLYING POSTMAN PRESS

芸人で漫画家──矢部太郎の世界へ

撮影 吉次史成

芸人で漫画家
矢部太郎、初の大規模展覧会

 お笑い芸人でありながら、漫画家としても創作を続けるカラテカ・矢部太郎。2017年に刊行し、手塚治虫文化賞短編賞を受賞したデビュー作『大家さんと僕』(新潮社刊)から、今年3月に発表した最新作『プレゼントと僕』(新潮社刊)まで、矢部が描く漫画の世界を辿る展覧会が、東京・立川のPLAY! MUSEUMで開催されている。

 本展では、原画をそのまま展示するわけではない。”漫画を読むために特化した空間デザイン”が特徴だ。80歳を超す大家さんと矢部の出会いから別れまでを描いた名作『大家さんと僕』の展示空間では、作品が1コマずつ並び、ふたりの軌跡をゆっくりと鑑賞することができる。

 さらに、大家さんが来場者の「帰宅」をお出迎えするインスタレーションや、ふたりの窓越しのコミュニケーションを描いた「ライトとおやき」の紙芝居上映など、漫画の世界を体感できる仕掛けも。また、多くの人々の涙を誘った最終話「大家さんと僕 これから」の空飛ぶふたりも今回特別に映像化。ふたりが交わす最後のことば、別れの中にも光る大家さんのユーモアが来場者の心にじんわりと染みわたる。

 そして本展では、絵本・紙芝居作家やべみつのりを父に持ち、父の家族絵日記「たろうノート」の主人公<たろう(=ぼく)>でもあった矢部の幼少期にもスポットを当てている。父の勧めで作り始めた「たろうしんぶん」や「たろうノート」の現物を初公開するほか、父と自身の関係性を現在の矢部が見つめ直し描き、2021年に発表した『ぼくのお父さん』(新潮社刊)も紹介。東村山市に住んでいた当時の、親子の暮らしぶりを体感する映像インスタレーションも展示される。子育てや家族の在り方に迷いが生じたり、老いていくことに動揺したり。そんな矢部家の人々の姿から、心を解きほぐす手がかりを得られるはず。

 何気ない日常も、ありのままの自分も、なんだか愛しく思える。どんな人にも寄り添う矢部漫画の世界を、ページをめくるのとは違う方法でじっくり味わうことができる展覧会。爽やかな天気が続く初夏。お散歩がてら、矢部太郎のやさしい創作の世界でひと息ついてみては。

PLAY! MUSEUM「ふたり 矢部太郎展」会場写真  撮影 吉次史成


「ふたり 矢部太郎展」
会場 PLAY! MUSEUM(東京・立川)
会期 4月24日(水)〜7月7日(日)
休館日 原則無休
開館時間 10:00~17:00(土日祝は18時まで/入場は閉館の30分前まで)

「ふたり 矢部太郎展」招待券を5組10名様にプレゼント

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締切:5月31日(金)